密着した甘え方
「ただいまー」
啓介とデートの下見を終え、蒼は自分の家へと帰宅した。
先に帰っていた瑠奈が玄関へタタタタ、と小走りでやってきて「おかえりなさい」と出迎えてくれる。
事前に啓介と遊んでくると言っていたので、ブラコンの瑠菜も心配せずに家にいただろう。
もう日が暮れてしまったが。
「兄さん」
いつもより一緒にいられる時間が少なかったからか、我慢が出来なかったように瑠奈が抱きついてきた。
胸に顔を埋めてきた瑠菜の頭を優しく撫で、蒼は「ずっと一緒にいてあげるね」と彼女の耳元で囁く。
嬉しそうに「えへへえ」と笑みを浮かべた瑠菜は、ずっと離しません、と思っていそうなくらいにギューと抱きつく力を入れる。
むにゅむにゅと柔らかい果実が押し付けられると同時に、蒼は兄妹仲良く一緒にいられる幸せを味わう。
「兄さんから感じられる温もりが好きです」
まるでペットがご主人様に自分の匂いをつけるかのように、瑠菜は胸に顔を押し付けながら頬擦りをしている。
今まで犬や猫などのペットは飼ったことないが、こんな感じで甘えてくるのだろう。
可愛すぎて撫でる手が止まらない。
「リビングに行ってくっつこう」
「はい」
くっつきながらリビングに移動する。
少し汗をかいたから部屋着に着替えたいが、今日は離れないと決めたから制服姿でいいだろう。
瑠菜は気にしていない……というか匂いフェチと思わせるくらいに息を吸っている。
「えへへ……兄さんと一緒に居られて幸せです」
リビングのソファーに座った蒼の太ももの上に乗った瑠菜は、背中に腕と足を絡めてさらに密着してくる。
これはいわるゆ対面座位の体勢になるのだが、いっぱいくっついていたいからか、瑠菜は気づいていないようだ。
いや、性の知識はあまりないみたいなので、対面座位という言葉を知らないだろう。
薄いワンピースを着ているのに大胆な密着をしてきたのは、一緒にいられなかったのがかなり寂しかったということだ。
ちょっとエッチな甘え方だが、瑠菜が気にしていないなら問題はない。
「兄さん……」
密着度が高いからか、瑠菜は少し蕩けたような表情になっている。
普段は少し身長差があるが、今は瑠菜が膝の上に乗っているから顔までの距離がいつもより近い。
凄い密着しているし、ちょっと近づけただけで唇が奪えてしまうくらいに距離だ。
恐らくこのままキスしたとしても、瑠菜は確実に受け入れてくれるだろう。
でも、あくまで兄妹の関係なので、このままキスをしたら後に戻れない可能性がある。
本当は止めないといけないと頭の中で分かってはいても、潤いのある桜色の唇に目を奪われてしまう。
後数センチ近づけば間違いなく唇を奪えるが、男の本能と理性が頭の中で葛藤して見ているだけだ。
昨日瑠菜からデートに誘われたから意識してしまっているのかもしれない。
いつもなら純粋に愛しているだけなので、キスしたいと思ったりしないのだから。
でも、デートという単語を持ち出されては意識せずにいられない。
義理の兄妹だから法律的には付き合ったり結婚するのは問題はないが、瑠菜は恋人同士になりたいと思っていない可能性がある。
あくまで瑠菜は自分はブラコンだと宣言しくっついてくるだけなので、純粋に兄妹として愛していると思った方が普通だ。
「ずっと私の唇を見てどうしました?」
「い、いや、何でもない」
普段なら密着してても大丈夫なのだが、今は意識して瑠菜の赤い目を見れなくなっている。
ルビーのような赤い瞳は綺麗で好きなのだが、羞恥心という蒼の中にはほとんどなかった感情が溢れてきて見れないのだ。
「兄さん、私は兄さんのお願いなら断りませんよ」
蒼が何をしたいのか分かったようで、瑠菜は「ん……」と唇を少し突き出したようにして瞼を閉じた。
このまま顔を近づければ唇を奪うことが出来る。
「ちょ……俺たちは兄妹なのに」
兄妹なのにこれ以上まずい、と理性が訴えたため、何とか思い止まることが出来た。
「……ヘタレ」
今までにないくらいに白い目をこちらに向け、これ以上ないくらいに低い声で罵られた。
確かに女の子が準備万端なのに男子からしないので、ヘタレと言われてもしょうがないかもしれない。
でも、もしするとしたら、今ではなく後日にしたいと蒼は思った。
「今度デートに行くしその時に……」
せっかくデートに行くのだし、ファーストキスはムードが出来てからがいいだろう。
いや、今もキスする雰囲気だったため、自分のヘタレが勝ってしまっただけだ。
「まあ、そういうことにしておきますね」
少しため息混じりの声だったが、これ以上何か言うつもりはないらしい。
ただ、ずっと一緒にいたいのか、しばらく対面座位でイチャイチャするのは続いた。
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