二章 その②
時は朝まで戻ります。
ドレンは着替えを済ませて家を出ると、件の少女?──ステンが住んでいると思しき王都の西地区へと向かいました。
特に個人的な面識が有る訳ではありません。
教会騎士として王都の見回りをしている際に、西地区で良く見かけたといった程度です。
微かに視界に入っただけでもそうと気付かさせる存在感の持ち主だったので、必要以上に記憶に残っていました。
大通り沿いの店舗で聞き込みをすると、直ぐに名前が分かりました。
当然ですがこの界隈でステンは超の付く有名人です。
この辺りの住人になら、誰に聞いてもステンの名前と顔を知っています。
「今度来る友人の観光案内を依頼したいのだが、彼女の家はどちらか?」
と尋ねれば、
「それならあの家の奥さんに聞きな。この時間なら家に居る筈さ」
と教えて貰えたので、教えられた通りの家に行って見ます。
「ああ、それならあそこさ。でも今は仕事に出てるから帰りは夕方か夜だと思うよ」
「そうですか。ありがとうございます。依頼内容を書いた手紙だけ置いてこようかと思います」
思った以上に簡単に家が割れました。
南地区の住人や教会と繋がりを持ちたい商人達と接する機会の多いドレンには、この警戒心の薄さは大きな衝撃でした。それと同時に心温まる物を感じる反面、自分を含めた周囲の人間たちが如何に醜いかを思い知らされていました。
首を振って邪念を払い、教えられた家へ向かいます。
目的の家は二階建ての、周りと比べても特にこれといった特徴のない家です。
周囲に素早く視線をやり、人気が無い事を確認します。
そっと玄関のドアに手を掛けると、スッと開きました。
留守だというのに鍵が掛けられていませんでした。
まさか鍵が掛かっていないとは思っていなかったドレンは、何故か逆にステンの不用心さを心配してしまいます。
よくよくドアを見てみれば、そもそもドアに鍵など付いていませんでした。
ドアの内側には小さな
ドレンは知りませんでしたが、これは別にステンが特別不用心な訳ではなく、この辺りの家では一般的な事でした。先ずもってこの辺りの住人に大した蓄えはありません。そのため住人同士の繋がりが強く、相互扶助が当たり前でした。泥棒達もハイリスクローリターンな空き巣より、旅人や商人達といったもっと簡単で実入りの良い相手を狙うため、そもそも家に鍵を掛ける必要性を感じさせない場所になっているのでした。
どちらかと言えば在宅時の方が、貞操を狙って来る輩が居て危険なくらいでした。
そのため、内側にだけ鍵の役割を果たす物が
何はともあれ、労せず家の中に入り込めたドレンは、早速家の中を物色します。
まず探すのは、王家と関わりがあると証明出来そうな物です。
例えば王家の紋章が入った物品などがあれば分かり易くて助かります。
大して広くない家です。隈なく探してもそこまでの時間は掛かりません。
二時間ほど探し続けた結果、特にそれらしき物はないという事が分かりました。
部屋にあった服もその殆どが女性物で、男性用の服は僅かでした。
「うーむ……。やはり考えすぎか……? それとも……」
王家との繋がりを示す物は無く、ステンを男性だと判断出来る様な物もありませんでした。
家探しは諦め、今度は御近所さんにステンの母親について訊ねて回りました。
それで分かった事と言えば、
ステンに似て美人だった。だけどステンの方がもっと美人だという事。
結婚はしておらず、ステンの父親は不明。父親の事を聞くと辛そうな顔をする事から、合意の上での事ではなかったのでは? という事。
大雑把に纏めると大体この二点でした。
一応先王の隠し子である可能性は浮上したものの、果たしていち市井の娘を抱くのに王が強姦などという手を打つだろうかと、そこがドレンに疑問符を浮かべさせる要因となっていました。
王城に呼ばれる事は勿論、男との逢引すら噂にも上らなかったそうで、その裏には周囲の男達による激しい牽制のしあいがあったのだとか。
聞き込みの内容次第で完全にシロと切り捨てるつもりでしたが、僅かにクロに出来る要素が入って来たため、念の為にもう少し踏み入って調べてみる事にしました。
