兄妹仲良くお風呂

「ふう~気持ちいい」


 散歩から帰ったきた蒼はお風呂に入っていた。

 夜の散歩だから汗をかくことはないが、帰ってきた後のお風呂はとても気持ちいい。

 入浴剤入りの湯船に浸かった瞬間が特に気持ち良く、一日の疲れが抜けていくのを感じる。

 お風呂に入る時は包帯を巻くわけにはいかないために今は外している。

 湿布を貼ってないしお風呂は温度が高くて血行が良くなっているためか、先週と同じように右手首が痛い。

 この痛みでは背中を洗うのが大変だ。


「に、兄さん……」


 ガチャっとドアが開かれる音がしたと同時に、バスタオルに身を包んだ瑠菜がお風呂場に入ってきた。

 バスタオルも肌も白いから一瞬丸裸かと勘違いしそうになったが、きちんとバスタオルを巻いているから裸ではない。


「どうしたんだ?」


 いくらブラコンと宣言してもお風呂に入ってくるとは思っていなかったので、蒼は驚きの表情を瑠菜に向ける。

 アルビノの瑠菜は基本的にシャワーだけだし、ましては蒼が入っている時に来るのおかしい。


「あの、あんまり見ないで、ください」


 いくらバスタオルを巻いていたとしても、見られるのは相当恥ずかしいようだ。

 男子ならそうでもないだろうが、海やプールに行かない女子の瑠菜は見られるのは慣れていないのだろう。

 普段から肌の露出を抑えた服を着ているから尚更だ。


「どんな瑠菜だって美しいぞ」


 本音を伝えると、瑠菜は「はいはい」とだけ口にした。

 バスタオルで一切見えることはないはずなのに、恥ずかしさからか胸と太ももの部分を手で隠している。

 恥ずかしいなら入ってこなければいいのに、と思ったが、どうやら瑠菜には蒼と一緒にお風呂に入りたい理由があるらしい。


「あの……捻挫してては身体が洗いにくいと思い、兄さんの背中を、流しに来ました」


 漫画であれば間違いなくカアァァァ、という擬音が足されていてもおかしくないくらいに、今の瑠菜は茹でダコのように顔が真っ赤だ。

 普通の兄妹と違って思春期間近で家族になったため、一緒にお風呂に入ったことなどない。

 いくら一緒の家に住んでいるとはいえ、瑠菜にとっては相当勇気がいることには違いないだろう。


「あう……鼻血が……」


 嬉しさとお風呂ということで血圧が上がってしまったのか、蒼の鼻から血が出てきた。

 急いで左手で抑えようとするも、勢いが凄くで血が湯船に垂れてしまう。


「ちょ……兄さん?」

「大丈夫」


 少し頭がクラクラするも、蒼は顔だけをバスタブの外に出す。

 これでもう湯船が汚れることはないし、大切な瑠菜を汚さなくて済む。

 滝のように流れてくる鼻血をどうにかしなければならないが、今の状況……つまりは瑠菜がいては湯船から出るには不可能だ。

 お風呂には裸で入るのが普通のため、もちろん蒼はバスタオルなんて巻いていない。

 一切の汚れがない瑠菜に、男の象徴たる部分を見せるわけにはいかないのだから。


「兄さんの身体はどうなっているんですか? 私に甘い声を囁かれただけで力が抜けるし、今回は鼻血を出すし……」

「瑠菜で喜ぶ身体になっている」

「なら別の喜び方にしてくださいよ」


 全くもう……と呟いた瑠菜は、ドアを開けてバスタオルを取り出してこちらに渡してくれる。

 これを腰に巻けなのか鼻を抑えろなのかは分からないが、蒼はバスタオルを腰に巻く方を選んだ。

 湯船から出て少しでも体温を下げた方がいいと思ったからだ。

 バスタオルさえ巻いていれば、瑠菜に見せる心配はない。

 力が入らないながらもゆっくりと湯船から出た蒼は、「ふうー」と息を吐きながらバスチェアに腰かける。


「じゃあ背中を洗ってくれ」

「先に鼻血を止めるべきでは?」

「瑠菜に身体を洗ってもらえるんだぞ。鼻血なんて二の次だ」


 恐らく一緒にお風呂に入る機会はそうないだろう。

 兄妹仲良く一緒のお風呂を鼻血程度で中止させるわけにはいかない。

 未だに勢い良く出ているが、その内鼻血は止まってくれる。


「兄さんは私の身体についてはすぐ心配するのに、自分の身体には無頓着ですね」

「兄が妹の心配をするのはシスコンでなくても普通のことだ」


 血の繋がりがなくても家族なのだし、心配しない人はいない。


「にしても過剰ですよ。流石はシスコンということでしょうか」

「シスコン万歳」

「そうですか。でも、私もブラコンですから兄さんが私を心配するように、私は兄さんの心配をするんですよ」


 ピトっと瑠菜は蒼の背中に手と頬と当ててくる。

 ただ、今の蒼にそんなことをしたら逆効果で、さらに勢い良く鼻血が出てしまうだけ。


「瑠菜……俺はどうやら幸せによる失血死をするようだ……」

「何言っているんですか? とっとと身体を洗って鼻血止めますよ」

「はい」


 瑠菜は手にボディーソープを付けて背中を洗ってくれた。

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