シスコン殺し(ブレイカー)
「兄さん、おはようございます」
日曜日の朝になって蒼は目を覚ますと、同じベッドにいる瑠菜が赤い瞳をこちらに向けて笑みを浮かべていた。
ここ最近は起きた瞬間に愛しの瑠菜を見ることが出来るので幸せな気持ちで起きられる。
以前はスマホから流れる瑠菜の音声で起き、スマホの画面越しに瑠菜の写真を見るのが日課になっていたが、生の瑠菜はスマホの技術の音声や写真よりも美しさが段違いだ。
「おはよう」
「おはようのちゅーです。んん……んちゅ……」
挨拶をすると、瑠菜がキスをしてきた。
朝だから濃厚というわけではないが、どうやら瑠菜はキスにハマってしまったらしく、唇を触れ合うだけではなくて甘噛みなどしてくる。
キスが好きなのは蒼も同じなので、朝から嬉しすぎて案の定力が抜けてしまう。
力が抜けるのは分かっていたらしく、瑠菜は「ふふ……」と不敵な笑みを浮かべる。
これでいっぱいキス出来る、と思っていそうな顔だ。
「昨日に鼻血を出したから今日は出ませんね」
良かったですね、と耳元で甘い声で囁いた瑠菜は、ふー、と息を吹き掛けてくる。
ゾクゾク、と変な悪寒が走ったが、嫌な感じではなくて息を吹き掛けられたからだ。
ヤンデレと宣言してから小悪魔になってきているのは気のせいだと思いたい。
「もし鼻血が出てしまっても、今後は増血剤で何とかしましょうね」
ヤンデレを面に出してきたため、瑠菜はもう我慢をする気がないようだ。
昨日も鼻血を出した後に飲まされたし、通販で新たな増血剤を頼んでいた。
三百錠が六千円程度だったので、これからは毎日増血剤を飲むことになるかもしれない。
「えへへ。兄さぁん」
朝のキスは満足したのか、今度は甘えてくるかのように胸に頬擦りをしてきた。
今の瑠菜は蒼から離れるのを忘れてしまったらしく、ヤンデレ宣言してからずっとくっついている。
「瑠菜、膝枕してほしいな」
「はい。兄さんのお願いなら何でも聞けちゃいます」
幸せな気持ちになっているようで、瑠菜はすぐに了承して自分の太ももに力が入らない蒼の頭を乗せた。
何でもお願いが聞ける……あくまで家でのことだろうが、これからは学校でもある程度のお願いは聞いてくれるかもしれない。
最近はスマホに瑠菜の声を録音していないし、休み時間にどうしているか気になるため、今度瑠菜のクラスに遊びにいくことを決めた。
「私の膝枕はどうですか?」
「最高」
グッと親指を立てて言いたいが、力が入らないから叶わなかった。
ネグリジェの裾を捲り上げての膝枕で太ももの感触が直接伝わってくるため、これが最高でなかったらなんなのだろうか? と疑問に思ってしまうほどだ。
「兄さん……」
左手で手を握られ、右手で頭を撫でられたので、蒼は身体中が幸せで道すがら溢れた。
愛する妹に膝枕、手を繋がれて頭を撫でられる……幸せ以外の何物でもないだろう。
むしろ愛する人にここまでしてもらって幸せを感じない人がいたとすれば怒ってやりたい、と心に強く思ってしまった。
「瑠菜は相変わらずのシスコン
毎日のように兄を嬉しさで力が抜けてしまう原因を作っている妹は、まさにシスコン
力が入らないから身体は動かないので、視線だけ瑠菜に向ける。
「また意味不明なことを言うのですね」
はあー、とため息混じりに呆れたように言ってきたが、瑠菜はどことなく嬉しそうだった。
「そういう兄さんはブラコン
「ブラコン
初めて聞いた言葉だから頭の中にはてなマークが浮かび、蒼はずっと頭を撫でてくれる瑠菜に尋ねる。
「ブラコン妹を殺しにかかる、兄のことです」
恥ずかしさからか視線を逸らして言ってくる瑠菜がとても可愛く、力が入ったら思い切り抱き締めたいと思った。
ヤンデレ宣言で何でもしてくれはしても、恥ずかしさがなくなるわけではないらしい。
「俺は瑠菜に愛情を向けているだけだぞ」
「それが嬉しいんですよ。私はずっと一人でしたから、一緒にいてくれて嬉しいんです」
握っている手に力が入っていたため、蒼は瑠菜の想いを感じ取る。
アルビノという周りにいない見た目のせいで一人だった瑠菜に、血の繋がりがある家族以外で初めてまともに接したのは蒼なのだろう。
きちんと接してくれた上に一目惚れしたと言ってくれたので、瑠菜にとっては相当嬉しかったということだ。
「兄さんと家族になってから本当に幸せな日々が続いています。だから今度は私が兄さんを幸せにしてあげますよ」
「今も幸せだ」
「もっとですよ」
「これ以上は俺の身体がもたない」
今でも力が抜けてしまうため、これ以上の幸せを与えられたら鼻血が止まらなくなるだろう。
幸せなのはいいことだが、鼻血が出るのは勘弁願いたい。
いや、瑠菜の幸せのために多少の鼻血くらいは我慢すべきだろう。
「本当に兄さんは兄さんですね」
嬉しそうに笑みを浮かべた瑠菜は、蒼の手を口元に持ってきてキスをするのだった。
その瞬間、今まで耐えてきた鼻血が火山の噴火のように吹き出したのは言うまでもない。
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