直接ステンに接触して、継承戦争の参加者かどうかを調べようというのです。
継承戦争の参加者は、継承戦争が始まる──手の甲に痣が浮き出る──と同時に、その血に刻まれた呪いの如き魔法のせいで、常に独特の魔力を放っています。
しかしそれは非常に微弱な物で、常人には元から人が纏っている魔力との区別は困難でした。
ドレンにもそれを肉眼で行う事はできません。
ですが、永く行われて来た継承戦争の歴史の中で、当然の如く便利な道具が作られていました。判定機です。
出来た当時はかなり大型で部屋に据え置くしかありませんでしたが、改良が重ねられた今では指輪のサイズにまで小さくなっていました。
この指輪を嵌めた手で直接相手の肌に触れる事で、その相手が参加者かどうか分かると言う仕組みになっています。
据え置き型も進化し、機械に直接触れずとも効果範囲に入るだけで判別出来る程に高性能化していました。
幸いステンはヴェンストが教会に匿われたという話を聞いて直ぐに教会に行く事を止めたため、判定機で正体がバレるという事態を避けられていました。
とりあえずドレンはステンがいつも仕事を探しに行くという、斡旋所とやらに向かう事にしました。
そしてその姿を密かに追う影が一つ、誰にも
ドレンが斡旋所のドアを開け中に入ると、正面奥のカウンターに座る男がチラリとドレンに視線を遣ります。
「……ん? あんた……」
ドレンの正体に気付いたのでしょうか。
確かに顔は隠していませんが、ドレンは別に世間に広く知られているような有名人ではありません。平騎士という訳でもありませんが、高位の騎士でもありません。教会騎士団の支部の中の中間管理職。小隊長が去年までのドレンの役職でした。
ドレンは主人の勘違いには期待せず、二の句を告げさせない様に一息に距離を詰めてカウンター越しに目の前に立つと、一方的に要件を話します。
「ステンという少女は今日は来ていないか?」
「ん……? ああ。ステンなら、今日は良い依頼があったからもうその依頼人と仕事に行ったぜ。戻りは早くても夕方か夜だろう」
「依頼の内容は?」
「さて? そこまでは俺の管轄じゃないんでね。今どこでどんな仕事をしてるのかは知らんよ」
所長のバルはシレっとした顔で言い切ります。
「そうか……。依頼人の風体は?」
「男の一人旅って感じだったな。まあ“どこにでもいそう”な旅行客だろうぜ」
いけしゃあしゃあと
「そうか。協力感謝する」
ドレンはさっさと見切りを付けると、斡旋所を後にします。
あそこに長居をしても得る物は少なそうだと感じたからです。
(嘘は吐いて無さそうだったが、本当の事を言っている感じでもなかったな)
というのがドレンのバルに対する印象でした。
「依頼人が旅の者だというのは恐らく本当だろう。だとすると……」
わざわざ人を雇って、見知らぬ街でする事と言えば……大方街の観光と考えて相違ないだろうと結論付けます。
(であれば、まず真っ先に向かう先は、この王都の名所である王城か教会だと考えるのが無難。教会の道すがらでそれらしき人物とすれ違った覚えはない。ここからの場所も考慮すれば、最初に探すのは王城の周辺からだな)
考えを纏めると、ドレンは王城へと向かって行きました。
王城の西側エリアに着くとお昼を報せる鐘の音が響き渡ります。
「もうそんな時間か」
であれば、彼女たちも何処かの店で昼食を取っているはずだとドレンは考えました。
お昼時とあって飲食店へと向かう人で通は賑わっています。
人の流れを観察すれば、道を尋ねずとも幾つも飲食店を見付ける事が出来ます。
特にこのエリアは観光客が多いため、彼らをターゲットにした店が多く見受けられました。
流石に一軒一軒覗いて居ては時間が幾らあっても足りないので、聞き込みをする事にしました。幸いにも人は沢山います。誰かしら目にしている可能性はあるだろうと期待していました。
その期待通り、場所を変えながら二十人ほどに聞き込みをしたところで、『飯を食う所』という何とも直球な名前の店でそれらしき姿を見たとの情報が得られました。
