妹の気持ち

「兄さん」


 最愛の妹を抱き締めて寝ている兄を見て、瑠奈は優しく微笑む。

 ここ最近は抱き締めながら寝ることが出来るため、幸せを感じているからだ。

 初対面から奇怪や驚きの目ではなく、蒼は好意を向けてくれた。

 今まで友達が全然出来なかった瑠奈にはとても嬉しいことだったのだ。

 好意を向けられてどうしていいか分からないからキツく当たってしまうが、最近は素直な気持ちになることが出来る。

 今まで折れずに毎日好意を向けてきたのと、言っては悪いが、蒼が捻挫してくれたから面倒を見る形で素直になてたのだろう。

 今日のお風呂はかなり恥ずかしかったが、結果的には背中を洗うことが出来た。

 兄妹仲良くお風呂に入れて、今日は舞い上がってしまって日付が変わっても寝れないでいる。


「んにゃ……瑠奈は……今日も、美しい……」

「夢でも私と一緒にいるんですか? 本当に骨の髄までシスコンが染み付いてますね」


 ツンツン、と人差し指の腹で蒼の頬をつつく。

 皮肉のような言葉に聞こえるかもしれないが、嬉しくてつい口にしてしまった。

 あの女……美波ではなくて自分と一緒にいる夢を見てくれているからだ。

 蒼に妹のような幼馴染みがいた過去を消すことは出来ないが、これからの未来は違う。

 何としてでも美波を蒼から遠ざけなければならない。

 他の人だったらまだいいが、美波は昔一緒にいたから蒼は彼女に甘い面がある。

 油断していたら美波に兄を奪われかねない。

 それだけは瑠奈にとって最も避けなければならないことだった。


「兄さんがいなくなるのは絶対に嫌です」


 蒼に彼女が出来てはもう一緒に寝るのも叶わなくなる他にも、もしかしたらシスコンでなくなるかもしれない。

 思春期の女の子が義理とはいえ兄とずっといるのは変かもしれないが、瑠奈にとっては一番大事だとここ数日一緒に寝て感じたことだった。

 もし、一緒にいれなくなったら……と考えただけでも、寂しさで目に涙が貯まっていくのがわかる。

 ずっと一緒にいる生活を何としてでも守りきらないとならない。


「ん……ずっと、一緒……」


 まるで自分の問いかけに反応してくれているかのようで、瑠奈は口元が緩むくらいに嬉しくなった。

 ずっと一緒にいれれば寂しくなることはないし、何より最愛の兄である蒼と一緒にいることが出来る。

 フィクションのように兄に恋愛感情があるかどうかは分からないが、蒼に彼女が出来たら絶対に祝福は出来ない、と瑠奈は思った。

 もしかしたら別れるように言うかもしれないし、下手をしたら誘惑してでも別れさせるだろう。

 彼氏が妹と身体の関係を持ったとなれば、彼女は確実に別れてくれるはずだ。

 ただ、身体の関係はあくまで最終手段であり、今はなるべく一緒にいて他の女の子を意識させないようにする。


「私はずっと兄さんの側にいますよ。だって……ブラコンなんですから」


 寝ている蒼の耳元に顔を近づけて囁く。

 普段だったら今ので力が抜けているだろうは、寝ている今は当たり前のように反応がない。

 連続して反抗があったら起きてるのを疑うレベルなので、反応がないのは当然と言える。

 でも、寝ているからこそ、今は素直になれるのだ。

 蒼が起きていたら素直になれず、いつものように毒を吐いてしまうことがある。

 本当はいつも素直になっていたいが、恥ずかしさでどうしても素直になりきれない。


「毎日毎日兄さんの温もりを感じさせてください」


 もう蒼の温もりがないと寂しさでどうにかなりそうなほどだ。

 捻挫で困っている蒼に面倒を見るという理由で一緒にお風呂に入ってしまったのだから。

 一緒にいれないともう無理だと思ってしまったと同時に、自分の瞳から光が無くなったようにも感じた。

 もしかしたらたまにアニメとかで出てくるヤンデレキャラなのかもしれない。

 兄に対して愛情を持っている時点で、自分が病んでいるというのは分かる。

 ただ、ヤンデレであったとしても、瑠奈は嫌な気持ちがしなかった。

 ヤンデレであるからこそ、兄に対して愛情を持つことが出来たのだから。

 もし、ヤンデレでなかったら感謝ことはしても、瑠奈はブラコンになることはなかっただろう。


「お母さん、再婚してくれてありがとう」


 再婚してくれたから蒼と一緒にいれるようになったのだし、瑠奈は旅行を楽しんでいる母親に感謝をし、寝るために瞼を閉じた。

 もちろん最愛の兄を抱き締めながら。

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