病院でイチャイチャ
「まさか輸血することになるとは……」
病院の処置室のベッドで横になっている蒼は輸血されていた。
パックの中には赤い液体が入っており、細い管であるカテーテルを通して蒼の体内にゆっくりと入っていく。
思っていた以上に血液を失っていたようで、早めに診察をしてもらえた。
「立てないくらいになってんですからしょうがないですよ」
隣で座っている瑠奈がそっと手を握ってくれる。
貧血になった理由を正直に話したら医者に呆れられたが、血液検査の結果が良くなかったから輸血しなければならなくなった。
この病院は入院施設がありながらも予約しなくても受信することができ、簡易的な検査の結果はすぐ分かる。
鼻血による一時的な貧血とのことなので、輸血が終わったら帰ることは可能だ。
二人の見た目から義理の兄妹だと察してくれたらしく、医者は「イチャイチャはほどほどに」と言われた。
瑠奈は医者の言葉に否定していたが、診察中もずっと手を繋いでいればブラコンだと思わない人はいないだろう。
「暇だな」
輸血は初めて受けたが、何もすることがなくて暇すぎる。
カーテンで仕切られているとはいえ、病院でイチャイチャするわけにはいかない。
医者や看護師が入ってきても手を繋ぐ程度であれば仲良し兄妹で済むが、抱き締めたら「体調悪いのに何やっているの?」と病院の人たちに怒られるだろう。
そもそもこの状況で手を繋ぐくらいは、兄を心配している妹と思われる程度だ。
「病人は安静にしていてください」
美しいながらも心配するかのような瞳に見つめられる。
兄が体調を崩すことなど珍しいので、平然を装っていても心配してしまうのだろう。
心配してくれる瑠奈が可愛くて抱き締めたいが、病院ではそれも出来ない。
「体調はどうですか?」
輸血を始めて十分ほどたち、女性の看護師がカーテンを開けて様子を伺いにきた。
長めの黒髪を後頭部でお団子状にしていて、見た目は二十代半ばの美人な看護師だ。
「問題ないです」
始めて十分程度で体調が戻るわけもなく、蒼は自分の体調を話す。
そうですか、と頷いた看護師は、輸血のスピードを調節していく。
副作用がないと分かれば、少し輸血のスピードを早めるとのことだ。
「後、二十分くらいで終わると思いますので、終わったら声をかけてくださいね」
「わかりました」
それだけ言うと看護師はカーテンを閉めてその場を去った。
この処置室は携帯の使用が禁止されているため、今は瑠奈と話すこと以外にやることがない。
「さっきの看護師美人でしたね」
「そう……瑠菜?」
握る力が強くなったので瑠菜の顔を見ていると、少し……ほんの少しだけ赤い瞳から光が失っているようだった。
しかもいつもより若干声が低くて重い。
「私はブラコンなので……兄さんが他の女性と仲良くしたら嫉妬します」
「いや、これはどうしようもないのでは?」
看護師は仕事だからしているのであって、仲良くしたいと思っていないだろう。
別に輸血をされてどうか? と聞かれただけなので、そもそも仲良く話していたわけではない。
「むう……」
どうやら精神的な問題らしく、嫉妬した瑠奈は頬を膨らます。
確かに蒼も瑠菜が他の異性と仲良くさせては嫌なため、あまり強くは言えない。
「兄さんを私だけしか見れないようにします」
「それってどういう……」
「んん……んちゅうー」
首筋にキスされたと同時に、強く吸われるような感触に襲われた。
きっと兄は自分のものだ、とキスマークをつけているのだろう。
まるで吸血鬼が血を吸っているかのようだが、蒼自身も瑠菜にキスマークをつけているからつけられても問題ない。
「えへへ。兄さんにキスマークをつけちゃいました」
「ぶっしゃあぁぁ」
笑みを浮かべた瑠菜にキスマークをつけられたため、せっかく輸血したのに嬉しさで再び鼻血が出てしまった。
すぐに看護師が来て呆れられ、輸血の量が増えたのは言うまでもない。
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