流石に時間がそこそこ経っているので、店で発見とはいかないだろうとは思っていましたが、その後の足取りの手掛かり位は掴めるだろうと期待していました。
それにそろそろ自分も昼を取りたかったのもありました。
そうして向かった『飯を食う所』で遭遇したのは、目的のステンではなく標的である第一王子ザウルだったのでした。
◇
『飯を食う所』での食事を終えた、ザウル、プロペート、ドレンの三人は店を離れ、近くの人気の少ない広場へと移動していました。
大通りから奥まった場所にあり、見通しの良い広場からは四方に道が延びています。敵が来たら直ぐに分かる上に、いざ逃げる時も逃げやすい場所でした。
ザウルとプロペートに挟まれたドレンは抵抗する様子もなく大人しくしています。ザウルの首を獲れるなら命など惜しくもありませんが、後ろにいるプロペートから感じる気配がドレンにその選択肢を選ばせませんでした。
僅かにでもその気を起こせば
ドレンにはその確信がありました。
内心肝を冷やしっぱなしのドレンに、ザウルは話を切り出します。
「それで? 教会騎士が何用だ?」
「見て分かるでしょう。プライベートですよ。評判の店にお昼を取りに来たらたまたまザウル殿下がいらしたので、それは驚くでしょう?」
「教会騎士にプライベート等と言う概念があったとは驚きだな。教会の為に命も信念も投げ出す狂信者の集まりだと思っておったが」
「これは手厳しい。まあ実際そういった輩が多いのは事実ですが。まあ何にでも例外というモノはあるものでして」
「お主がそうだと? 私にはそうは思えんがな」
「御想像にお任せします。しかし良くあの短時間で私が教会騎士だと分かりましたね。良ければ後学のために是非理由をお聞かせ願いたいですね」
「お主はあの店に人を探しに来たな? それも私ではない誰かだ。食事も目的ではあったのかも知れぬが、それは次いでであろう? 入店した時のお主の視線の動きを見れば簡単に分かる事だ。そこで予想もしなかった私を発見してしまったため、思わず声が出た。そうであろう?」
「ふぅ……そこまでお見通しとは、恐れ入りました。ところで……」
ドレンはザウルに降参の仕草をしながら、先程から周囲──特に屋根の上の方をキョロキョロと見回しているプロペートを示します。
「あの方は一体何をされているので?」
「うむ。実は私もさっきから気になっていた所だ」
まさかのザウルもドレンに同意します。
周囲から教会騎士が応援に駆け付けるなどの事態を想定しているなら、警戒すべきは地面にある道であって、間違っても屋根の上ではありません。
しかしプロペートは道の方など一顧だにせず、どこか焦った様子で屋根の上の方ばかり警戒しています。
まるで狙撃でも警戒しているかの様ですが、飛び道具による狙撃などプロペートが常時展開している防御魔法の前ではまるで意味を成しません。
逆に、プロペートの防御魔法を貫通してくる様な攻撃であれば、どうした所でプロペートに察知されずに行う事など不可能です。
「ザウル殿下。近くから私の良く知る者の気配がします」
プロペートの声からは、やはり動揺の色が窺えます。
「ん? プロペート殿の知り合いであれば問題ないだろう?」
「いえ──彼女は
「どういう事だ? 知り合いなのだろう?」
「ええ。はい、まあ……知り合いというか仲間と言った方が近いでしょうか……」
「ならそんなに慌てる必要はあるまい?」
「仲間……だからこそ良く分かっているのです。あの女は──
何やら最大の脅威であったプロペートの意識が自分から逸れている事を覚ったドレンは、ここが好機とザウルの注意がプロペートへ向いた瞬間を狙って逃亡を図りました。
「しまった! まだ逃がさんっ!」
「駄目ですっ!」
それに気付いたザウルは直ぐ様懐から短剣を取り出し、ドレンの足目掛けて投げ放ちます。
それをプロペートは止め様としましたが、プロペートの手がザウルの手を押さえた時には、既に短剣は投げ放たれていました。
武芸にも秀でたザウルが放った短剣は、狙い過たず走るドレンの太腿へ突き刺さるかと思われた、次の瞬間──
ギキィン!
