シスコン殺し(ブレイカー)
「あ、れ……?」
鼻血が止まって立ち上がろうとした蒼であるが、身体に力が入らずにフラフラとしてしまう。
視界も若干ボヤけており、上半身を起こすだけでもしんどいレベルだ。
「兄さん?」
不思議そうに思っている瑠奈がこちらを見つめている。
立ち上がらないと心配をかけてしまうため、蒼はなけなしの力を込めて立ち上がるしかない。
だけど身体が思うように動いてくれず、自力で立ち上がるのは不可能だ。
「どうやら鼻血を出しすぎたみたいですね。顔が青白くなってます」
冷静に蒼の状況を察知してくれたようで、瑠奈は近寄って身体を支えてくれる。
二日連続で大量に鼻血を出してしまったのだし、貧血になっても仕方ないのかもしれない。
瑠奈の身体がいつも以上に温かく感じるのは、鼻血によって蒼の体温が下がっているからだろう。
命の危機とかはないだろうが、思った以上に血が出てしまったらしい。
「鼻血で貧血になるなんて聞いたことありませんが、病院に行きますよ」
「行く必要ある?」
「あるに決まっているじゃないですか。私の部屋のゴミ箱を見てくださいよ」
昨日と同じように三十分近く鼻血がで続けていたため、ゴミ箱は血のついたティッシュでいっぱいだ。
視界がボヤけようとも血の色はハッキリと認識出来る。
鼻血のせいで明らかな貧血の症状が出てしまっているのだし、病院に行った方がいいと思ったのだろう。
「兄さんは私の心配はしてくれるのに、自分の心配はしないのですね」
心配していそうな瑠奈が、ギュッと蒼を抱き締める。
確かに蒼は瑠奈の体調が第一のために自分の心配をしない。
「お願いだから病院に行きましょう。血を流しすぎているんですから」
声だけでも心配しているのが伝わってくるため、蒼は「分かった」と頷く。
あまり心配させてしまってはシスコンとして失格なので、ここはきちんと病院にいかないといけないと思った。
本来であれば心配させること自体させたくないが、鼻血が出てしまうのでどうしようもない。
「病院って待つから好きではないんだけど」
歩いて数分のとこに大きい病院はあるが、診察まで長時間待つのが難点だ。
「そんなこと言わないで行きますよ」
呆れつつも本気で心配そうな声が聞こえるので、待つのが嫌だと文句を言っていられない状況らしい。
瑠奈は冗談を言うタイプでないため、本当に蒼の顔は青くなっているのだろう。
自分の顔色は中々分からないもので、実際に頭がクラクラするまで貧血だと気づかなかった。
瑠奈も血を止めるために必死だったらしく、蒼の顔色の変化に気づかなかったのだろう。
「学校に休むって連絡いれますね」
「休むの? 俺は皆勤賞なんだけど」
基本的には健康のため、高校に入学してから休んだことはない。
「一人で立ち上がれない人が何を言っているんですか? 学校で倒れたら皆に迷惑をかけてしまうんですよ?」
確かにそうだ、と蒼は思う。
貧血だとしても校内で倒れてしまえば両親に連絡が行くだろうし、そうなったらせっかく新婚旅行を楽しんでいるのに申し訳ない。
立つことも困難になっているほどに血を流したのに瑠奈が救急車を呼ぼうとしないのは、両親の旅行に水を差したくないというのが理由だろう。
もちろん呼ばない一番の理由は、蒼にきちんと意識があるからだろうが。
「兄さんが安心出来るように、私が……付きっきりで診ててあげますから、ね?」
「はうわ……」
ただでさえ力が入らないのに、耳元で甘い声で囁かれては致命傷になる。
嬉しさでピクピク、と身体が小刻みに痙攣してしまい、ほとんど力が入らない。
兄を喜ばす天才として、シスコン
流石にさっきまで鼻血を出していたため、今は全く出ない。
「兄さんのシスコンは重体なレベルですね」
「シスコン
「何意味不明なことを言っているんですか?」
兄が貧血になっているというのに、瑠奈は基本的にはクールで「はあー……」と深いため息をつく。
「病院にはタクシー使って行きますからね」
「普段はお金が勿体無いと言っているのに?」
「今日は特別です。兄さんは自力で歩けそうにないですし、私が兄さんを支えて歩くなど不可能ですので」
ため息混じりにそう言った瑠奈は、テーブルに置いてあるスマホを取って電話をかけ始める。
タクシーはまだ着替えなどが終わっていないために呼ばないだろうし、学校に休む連絡を入れているのだろう。
まだ七時三十分にもなっていないのに教職員はいるのかな? と思ったが、話し始めたからいるようだ。
「さて着替えて病院に行きますよ」
電話を終えた瑠奈に着替えを手伝ってもらい、蒼は彼女の肩を借りて歩きタクシーで病院に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。