第20話 五人の男達

 血溜まりを前にして、呆然と立ち尽くしていた。


 剣をしまった男と目が合うと、何故かニヤリと不敵な笑いを向けられる。


 年上だけど、この人もまだ若い。


「レオン。お嬢ちゃんが困っているぞ」


 守るように私の肩に腕を回していた人は、ボーッと広場の方を見つめていたけど、名前を呼ばれたことにより、ようやく私の肩から腕を離した。


 この場にいる男達は、5人。


「遅かったか……では、あの地震も関係があるのか」


「聖女を処刑などと、狂気の沙汰だ。おそらく全ての前触れだろう」


「ここが真っ先に戦場となり、滅ぼされるだろうな」


「それも、この国の愚か者達が選んだ末路だ」


 この人達は、何を話しているのだろう。


「レオン、自棄になるなよ」


「ならない」


 レオンと呼ばれた人が、この中で一番若い人だ。


 さっきも今も、悲しげな顔で広場の方向を見ていた。


 そして、また思い出したかのように私に言った。


「大丈夫か?怪我はないか?必要なら、家族の元へ送り届けるが」


 男から少し離れる。


 改めて顔を見上げると、黒い髪に黒い瞳のよくある容姿だった。


 ただ、鍛えてあるのだろうその体型は、平均よりは大きい。


 レオンは殺された時の私の年齢と変わらないように見える。


 そもそもこの体は一体、何歳なんだろう。


「相変わらずのお人好しだな、レオン」


「世の中の人間全てを救えないぞ。ましてや、この国の人間を救ったところで」


「星の聖女、エルナトを救えなかったように」


 言外に放っておけと、男の人達は口々に言うけど、


「目の前にいる一人くらいは救える。せめて。それに、選べばいいだけだ。家族と最期を迎えるかどうかは」


 この人はゆずらなかった。


 そして、やはり意味は分からなかった。


 男達が全員一斉に、私の首が晒されている広場を向いた。


「むごい事を……」


「何故あそこまでの事ができるのか」


 彼らは一体何者で、どうしてエルナトを気にかけているのだろうか。


「俺はもう少し調査してくる。港が封鎖されるまでには戻るつもりだ。お前たちは、そのオマケの子をどうにかして、その後は先に戻って報告だ。急げよ。時間はないぞ、レオン」


「分かった。歩けるか?」


 レオンが、私に手を差し出してくる。


 港を、封鎖?


 この人達は船に乗るの?


「喋れないのか?怖い思いをして、言葉が出ないのだな。ここは危険な場所になる。君はどうする?家族は、帰る場所はあるのか?」


 未だに喋らないでいた私に、さらに丁寧に問いかけられたから、首を振って答えていた。


「なら、俺達と来るか?」


 レオンがそれを言った途端に、


「おい、連れて行くのか?」


「代わりにはならないんだぞ」


 止めようとする人がいれば、


「レオンの好きなようにさせてくれ」


 レインと呼ばれていた、唯一剣を抜いた人がさらにそれを止めた。


 何処に行くつもりなのだろう。


 私をどこに連れて行く気か分からないけど、どうせなら、ここの反対側に連れて行ってくれればいいのに。


 そうすれば、この国を中心とした大陸の大半が、禍に見舞われて混乱に陥る。


 例え私が連れて行かれた先で、また酷い目に遭うとしても、この国の最後を見届けることができる。


 私の沈黙を肯定と捉えたのか、レオンは、私を気遣いながら手を引いて歩いていく。


 目立たないように王都を抜ければ、馬を預けていたようで、それに乗って港を目指していた。


 レオンは、私を自分の後ろに乗せて、手綱を器用に操っている。


 私が王都から離れて行くほどに、星が動き、この国から様々な加護が離れていくのが手にとるように分かった。



 “星”は大気に潜む精霊達。



 その中の凶星は居座り続けて、災はこの大地に降り注ぐ。


 厚い雲に覆われた国を背にして、レオン達一行はどんどん離れていく。


 密かに私が願う通りに。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る