と甲高い金属音を奏でながらザウルの放った短剣を地面に縫い留めていました。空から降って来た金属製のトレイが、です。
その光景に驚くザウル。そしてドレン。逃げるのも忘れています。
これがトレイが短剣を弾く、もしくはトレイに短剣が突き刺さって防ぐ、とかであればここまでの驚き様はしなかったでしょう。ですがこれはどう見ても、“トレイが短剣に刺さって”います。トレイの淵が刃物の様に鋭利に尖っている訳でもなく、むしろ怪我しない様に丸くなっています。
どうしてこれがこうなる? 見れば見る程に二人の疑問は深まるばかりです。
そして目の前の現実から目を逸らす様に天を仰ぐプロペート。
そして、地面に突き立つトレイの上に、ヒラリと舞い降りる一人の女性が居ました。
「ドレン様を害そうとは、この街にもとんだ害虫が居た様ですね。ドレン様」
女性はクルリとドレンの方へと向き直り、優雅にお辞儀をしてみせます。
余りに想定外の展開に、流石のドレンも思考が付いて行っていません。
「あ、はい」
とただ生返事を返すのが精一杯です。
「あの様な害虫は直ぐに処分致しますので、どうぞ御安心下さいませ」
勿論、ここで言う害虫とはザウルとプロペート、両名の事です。
空から舞い降りた目を見張る程の美女は、改めて二匹の害虫に向き直ると、文字通りに虫けらを見る様な目で二人を睨み付けます。
パっと見た感じでは武器などは持って居なさそうですが、美女の身を包む給仕服なら幾らでも隠す事が出来るでしょう。
それに、あのトレイを投げたのが彼女であるならば、武器らしい武器などなくともあらゆる物が凶器と化すのは疑い様もありません。
「まあ待ちなさい、オヨメさん。まずは話を──」
「待ちません。死ね」
「ええいっ! クソ!」
プロペートが説得を試みましたが、正しく聞く耳などありません。
オヨメが目にも留まらぬ速さで繰り出したのは、一本のマドラーでした。
まあそうなるだろうなと予測していたプロペートは、瞬時に防御盾を多重展開してザウルを保護しましたが、彼我の距離は僅かに数メートル。十分な枚数を設置できず受け止め切れるか心配でしたが、相手も十分な加速には足りなかった様で何とか最後の一枚で受け止め切れました。
「「え??」」
その瞬き程の間の攻防に完全に置いて行かれる二人。ドレンとザウルです。
二人にはオヨメが瞬間移動でもしたかの様に見えていました。
まさかザウルも今の一瞬で自分が死にかけていたとは思いもしていませんでした。しかも凶器はマドラーです。
「キョウソさん。邪魔をしないで頂けます?」
「その人を殺そうとするのを止めて下さるなら」
「それは出来ない相談ですね。という訳で無条件で今直ぐ消えて下さい」
「ははは。仕事の依頼主を放り出して逃げる訳がないでしょう。神罰を与えますよ?」
「分からない人ですね。仲間のよしみで見逃してあげましょうと言っているんですよ? これ以上邪魔する様なら、まずあなたから死んで貰う事になりますよ」
「話が分からんのはどっちだこの万年振られ女が。私の仕事の邪魔をするんじゃない」
「カッチーン! あんた、今直ぐにでも死にたい様ね!」
「はっはっは。そこで怒っては認めたも同然ですよ。それに良いのですか? 素が出ていますよ?」
プロペート=キョウソはオヨメを挑発しながらコソっと、ザウルに合図します。
今オヨメの意識は完全にザウルから離れ、キョウソ憎しに変わっていました。
睨み合うオヨメとキョウソ。
強さで言えばオヨメはキョウソを遥かに凌駕します。
何せ、オヨメには五つの頃から始めた“花嫁修業”により得た、常識外れの身体能力と数多の家事スキルあります。彼女にその気はありませんが、とある界隈では大陸一の戦士としてその名が知れ渡っていました。
