第8話 ドッペルゲンガー



コツコツコツ



夜道に私の足音が響く。

私はスマホを見た。


午後9時45分


今日も残業になってしまった。


「もう。ウチの会社もテレワークくらいすれば良いのに」


私は1人グチをこぼした。

しかし、あのケチな社長がそんな事はしない事も判っていた。

何より、この地方都市では新型コロナもそれほどの猛威は振るっていない。

私はため息をついた。


「明日も残業かなぁ。まぁ、残業手当は出してくれてるだけマシか」


私は呟きながら最寄りの駅を目指した。


「あれ ? 」


気がつくと私の前を1人の女性が歩いていた。

今まで、あんな人いたっけ ?

その女性は私の目の前、10mくらいの所を歩いている。

それなのに、その人の靴音は聞こえない。


そして、なにより。


その人は私にそっくりだった。

背格好もそうだけど、着ている服も今の私の服とそっくりだった。


ぞくり


私の背筋に悪寒が走った。

見てはいけないものを見てしまったような気がした。

怖くなった私は脇道に入った。

終電まではまだ時間がある。

少し遠回りをする事にした。


「大丈夫、大丈夫。きっと見間違いよ。残業が続いてるから疲れてるだけよ」


私は自分に言い聞かせるように歩いた。

この脇道は、さっきの本通りより街灯が少ない。

すっかり、心細くなってしまった私は少し足早になっていた。

早く明るい場所に行きたい。

私はそれだけを考えながら歩いていた。


やっと本通りの明かりが見えて来た。

ホッとした私の前にいきなりさっきの女の人が現れた。


「きゃあぁぁぁ!」


その人は私と同じ顔をしていた。




つづく



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