デート当日の朝

「うわぁ、朝から凄い雨」


 デート当日の土曜の朝、起きた蒼がカーテンを開けると、外に出る気が滅入るくらいの雨が降っていた。

 しかもゴロゴロ、と雷が鳴るくらいの雨で、普通ならデートを延期してもおかしくないくらいだ。

 けれど、アルビノの瑠菜がいるため、快晴よりかはデート日和だと言える。

 本当なら小雨か曇りくらいが良かったのだが、天候に文句を言ってもどうしようもない。

 傘を差して外に出ただけでもびしょ濡れになるくらいの大雨だが、タクシーを使って駅前まで行けばいいだろう。

 流石の瑠菜もこの雨ならタクシーを使うことに文句はないはずだ。


「何ていうか、私は雨女なのかもしれないですね。せっかく兄さんとデートなのにこんなにどしゃ降り……」


 この大雨で瑠菜のテンションは下がっているようで、少し……いや、相当悲しげな表情になった。

 梅雨に降るような雨じゃなく、夏の夕立を思わせるくらいに勢い良く降っているからしょうがないかもしれない。

 それに過去に出掛けた時も雨だった記憶がある。


「何を言っている。雨こそが俺たち兄妹にとってのデート日和だ」


 カーテンを閉めてから瑠菜を抱き締める。

 雨でも紫外線があるからUVカットクリームを塗るなどの対策はもちろんするが、晴れの日よりはかなりマシだ。

 それにデートが中止になる可能性がある日差しが強い快晴と違って、雨は絶好のデート日和としか言いようがない。


「それに俺の右手は完全復活」


 右手首に巻かれている包帯と湿布を外し、きちんと治ったと瑠菜にアピールする。

 前回の捻挫より治るスピードが早かったようだが、念のために今日まで包帯を巻いていた。


「ちゃんとデートしてくれるんですね。良かったです」


 豪雨だからデートを延期されると思ったのかもしれない。

 確かに普通なら行くのを止めてしまいたくなるくらいだが、蒼にとってせっかく妹とデート出来るのに延期なんてあり得ないのだ。

 大雨でもデート出来ると分かって嬉しいのか、瑠菜は嬉しそうな笑みを浮かべて蒼の胸に顔を埋めた。

 頬擦りしてきたので相当嬉しいのだろう。


「当たり前だ。俺は瑠菜を愛してるからな」

「知ってますよ」

「そうか。じゃあデートの準備しようか」

「はい」


 もっと瑠菜の温もりを感じていたいが、デートの準備のために離れた。


☆ ☆ ☆


「兄さん、お待たせ、しました」


 頬を赤く染めた瑠菜が、デートに行く服を着てリビングまで来た。

 瑠菜が私服で外に出るとしたらワンピースタイプが多いのだが、今日はいつもと違って長袖の白いブラウスにハイウエストのミニスカート、しかもしっかりと生足が見えている。

 普段なら考えられない格好で、蒼は相当驚く。


「大丈夫なのか?」


 雨だと言っても紫外線がないわけではないので、どんな天候だろうと瑠菜が肌を露出させることはほとんどない。


「雨ですから大丈夫だと思います。でも、一応ですけど……」


 これ以上ないくらいに頬を赤らめた瑠菜がUVカットクリームを手に取る。

 これから大事なUVカットクリームを塗ろうというのとだろう。


「兄さんに、太ももに塗ってほしい、です」


 モジモジ、と手足を上下に動かしていることから、相当恥ずかしがっているのが分かる。

 ミニスカートで太ももに塗ってもらうということは、下手したらスカートの中が見えてしまう可能性があるということだ。

 逆に言うと、見えてしまっても問題はないのだろう。


「見えてしまっても、兄さんに塗ってほしい、です」


 蒼の考えを読んだかのように瑠菜が告げる。

 つまりスカートの中は見せパンなどの見られても大丈夫なものではなく、本来異性に見せるべきではない下着ということだ。


「兄さんなら私のお願い、聞いてくれますよね」

「もちろんだ」


 上目遣いで言われて即答した。

 ソファーに座った瑠菜は、白くて綺麗な足をこちらに向ける。

 他の人より圧倒的に荒れやすい肌のはずなのにシミなどの汚れが一切ないのは、きちんと手入れしているからだろう。

 肌に優しい乳液とかを塗っているから、瑠菜の肌は綺麗に保たれている。


 UVカットクリームを受け取った蒼は、手のひらにクリームを出す。

 手のひら全体にクリームを馴染ませた後、蒼は瑠菜の右足に塗っていく。


「ひゃあ……」


 足を他の人に触られるのはくすぐったいらしく、瑠菜の口から可愛らしい声が漏れる。

 しっかりと塗らないと火傷までいかなくてもシミが出来る可能性があるため、無心を決めた蒼は甘い声が漏れようともしっかりと足にクリームを塗っていく。

 身体をビクビク、と小刻みに震えさせているのは、くすぐったいのを我慢しているからだろう。

 瑠菜の甘い声を聞いただけでも力が抜けそうになるが、しっかりと塗らないと太ももが紫外線で汚されるから絶対に塗り残さない。

 どんなに瑠菜がくすぐったかろうと、指の先から太ももの根本までクリームをまんべんなく塗る。


「次は左足だな」

「あ……はい」


 くすぐったすぎて蕩けたような表情になっている瑠菜の左足もしっかりとクリームを塗った。

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