遊園地デート

「遊園地に初めて来ました」


 カラオケを出て日が暮れるくらいの時間帯、蒼は瑠菜と一緒に遊園地に来ていた。

 今は雨も止んで曇りになっているが、昼間はどしゃ降りだったから人はほとんどいない。

 この遊園地はナイトチケットというのがあり、夕方からの入園は一日いるより安く済む。

 今までアルビノのせいで遊園地に来れなかった瑠菜であっても、この時間帯からであれば楽しむことが出来るだろう。


「何乗りたい?」


 しっかりと指を絡め合うようにして手を繋ぎながら蒼が尋ねる。

 一つは乗るのを決めているが、初めて来たのだし好きなのに乗らせてあげたい。

 次はいつ来れるのか分からないのだから。


「ジェットコースターに乗りたいです」


 いつもはクールな瑠菜も初めて来た場所にはしゃいでいるようで、目をキラキラさせながら言ってきた。

 遊園地でジェットコースターを乗るのは定番と言えるが、いきなりとは少し予想外だ。

 ただ、今日は目一杯楽しんでもらうと決めているので、蒼は瑠菜の提案に「分かった」と頷く。

 笑みを浮かべている瑠菜を連れてジェットコースターに乗ることにした。




「すぐ乗れるみたいですね」

「そうだな」


 いつもの休日であれば並ぶ必要があるだろうが、今日は一切待たずに乗ることが可能だった。

 隣同士に席に着き、お互いに落ちることのないように安全バーを下ろす。


「えへへ。兄さんと遊園地なんて夢のようです」


 ブラコンである瑠菜は本当に嬉しそうな笑みを浮かべ、ジェットコースターに乗る時でもしっかりと手を繋いでいる。

 日本の中でもかなりスピードが出て高低差があって怖いと有名なジェットコースターなのだが、瑠奈に恐怖はないようだ。

 むしろ早く動き出さないかな、と思っていそうな、楽しみでしょうがないといったワクワクしている顔。

 高所恐怖症ではないようなので、楽しむことは出来るだろう。


「そ、そうか……」


 瑠菜が楽しいなら良かった、と思った瞬間にジェットコースターが動き出した。

 カタカタ、とゆっくり音を立てて登っていく。


「兄さん兄さん、とっても高いです」


 ジェットコースターに初めて乗る瑠菜からはまるで恐怖を感じず、むしろどんどんテンションが上がっているらしい。

 そんなに楽しいのか? と思った時、ガタッと音がして一気にスピードが上がって下りに入った。


「あぁ~れぇ~」


 ぐるんぐるんと目が回るような感覚になり、ジェットコースターの恐怖に襲われた。

 これがジェットコースターの醍醐味であるが、あまりの恐怖に叫ぶことしか出来ない。


「あはは。凄い速いです」


 怖がっている蒼と違い、瑠菜は本当に楽しそうだった。


☆ ☆ ☆


「おえ、吐きそう……」


 ジェットコースターに乗り終わり、蒼はベンチでぐったりとしている。

 買い物に行く時に原付バイクに乗りはするが、ジェットコースターは自分で運転するバイクや車とは違って急激に上下左右に動くから乗り物酔いをしてしまった。

 今すぐ吐くわけではないが、少し休憩しないといけない。

 流石は日本でもベスト五に入ると言われているほどの恐怖を感じさせるジェットコースターだった。


「情けないですね」


 ぐったりとベンチに座っている蒼とは違い、瑠菜はまだまだ元気そうで、むしろもう何回かは絶叫マシーンに乗れる、と思っていそうな雰囲気が出ている。

 ただ、一回乗っただけでダウンしている兄を見てか、瑠菜はジト目で見つめてきた。


「ほら、早く回復させてください」


 ポンポン、と何故か瑠菜は自分の太ももを軽く叩く。

 気持ち悪いながらも、蒼は良く分からずに頭にはてなマークが浮かぶ。


「私が、膝枕をして、あげますから」

「……ぐえ……」


 頬を紅潮させた瑠菜からの提案に、驚いた蒼は変な声が出てしまった。

 家の中でしてくれる時はあるが、外で言ってくるなんて珍しすぎて驚いたのだ。

 いくら人が少ないといっても全くいないわけではないし、しかもカラオケとは違って遊園地で膝枕をしたら間違いなく視線がこちらに向く。

 だから膝枕してくれるとは思ってもいなかった。


「何でカエルみたいな声を出すんですか? アホなんですか?」


 白い目になった瑠菜は、呆れたような声で罵ってくる。

 確かに男が一回ジェットコースターに乗っただけでダウンしてしまえば、呆れてしまっても仕方ないかもしれない。


「いや、まさか外で膝枕するって言うなんて思ってなくて……」

「夕方から入ったので、兄さんにダウンさせてはいっぱい楽しむことが出来ません。兄さんほどのシスコンであれば、妹の膝枕ですぐに回復するはずです。私がしたくてするわけではないので、か、勘違いしないでください」


 恐る恐る言ってみると、まるでツンデレの王道のような台詞で瑠菜がデレた。


「そうか。じゃあする」


 間違いなく瑠菜の膝枕で回復すると思った蒼は、早速彼女の太ももに頭を乗せる。

 温かい感触と甘い匂い、そして念のためにカラオケでも塗ったUVカットクリームの香りがした。


「絶対に戻さないでくださいよ」

「大丈夫」


 せっかく瑠菜の膝枕を堪能しているのにリバースするわけにはいかない。

 十分ほどで回復するだろうし、吐き気がなくなるまで瑠菜の膝枕を味わった。

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