一方のキョウソにはそこまでの戦闘力はありません。しかし、『
両者の緊張が高まる中、キョウソの合図を受けたザウルはこっそりと逃亡──していませんでした。
ザウルはドレンを狙っていました。
さっきのさっきまでセレーネ=オヨメの事を家で面倒を見て、そして見て貰っている只の女性だと思い込んでいたドレンは、完全に思考停止状態でした。
しかし日々の訓練の賜物でしょう。
打ち込んで来たザウルの剣撃に対し、体が無意識に反応して躱していました。
流石にそこでハッと思考が動き出しました。
それは慣れ親しんだ戦闘の場であったからでしょう。
ドレンは取り敢えず目の前の危機に対処する事だけに意識を向ける事で、何とか思考停止状態から抜け出す事が出来たのでした。
とは言え、今日は完全に調査だけのつもりだったので、騎士剣も着替えた際に家に置いて来ていました。つまりは非武装です。
その上ザウルは武芸達者で、剣の腕前も一流です。ドレンも日々の鍛錬で腕に自信はないとは言いませんが、間違っても達人だなどとは思ってもいません。真面に戦っても勝ち目は薄そうだなとドレン自身、先程のザウルの一太刀で感じていました。
むしろ先程の一撃が避けられたのが奇跡みたいな物でした。全く意識していなかったのが逆に良かったのかも知れません。
不意打ちからの渾身の一撃を躱されたザウルも、ドレンを警戒しています。
「ここはお互い手を引くという事でどうでしょうか?」
キョウソはザウルとドレン、両者が受け入れやすい妥協案を提示します。
「このまま私に時間を掛けていると、あちらの騎士様がどうなることやら。武器もお持ちでない様ですし、
とオヨメにだけ聞こえる様にキョウソは囁きます。
オヨメの目から見ても明らかにザウルの方が腕が立つのは一目瞭然でした。その上で実力が上のザウルが剣を持ち、下のドレンは素手という圧倒的不利な状況です。
「そうして頂けると非常に助かりますが」
と視線を一切ザウルから逸らす事なくドレンは答えます。
「笑止。と言いたい処だが、彼女からのプレッシャーが尋常ではないのでな。正に生きた心地がせんよ。が、状況はこちらが有利。タダで手を引くのも惜しい。そこでだ。一つ質問に答えては貰えんか?」
「いいでしょう。答えられるモノならお答えいたしましょう」
「何を──いや。誰を探していた?」
「…………“三番目”。かもしれない人物です」
「どのような奴だ?」
「二つ目の質問にはお答えしかねますね」
「そうか」
チャキと剣を構えたザウルに、ドレンは交渉決裂を覚悟し身構えます。
しかしザウルはそのまま剣を納め、大胆にもドレンに背を向けます。
堂々とした立居振舞で、これ以上の交戦の意思はない事を示したザウルに、ドレンは「これがザウル殿下か……」と感嘆の念を禁じ得ませんでした。ドレンの良く知るヴェンスト殿下とはまるで役者が違うなと思い知らされます。
これを背後から襲う様では騎士の名折れ。その上、恐らくそうした所でドレンの奇襲など軽く一蹴されるのが関の山です。見逃してくれると言うのだから、大人しく従っておくのが吉でしょう。
ドレンは未だ睨み合いを続けていたオヨメに声を掛けます。
「セレーネさん。ここはお言葉に甘えさせて貰いましょう」
すると、今までの睨み合いが嘘だったかのような見事な豹変ぶりで、オヨメはドレンに振り返ります。
「はい。ドレン様の御言葉のままに」
オヨメはドレンに従ってこの場を離れて行きました。
あれほどまでの殺意で以て対立していた二人を、チラリとも振り返る事はありませんでした。
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