四章 その⑤

 隕石の先端で仁王立ちのまじょっこは、自分の方へと向かって来るのがユーシャであると確認してから戦闘態勢を取りました。これがオヨメの方が来るようでしたら、殴り飛ばした隕石の方へテレポートする算段でした。その為にステッキで殴り付けた時に、精密テレポート用のマーキングも打ち込んでありました。

「ユーシャなら何とかなるでしょ☆」

 これはまじょっこがユーシャを過小評価しているわけではありません。ただオヨメが規格外なだけなのです。そのオヨメに比べればユーシャの相手をする方がマシというものです。

「私か隕石か……。どっちを狙って来るかな……?」


「とかきっとまじょっこは考えてるはずカル」

「ここは一つ、景気良く一発でかいのぶちかましてやるか」

 ユーシャもオヨメと同様、隕石の落下線上で待ち構えます。

「喰らえ! 光龍剣こうりゅうけん!」

 星剣ロストホープから超特大の光の龍が出現し、隕石へと向かって猛進して行きます。

 光龍はそのあぎとを大きく広げ、隕石を一飲みにしようとしていました。

 まじょっこと隕石どちらかではなく、どちらも一度に片を付ける気です。

「うにょっ!?」

 いきなりの大技にまじょっこは意表を突かれていましたが、動揺も一瞬。直ぐに魔法を繰り出します。

「食べないで!」

 えいやっ! と前に突き出したステッキからでっかいピンクの☆《ほし》が飛び出します。

 盾の様に隕石の前に現れた大きな☆は、隕石に押される様に一緒に前に進み、そのまま光龍の顎の中へと突っ込んで行きます。

 激しくぶつかり合う光龍と☆は、周囲に激しいスパークを撒き散らします。

 地上でぶつかり合っていれば、とんでもない被害が出ていた事でしょう。

 光龍と☆は拮抗している様に見えましたが、隕石の質量に押される☆が徐々に光龍を中から引き裂いて行っていました。

 しかしまじょっこは悠長に☆が光龍を打ち砕くのを待ってはいません。

「止めだよ! 消えちゃえーい☆」

 それっ! とステッキを掲げます。

 今度はステッキからピンクの光線が放たれます。

 ピンクの光線は☆に命中。☆が強くピンクに輝き出すと、☆型・サイズに増幅されて光龍をいとも容易く撃ち抜いてしまいました。

 その先に居たであろうユーシャとカルちゃんも呑込む、凶悪なまでの反撃の一撃でした。

 しかしその瞬間、ゾクッとまじょっこの背筋に悪寒が走りました。

「ひゃわっ!」

 一瞬の躊躇もなく、まじょっこは悪寒に従って慌ててその場にしゃがみます。

 間一髪。

 しゃがんでいる最中のまじょっこの頭上を星剣が通り過ぎて行きました。

 高さ的に、立っているまじょっこの首の位置でした。

「ちっ。避けられたか」

 光龍と☆がぶつかり合っている間に、ユーシャはまじょっこの背後に回り込んでいました。

「ユーシャ! あんた私を殺す気かっ!」

 素早く立ち上がったまじょっこは、怒鳴りながらユーシャと距離を取ろうとしますが、ユーシャがそれを許しません。

「世のため人のため。仲間の暴挙を止める為だ。泣いてまじょっこを斬る!」

「笑いながら言ってちゃ説得力ゼロだわ! 泣いてる振りをする努力くらいしろ!」

 馬鹿な会話をしながらも、二人は激しく魔力の火花を飛び散らせています。

 やはり接近戦ではユーシャに分があるのか、ユーシャが星剣で激しく攻め立てています。まじょっこはそれを魔法で作った盾で防ぎながら、星剣の強力過ぎる威力で隕石が壊れない様にもしなければならず、常に守勢に回らざるを得ず反撃に出る機会がありません。

「大人しく降参しろ。このまま時間が経てば有利になるのはこっちだぞ」

「うっさいうっさい! ばーかばーか! 絶対やめるもんか!」

「何をそんなに意固地になってんだ。歳を考えろよ。ガキじゃあるまいし」

「ハア? 見ての通りの十二歳ですけど!」

「何回……いや、何百回目のだよ」

「ブッころ☆」

 バヂィィィィィィィィィィィ!

