第9話 僧侶③

「流石は八魔将。本当にまじょっこさんに勝ってしまうとは」

 パチパチと拍手をしながらキョウソはセニュエロを称えます。

「放せカル! ピンキーマリーをどうする気カル!」

 目を覚ましたカルちゃんがキョウソの手にぶら下げられながら、ジタバタと暴れています。

「さあ。それはセニュエロさんが決める事ですから。私の知った事じゃありません」

「この薄情者! カル! マリーを助けろカル!」

「そうは言われましても。私は今は雇われの身でして。まじょっこさんに暴れられると依頼が果たせず報酬が貰えなくなってしまうじゃないですか。それは困りますよね?」

「よね? じゃないカル! 仲間を金で売るなカル!」

「はっはっ。まじょっこさんは確かに大切なお仲間ですが、先立つ物がなくては困りますからね。何事にも優先順位というものがありますので。依頼が済んで、まだ無事だったら助けてさし上げますよ。もちろん。仲間ですからね」

 何の曇りもない笑顔でキョウソは言い切ります。大切度合いが、布教活動に比べて低いというだけなのです。

 キョウソとカルちゃんが言い合いをしているのを余所よそに、セニュエロは倒れたまじょっこを魔法で拘束していきます。両足を一括りにし、両の手は宙にそれぞれ固定します。Yの字に磔にされた形になっています。そして最後にまじょっこの首に魔力封印の環を嵌めます。これにはセニュエロの印が刻んであり、嵌められた奴隷が誰の所有物か分かる様になっています。

「とりあえずはこれで良いでしょう。良い拾い物が出来ました」

「それで彼女の魔法が封じられるのですか?」

「完全に。とは行きませんが。今まで試した結果では八割から九割程度、魔法少女の魔力を抑えられています。元が我々の犯罪者用の拘束具を改良したものですから、原理の異なる魔法には期待通りの効果は臨むべくもないですね」

 それだけ魔力を抑えられれば少々暴れられるのも楽しい物ですよと、セニュエロは笑います。

「これで封印球に掛ける時間は出来ましたか?」

其方そちらではどうか知りませんが、此方こちらには魔法少女協会の見えざるネットワークがありまして、直ぐに次の魔法少女が、それも団体で押し寄せて来るでしょう。どちらにしろ時間は余りありませんので……失礼しますよ」

 キョウソは拘束されているまじょっこの許へと近付きます。

「貴様! 何をする気だ!」

「ハウラ。黙って見ていなさい」

 キョウソはそちらを振り返る事すらせず、封印球をまじょっこが身に付けている魔法少女のブローチへ接触させます。

「こういうのは私の趣味ではありませんが……一気に行きますよ!」

 キョウソがそう言うと、キョウソの体から純白の魔力が光の柱となって天を貫きます。

 それに呼応する様に、まじょっこからはピンクの光の柱が立ち上り、封印球はその二つの光に抗う様に禍々しき紫の光を激しく明滅させます。

「あれは──っ! 一体何を──!」

「強引に引き出した魔法少女の力で封印球の殻に綻びを作り、そこに彼の魔力を──いや。彼にならって言うなら神力を注ぎ込んで、外と内から一息に封印の殻を破壊しようとしているのですよ」

 ハウラに、キョウソに代わってセニュエロが説明します。

「はあっ!」

 キョウソの一喝が轟くと同時に──


 パキィン


 と封印球が砕け散りました。

 またそれと同時に、封印球によって抑えられていた魔王の魔力が解放され、辺り一帯を禍々しき紫の光が包み込みました。

 そして光が収まるとそこには、魔王の右腕と思われる肉体が宙に浮かんでいました。

「ふぅ。上手く行きましたね」

「ええ。流石ですね。あなたに依頼したのは正しかった」

 セニュエロは宙に浮かぶ魔王の右腕をそっと掴み、この時の為に用意していた豪奢な箱に、丁重にその腕を納めます。そしてその箱を魔法で小さくすると懐へと丁寧に仕舞い込みます。

「まずは一つ。ふふ……ははは。これであのお方に歓んでいただける」

 セニュエロは魔王の封印を解いたこと以上に、その事を想うだけで歓喜に震えるのでした。

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