ファーストキス
「観覧車から辺りが一望出来ますね」
色々なアトラクションに乗った後、蒼は瑠菜を連れて観覧車に乗り込んだ。
もう完全に日が暮れているが、雲があるものの夜景を観覧車から堪能出来る。
先ほどから初めて乗るアトラクションにテンションが高い瑠菜は、窓に手を当てながら目をキラキラさせて見ている。
「こういうのはアレだろ? 瑠菜の方が綺麗だって言うタイミングだ」
「はいはい。兄さんに毎日言われていますから嬉しさはあまりないですよ」
自慢気に言った蒼に対して白い目を向ける瑠菜は盛大なため息をつく。
どんな褒め言葉でも毎日言われては嬉しさが半減するようだが、今日は初デートという特別な日であることには変わりないため、瑠菜の口元は少しだけ緩んでいる。
やはりデートで言われると、いつもの言葉でも普段より嬉しく思えるようだ。
「それにこうゆうのはさりげなく、出来れば肩を引き寄せて言うものです」
「俺にそんなノウハウがあると思うか?」
「あれだけデートの予習をしていたのに?」
瑠菜の言葉に反論してみると、彼女は驚いたような表情でこちらを見つめた。
確かにデートについて勉強をしてみたが、ラノベで遊園地に行くシーンはなかったし、啓介と二人きりでこんなことに来るわけがない。
なので遊園地についてのノウハウなどあるわけもなく、何となくデートで定番そうな言葉を言ってみただけ。
遊園地に行くのは決まっていたことなので、そういうシーンがあるラノベや漫画を読むべきだったと後悔した。
「兄さんはどこまでも兄さんですね。私のために頑張っても変な方向に行くというか……」
はあ~、と再び盛大なため息をつきながらも、瑠菜は甘えてくるかのように蒼の肩に自分の頭を乗せる。
「変な方向って失礼な。中学時代に瑠菜の修学旅行にこっそり着いて行っただけじゃないか。妹を見守る兄……なんと健気なのだろうか」
ふふん、と鼻を高くして言いながら、蒼は過去のことを思い出す。
一年前……去年の五月の下旬辺りに、心配した蒼は瑠菜の修学旅行にこっそりと後をつけた。
まだそこまで日差しが強い季節ではないとはいえ、二日も離れるのは心配でしょうがなかったのだ。
なのでついて行くことにし、蒼は二年連続で修学旅行を体験した。
「妹の修学旅行について行くのが常軌を逸しているんですよ。それにこっそりでも見守っていたわけではないですよね? 新幹線で堂々と私の側に来ましたし、自分で健気って言う人を初めて見ました」
観覧車に乗って十分も立っていないというのにも関わらず、瑠菜は頭を肩に乗せながら三度目のため息をつく。
最初は遠くから見守っているつもりでいたが、我慢出来ずに蒼は瑠菜の側に来てしまった。
そのせいで瑠菜どころか先生にもバレてしまい、京都に着いたらそのままトンボ帰りさせられそうになったのだ。
だけど貯金が無くなるまで何度でも来ると言ったら、呆れたような表情になった先生は渋々といった感じで許可してくれた。
もちろん瑠菜と一緒の部屋に入れるわけもなく、先生と一緒の部屋で泊まることになってしまったし、後日に中学と高校の先生に凄く怒られる羽目になった。
しかしながら瑠菜と一緒に修学旅行を満喫することが出来たため、ついて行ったことに一切の後悔はない。
ただ、瑠菜は物凄い呆れていたが。
「瑠菜と一緒に京都旅行を満喫出来るんだぞ。シスコンであれば誰だって妹の修学旅行について行く」
「自慢気に言うことではないですけどね。後、シスコンであっても妹の修学旅行について行く兄はいませんよ」
シスコンでも修学旅行について来るとは思わなかったようで、瑠菜は今までにないくらいの白い目をこちらに向けた。
「てか、せっかくのデートなのにムードがない」
「兄さんがムードを気にするなんて驚きです」
本当に驚いたらしく、瑠菜は目を大きく見開く。
今まで一緒に出掛けたとしてもデートを意識したことはないため、ムードもなかった。
でも、今日は記念すべき初デートなので、少しくらいはムードを気にしてもいいかもしれない。
「もうすぐ天辺だよ」
「あ……兄さん」
色々と話している内に、蒼たちが乗っているゴンドラが一番上に到達する。
これから何をされるか察したようで、蒼に肩を抱かれた瑠菜はこちらを向いてゆっくりと瞼を閉じた。
しっかりと瑠菜を見つめた蒼は、ゆっくりと彼女の顔に自分の顔を近づけていく。
「んん……」
観覧車のゴンドラが頂点に達した瞬間、蒼と瑠菜は唇と唇が触れ合うキスをした。
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