 光の刃と刃が激しくぶつかり合っていました。

 ユーシャの挑発に乗ったまじょっこが、ステッキを自身の魔力で覆い尽くし一振りの剣の様に変えて斬り掛って来たのです。

 まじょっこは魔法少女なので、もちろん魔法が得意です。しかし先程からユーシャと近接戦闘で渡り合っている通り、接近戦でもその強さが損なわれる事はありません。伊達に永年魔法少女をやっている訳ではないのです。体術に加えあらゆる武器の類にも精通していました。

 達人もかくやという鋭い踏み込みからの一撃でしたが、ユーシャに対処できない程のものではありません。

 躱すもいなすも可能でしたが、ユーシャはその一撃を敢えて受け止めました。

 ユーシャの今の目的はまじょっこを倒す事ではないからです。

 あくまでも隕石の完全破壊がその目的です。まじょっこと戦っているのはそれが必要だからに過ぎません。

 そもそもまじょっこに、この隕石の上で馬鹿みたいな威力の一撃を使わせる為に挑発していたのです。分かり易い攻撃魔法であれば回避もしたでしょうが、まじょっこが選択したのは魔法剣による肉弾戦です。星剣と星剣に打ち合えるだけの魔力が篭められたまじょっこの魔法剣、両者の激突が周囲に甚大じんだいな破壊をもたらすのは必然でした。

 激しくぶつかり合う二人の剣から生じる破壊の奔流が、容赦なく周囲を飲み込んで行きます。

 そして決定的な破壊がもたらされるまでに、そう時間は掛かりませんでした。

「あっ!」

 とまじょっこが気付いた時には既に状況は決定的な状態にまで進行していました。

 隕石には至る所にヒビが入り、脆い所から既に崩れ始めてしまっています。このままでは大気圏の突入に耐える事は出来ないでしょう。

「今更気付いた所でもう遅い! 止めだ!」

 ユーシャがこの機を逃す筈がありません。

 出力を僅かに上げた星剣で、隕石に止めを刺しに来ました。

「やらせるもんかー!」

 剣で受けるのは駄目だと冷静になって気付いたまじょっこは、星剣の威力全てを受け止めるべく渾身の魔法障壁を展開します。

「あめぇ!」

 ユーシャは構う事無く星剣を魔力障壁に叩きつけました。

 威力を引き上げられた星剣の力が魔力障壁全体に伝わり、抑えきれない分が魔力障壁から溢れ出し周囲にその暴威を振るいます。

「なっ!? どうしてっ!?」

 先程まで幾度となく打ち合っていただけに、頭に血が上っていたとはいえ、その力は読めていました。まじょっこが張った魔力障壁は、その力を十分に受け止め切れるだけの強度があったはずでした。

 しかし現実に、まじょっこの目の間で溢れ出した星剣の力が、隕石に引導を渡していました。

 次々とひび割れ、砕け散り、小さな破片となって飛び散って行く隕石の欠片。それらは全て大気圏で燃え尽きてしまいます。比較的大きな破片もまだ幾つも残っていますが、それも砕け散ってしまうのは時間の問題でしょう。

 ユーシャは限りなく力を抑えた星剣でまじょっこと斬り結んでいたのです。

 まじょっこも、それが星剣のフルパワーでない事は分かっていましたが、瞬時に微調整が利く様なモノだとは知らなかったのです。星剣は星さえ斬り裂く剣ですので、微妙な力加減というのは言う程簡単な事でありません。海と同じ大きさのプールを傾けてコップに水を注ぐ様な馬鹿げた難易度なのです。しかしユーシャはそれをいとも簡単に──やっている様に見える──やって見せていました。

(このままじゃ……)

 遠く離れたもう一方の隕石が粉と化すのも見えていました。

 オヨメ相手に無防備な只でかいだけの隕石ではさもあらんと、まじょっこに何の驚きもありません。ただこれで状況は更に悪くなりました。オヨメがフリーになったからです。

 もういささかの時間的猶予もありませんでした。

(え~い! もう一か八かだ!)

