ラノベでデートの勉強をする

「本屋に来てどうするんですか?」


 キスをしそうになった翌日の放課後、蒼は瑠菜を連れて駅前の本屋に来ていた。

 今日は梅雨を思わせるシトシトとした雨が降っているため、瑠菜を連れて来ても問題はない。

 普段はそんなに来ないため、不思議そうな顔をして瑠菜は尋ねた。

 本は電子書籍だったり通販で購入が多いので、珍しいと思ったのだろう。


「欲しいのがあって」


 蒼は瑠菜の手を繋いでライトノベルコーナーへと向かった。

 魅力的なヒロインが描かれた表紙のラノベを何冊か手に取って見る。

 今回は自分にとってとても大切なラノベを買うことになるため、本屋で直接選びたいと思った。

 ネットだと試し読みを出来るからいいのだが、今回だけは本屋で選ぶ。


「せっかく瑠菜とのデートなんだし、ラノベを読んで勉強しなければ」


 ラノベを手に持ちながら瑠菜に向かって言う。

 重度のシスコンであっても根は真面目なので、蒼はデートに行くまでの間に下準備はかかさない。

 昨日は啓介にオススメのデートスポットを聞いたし、今度はデートの話があるラブコメラノベを読んで勉強しようと思ったのだ。

 ラノベは主人公の心情がきちんと描写されているため、デートの参考になるだろう。


「何でラノベなんですか?」


 瑠菜も一冊のラノベを手に取る。

 銀髪、赤目のヒロインが表紙のラノベを手に取ったのは無意識なのか意識的なのかは、蒼には分からない


「ずばり妹がヒロインに出てくるから」


 あまり読むわけではないが、ラブコメラノベでは妹はヒロインかどうかはともかく、かなりの頻度で出てくる。

 もちろんメインヒロインになる時もあるし、そのまま結ばれる作品だってあるのだ。

 兄妹揃ってデートをしているラノベを学校の休み時間を使って調べ、今から本屋で買って読む……完璧なデートプランを立てられるだろう。


「ただ残念なことに……アルビノのヒロインが出てこない」


 銀髪ヒロインが表紙のラノベを握り潰してしまいたいくらいに怒りを覚えた。

 髪の色はメラニンの量で決まると言ってもいいので、脱色したならともかく、生まれつきの銀髪は本来は太陽光や水に過敏でなければならない。

 でも、ラノベの銀髪ヒロインは普通に海やプールに行って泳ぐし、日焼け止めを塗るだけで紫外線をあまり気にしている様子は見られないのだ。

 一日中海にいる……銀髪なら火傷してもおかしくない。

 ただ、ラノベはきちんとデートシーンを書いてくれるので購入はするが。


「それはどうしようもないのでは? あまり外に出られない体質の女の子をヒロインにしては話を考えるのは大変でしょうし」


 呆れたような声で瑠菜は言う。

 確かにヒロインをアルビノにしてしまっては海やプールで水着になるという、読者に大切なサービスシーンを書けなくなってしまうので、銀髪でも紫外線や水を大丈夫な設定にするのは理解出来る。

 でも、アルビノヒロインは全くと言っていいほど出ないため、少しはあってもいいんじゃないかと思ってしまう。

 ヒロインをアルビノにすればもっと美しくて魅力的な女の子になるのだから。

 髪も肌も瞳もこんなにも美しい瑠菜を見てれば尚更思う。


「どんなキャラであろうと瑠菜ほど美しくはないだろうけどな」

「はいはい」


 強い想いを込めて言ったのだが、沢山美しいと言われている瑠菜は流すように返事をしただけだった。


「それでどれを買うんですか?」

「これ」


 蒼は一冊のラノベを手に取って瑠菜に見せる。

 変態ヒロインが数多く出てきて、その四巻は妹とデートするシーンが書かれているのだ。

 原作であるラノベは一冊も持っていないが、アニメは見たのである程度の話は知っている。

 一話からヒロインが下着姿で出てくるという、男性向けのサービスシーンが多かったアニメ。

 一応アニメの最終話に妹とデートしていたが、ネットで調べたら原作にあるシーンは大分カットされているとのことだ。

 なのでラノベを読まなければならない。


「茶髪ヒロインですか。もしかしてこの子が妹なのです?」

「そうだな。ミニスカなのにノーパンという露出狂だったかな」

「はあぁぁ?」


 スカートで下着をはかないのが理解出来ないらしく、瑠菜は本屋なのに大きな声を出した。

 露出狂のヒロインがラノベに出てくるのに驚いたのだろう。

 普通のラノベでは性に関する描写があまり出来ないので、変態ヒロインが数多く出てくるこのラノベはかなり頑張ったと言える。

 よくあのアニメを地上波で放送したな、と初めて見た時は思った。


「静かに」

「あ、すいません」


 本屋で大声を出した瑠菜にお客さんの視線が集まったので、蒼は彼女の唇に優しく指を当てる。

 どうやら兄妹の痴話喧嘩だと思ってくれたらしく、すぐに視線は無くなった。


「瑠菜は何か買う?」

「いえ、私は大丈夫です。二人して読んじゃったら……一緒にいられないじゃないですか」


 唇から指を退かして尋ねると、瑠菜は頬を赤らめて上目遣いで甘えたような声を出す。


「ここで言わないで……はうわ……」


 甘えた声を出されては、本屋であっても力が抜ける。

 最近は少し慣れてきたから倒れこむことはないが、瑠菜に支えてもらわなくては立っていられない。


「ちょ……兄さん?」

「し、幸せ……」


 少しばかり瑠菜の温もりを楽しんだ後、変態ラブコメラノベを購入した。

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