映画館デート
「兄さんと映画館に行くのは久しぶりですね」
「そうだな」
駅前のショッピングモールにある映画館に入り、今は入場時間になるまでベンチに座っている。
いくら休日とはいっても大雨だから人は少ないと思ったが、予想以上に人が多い。
上映前から話題になっていた映画の上映が昨日開始されたということで来ているのかもしれない。
映画は予約してから来る人も多いし、このショッピングモールは駅から直通で行けるから濡れることはないために、雨でも訪れる人が多いのだろう。
念のために見たい映画を予約しておいて正解だった。
「兄さん……」
人前だと言うのに、頬を赤らめた瑠菜は指を絡め合うようにして繋いできた。
可愛すぎてこのまま抱き締めたい衝動に襲われたが、流石に人前では拒否してくるだろう。
ただでさえ銀髪、赤い目で目立つ容姿のため、瑠菜は人前で目立つような行為を嫌がる。
でも、外で自分から手を繋いできたので、少なからず蒼は驚いた。
外でくっついたりしてくるのを散々嫌がられたのだから。
「私は、ブラコンですから……」
こてん、と瞼を閉じた瑠菜は自分の頭を蒼の肩に乗せる。
本当に珍しい、と思いつつも、蒼は瑠菜の腰に手をやってギリギリまでくっつく。
周りの人はバカップルがイチャイチャしている、と思うかもしれないが、くっつくのは瑠菜が望んだことだから絶対に離れることはない。
人目につくのにこうやってくっついてきたのは、ブラコンだと宣言したのと、幼馴染みの美波の存在だろう。
学校では相変わらずくっついてくるし、瑠奈にとって美波は敵だと察知したらしい。
すれ違っただけで睨めつけるように赤い瞳で見るため、兄との時間を脅かす存在として美波を認知しているようだ。
「可愛い」
せっかく瑠菜が甘えてくるので、人目なんて気にせず兄妹の時間を楽しむことにした。
「ちょ……兄さん……」
可愛すぎて頬擦りしようとしたが、流石に両手を使って止められてしまう。
二人だけの世界になろうとしても人前であることには変わりないため、やはり家でしているような濃厚なイチャつきは無理だということだ。
確かに今日は休日だから家族連れで幼い子供もいるので、あまりイチャイチャするのは教育上よろしくないかもしれない。
本当はもっともっとくっつきたいが、周りを考えて軽くくっつくだけにした。
流石に母親が子供に「あっちを見ちゃダメ」と手で目を抑えているので、濃厚なイチャイチャは出来ない。
「その……映画中は暗いですから、いっぱいくっつくならそこで、お願いします」
「はうわ……」
後十分ほどで入場の時間になるというのに、甘えた声を耳元で出されて力が抜ける。
外でもシスコン
「シスコン
「それは何なんですか?」
以前にも言われて気になったのか、瑠菜は力に抜けた蒼に問いかける。
「シスコン兄を殺しにくる、妹のことだ」
「私は兄さんと一緒にいたいので、殺しにきたりしません」
シスコン
「ずっと一緒に、いるんです」
再び耳元で甘い声を出されては、蒼の力が抜けるだけだ。
そんなことは瑠奈も分かっているはずだが、何故か力が抜けるような甘い台詞を言ってくる。
「だから沢山甘えてくださいね?」
「やはりシスコン
嬉しさでピクピク、と小刻みに身体が痙攣してしまい、上映時間ギリギリで入る羽目になった。
☆ ☆ ☆
「兄さん……」
映画が始まってから十分ほどたち、瑠菜が見飽きたかのように蒼の肩に頭を乗せてきた。
今回の映画は男性向けのアニメのため、女性である瑠奈は好きになれないようだ。
蒼にとっはは好きなジャンルではあるが、元々しっかりと見るつもりで映画館に来たわけではない。
シスコンである蒼に瑠菜の好みはきちんと把握しているので、つまらないと思ってイチャイチャしたくなった彼女といっぱいくっつくためにアニメ映画にした。
早速指を絡み合うように手を繋ぎ、映画を見ながらも瑠菜の感触を味わう。
「えへへ」
イチャイチャ出来て嬉しいのか、瑠菜は可愛らしい笑みを浮かべる。
「瑠菜、ありがとう」
「あう……」
ずっと一緒にいてくれる瑠菜の頬にキスをすると、恥ずかしさからか俯いてしまった。
辺りは暗く皆映画に集中して気付いていないとはいえ、人前であることには変わらないので、恥ずかしがっても仕方ない。
ただ、俯いていて良く見えないが、恐らく瑠菜の表情は緩みきっているだろう。
もう一度頬にキスをした後は、手を繋ぎながら映画を見た。
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