 まじょっこは魔法障壁を解除すると同時に、短距離テレポートでユーシャの前から転移します。

 急に支えを失った星剣は、篭められた力のまま振り下ろされます。

 振り下ろされた星剣からほとばしった衝撃波を阻害するものはありません。ユーシャの前方に存在していた全ての隕石の欠片が、その大小を問わず全て跡形も残さず消滅してしまいました。

 ユーシャは消えたまじょっこは後回しにして、残った隕石の処理に取り掛かるべく振り返りました。即時発動型のテレポートは短距離型で、そう遠くには行っていない事は分かっていましたし、どうせ攻撃を防ぎに出て来るだろうと読んでいたからです。

 しかしその読みは外れました。

「あっ」

 まじょっこがステッキを大きく振り被り、僅かに残った小さな隕石の欠片──直径およそ百メートル程度。一つの大都市が消滅し、一五〇〇キロ先まで揺れる可能性があります──を全力全開、魔力もガンガンに篭めた一撃でブッ叩きました!

「いっけええええええええええええええええ!」

 ステッキに篭めた魔力で隕石を加速、更に守備力上昇もモリモリに盛ってやりました。

 大気圏での断熱圧縮にもビクともしないでしょう。サイズ、速度、角度、全てを維持したまま地表に衝突する事は確実です。守備力の強化がそのまま、隕石の攻撃力へと繋がっていました。

 まじょっこがブッ飛ばした巨大隕石の欠片は、小さいがゆえにユーシャでも追い付く事は不可能な速度になっていました。流石のユーシャにも地上に被害を出さずに止める手立てはなく、隕石が大気圏に突入して行くのをただ眺めている事しか出来る事はありませんでした。

 もうまじょっこと戦闘する意味も必要もなくなりました。

 ユーシャも決して油断していた訳ではありません。まじょっこ相手に油断など出来るはずもないからです。ただ、「そこまでするか!?」というのが正直な感想でした。

 何が彼女をそこまでさせるのか。ユーシャには皆目見当も付きません。

「よっしゃあああ! 勝った──」


 その様子を離れた場所で呑気に眺めている奴が一人居ました。オヨメです。

 自由落下に身を任せながら、自分の分をさっさと済ませたオヨメはユーシャとまじょっこの戦闘を静観していました。

「あー、アレはまずいわね」

 完全に衝突コースに入った隕石を見て、オヨメは呟きます。

「まじょっこには悪いけど、ドレン様に仇為すモノは全て排除させて貰うわ」

 オヨメは宙を蹴って落下して行く隕石へと飛んで行きました。


 勝利を確信し、ユーシャの目の前まで来て一緒に落ちて行く隕石を眺めていたまじょっこが、これ見よがしにガッツポーズを決めようとしたその時でした。

 オヨメが──

 横から──

 大気圏で凄まじい熱を発している隕石に向かって飛んで行くではないですか!

 落下する隕石を超える速度で突っ込んで来るオヨメに、まじょっこも気付きました。

「オヨメええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 その絶叫は「止めて!」にも聞こえる、まじょっこの悲痛な叫びでした。

 オヨメと隕石、二つが交差すると同時に一瞬強い光が放たれたかと思うと──


 ドゴォォォォォォォォォン!


 と凄まじい轟音と衝撃波を発生させながら、隕石は大爆発を起こしました。

「ああぁぁぁ……私の苦労が……」

 がっくりとまじょっこは、いっそ憐れな程に肩を落としてしょげかえっていました。

「いやーオヨメも連れてきておいて正解だったな。助かった助かった」

 気楽そうに笑うユーシャに、まじょっこは逆に怒りが湧いて来ていました。

「もう! もうっ! あんたがあんなの連れて来るから! 全部上手く行きそうだったのにっ!」

「うわっ。逆ギレすんな。お前の事情なんか知らねーよ」

「うう……うー!」

 泣くのかなと思ったら、むしろ暴れ始めました。

 とは言っても本気のソレではありません。子供が駄々を捏ねている様なもので、まじょっこのステッキには魔力が一切通っていません。

 そんなただのおもちゃの様なステッキでユーシャをポカポカと、腹立ち紛れに叩いていました。

「はいはい。話くらいは聞いてやるから。取り敢えずこっち来い」

 未だポカポカゲシゲシと、蹴りまで加えて来るまじょっこの攻撃を無視して、ユーシャは首根っこを掴んでステンとカルちゃんの待つ光球の方へと戻って行きます。

 途中、危険なサイズの隕石の欠片が落ちない様に対処していたキョウソに声を掛けます。

「先に戻ってるぜ」

「分かりました。こちらももう直ぐ終わりますから、中で待っていて下さい」

「おう」

「ところで、オヨメさんは回収……」

「「しなくても大丈夫だろ(ですね)」」

 一瞬だけキョウソはオヨメの心配を、仕掛けただけでした。

「薄情者ねー」

「「お前(貴女)が言うな!」」


「カルちゃんの裏切りものー」

 光球の中へと連行されたまじょっこは、開口一番にカルちゃんへの恨み節を口にします。

「今回はマリーが悪いカル。良い薬になったカル。そもそもマリーは……」

 くどくどくど。カルちゃんのお説教が続くなか、ユーシャはまじょっこの事はカルちゃんに任せステンの傍へと寄って行きます。

「まあ、ざっとこんなもんだ」

「大分危なかったみたいだったけど? それとアレが?」

「そ、今回の隕石騒動の首謀者で一応俺達の仲間でもある。まあ、素人目には危ない様に見えたかもしれんが、計算外も計算の内ってな。最終的に達成してればいいのさ」

「ふーん……。まあでも、凄かったのは認める。勇者っていうのは本当に凄いな」

「いや、俺はまだ勇者じゃないぜ。聖剣は受け継いでるけどな。勇者の資格を取るのは大変なんだよホント……」

「へー……」

「勇者連盟に加盟してる国の内な、理事国一ヶ国と加盟国二ヶ国以上に勇者と認定されないと駄目なんだよ。そもそも国に勇者として認定されるのにはな、全領主の三分の二以上の推薦を受け、国民の過半数の賛成を得ないといけないんだ。分かるだろ? この大変さが!」

「お……おう……」

「そこでだ、お前に王様になって貰ってその辺良い感じにして欲しい訳だよ。な!」

「……な! じゃねーよ! オレは王様になんかなりたくないんだっ!」

「そうは言っても、王様にならなきゃ死ぬだけだろ? だったらなるしかないだろ。いいじゃん王様。なっちゃおうぜ」

「い……嫌だ! ならない!」

「何故そこまで嫌がる! 残ってる王子様をぶっ殺すだけだろ!」

「それが嫌なんだよ!」

「ははは。ステンは変な奴だな」

「変なのはお前だ! 簡単に殺すとか言うな! 人の命を何だと思ってんだ!」

 涙目になってステンがユーシャに反論している所に、キョウソがぬっと顔を出します。

「お邪魔しますよ」

 外の片づけが終わったのでしょう。今キョウソが光球の中に戻って来ました。

「おい! あんたコイツの仲間なんだろ! こいつに何とか言ってくれよ!」

「はて? 何がどうしました?」

「いやなに、地上に帰ったらあの勝った方の王子様殺してお前が王様になればって話をしてたんだよ」

「ああ。継承戦争の話でしたか。あなたが生き残りたいのであれば、そうするしかないでしょう。ユーシャさんに頼めば簡単ですよ。簡単簡単」

「お前……ザウル様の味方だろ? そんな事言っていいのか?」

「私はザウル殿下に雇われているだけですよ。対教会用の要員としてね。ですので、別にザウル殿下の味方と言う訳ではありませんし、もう報酬は頂いていますので、正直誰が王様になろうが別に構いません。なんなら私もお手伝いしましょうか? ユーシャさんを勇者にするのも私の目的の一つですから」

 その理由はと言えば、勇者の相棒という圧倒的な名声が得られるからに他ありません。

 ひいてはその名声が、後の布教に大いに貢献する事は言うまでもないでしょう。

「クソッ! あいつもあいつなら、仲間も仲間かっ!」

 平凡な人生を送って来たステンの味方はどこにも居ない様でした。

 居ないと言えばそう言えば、まじょっこの姿がない事にキョウソが気付きました。

「ところでユーシャさん。まじょっこさんが居ない様ですが、どこにやったんですか?」

「うん? まじょっこならそこでカルちゃんに説教喰らって……って、いねぇ!」

 ユーシャが慌てて周囲を見回すと、光球の外、少し離れた所に暴れるカルちゃんをむんずと鷲掴みにして飛び去っていく最中のまじょっこを発見します。

「あんにゃろう! 油断も隙もねえ!」

「ユーシャさんが油断も隙もあり過ぎたんでしょう」

「キョウソ! 追え!」

「いや。駄目ですよ。光球の場所を下手に動かすとステンさんが死んでしまいますよ?」

「あ! そうか! しゃーない。自力で行くか」

「まあ強化くらいはしておきましょう」

「助かる!」

 キョウソの秘術によって強化されたユーシャは短く感謝を告げると、まじょっこを追って飛んで行きました。

「あれ、大丈夫なのか?」

「まあ……大丈夫でしょう。ユーシャさんなら何とかしますよ。多分ね」

「多分なのか……」

「あっちはユーシャさんに任せて、こっちは地上に戻りましょう。もうここに用もないですしね」

 キョウソがそう言うと、光球は地上に向けて凄い速さで降下していきます。

 光球の中には何の変化もないので実感はありませんが、周囲の景色の流れだけが、その速さを物語っていました。


「チッ! もう追って来やがった!」

「マリー。言葉遣いが汚いカル。ちゃんと魔法少女らしく可愛く喋らなきゃ駄目カル」

「誰も聞いてないんだからいいじゃん」

「そういう甘えが駄目なんだカル。ボロが出る原因カル。常に魔法少女たれ。カル」

「はいはいはいはい。わかりましたー」

「『はい』は一回カル。子供じゃないんだからちゃんとやるカル」

「はぁい。ちゃんとやるヨ☆《キラ》」

 そんな掛け合いをしながら、まじょっこは全速力で離脱を図っています。しかし、キョウソの秘術で強化されたユーシャのスピードはそれを遥かに上回ります。

「チョー……。早過ぎるぅぅぅぅよっと!」

 あっという間に追い付いて来たユーシャに向かって光の矢を放ちました。

 スピード重視の矢の魔法は、追いかけて来るユーシャの速度と相まって咄嗟の回避は困難に思われました。しかしユーシャの姿は掻き消える様にして消え失せ、超高速で接近するまじょっこの魔法を回避してみせました。

「避けたっ!? ……っ!? ──っとお!」

 消えたユーシャの姿を探そうとした瞬間、反射的に魔法障壁を頭上に展開します。

 と同時に、障壁にユーシャの一撃が叩き込まれました。

 まさに間一髪でした。

「相変わらず良い勘してやがる! だが──っ」

「させないよっ!」

 魔法障壁の影からユーシャ目掛けて超熱球を放ちます。限りなく白く燃えるその熱球は、あらゆる物質を燃やし尽くす事でしょう。

「しゃらくせぇ!」

 ユーシャは回避も防御も選択しません。ただ攻撃あるのみです。

穿星刃せんせいじん!」

 力ある言葉と共に星剣の刃を撃ち放ちました。

 撃ち出された光の刃は、魔法障壁と超熱球の両方を相手取ってなお拮抗して見せます。

「かーらーのー!」

 その状態でユーシャは再び星剣の刃を創出します。

「え、ちょ……」

「往生しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 自ら放った光の刃に、痛烈な追撃の一打を放ちます。

 更なる威力を得た光の刃はいとも容易くまじょっこの障壁と熱球を打ち砕き、まじょっこその人すら呑込もうとしていました。

「くそったれえええええええええええええええええええええ!!」

 カップの底を舐める程に振り絞った全身全霊、一滴の魔力も余さず使い果たして作った魔法盾でガードしますが、その絶望的なまでの威力を受け止め切る事は出来ませんでした。

 星剣の刃で以て打ち砕かれた魔法の盾は光の粒となって虚空へと消え、全ての魔力を使い果たしたまじょっこは、最早浮かんでいる事さえ敵わず地上へと落ちて行きました。

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