夜のお散歩
「雨が降った後ですし、夜はまだ少し寒いですね」
「そうだな」
晩ご飯を食べて一時間ほどたってから、蒼と瑠菜は散歩をしていた。
雨は夕方には上がったので、水溜まりさえ避ければ散歩は出来る。
瑠菜の体質では昼間に長時間外に出るのは難しいため、運動不足にならないように紫外線が気にならない日が落ちた後に、一時間程度一緒に散歩するのが日課だ。
今日は雨が降った後の散歩なので、二人とも上着を羽織って外に出た。
本当は非常に手を繋ぎたいが、散歩は軽い運動になるために手を繋がない。
もうすぐ梅雨に突入するので、そろそろ夜の散歩が出来なくなる。
瑠菜と一緒に外出出来る少ない機会だからあまり雨は降ってほしくないが、天候に文句を言っても仕方ない。
「やっぱり瑠菜は世界一美しい」
雲の隙間から出た月明かりが瑠菜を照らし、特に銀髪が幻想的に思えるくらいに綺麗だ。
別の次元から飛び出してきたと言われても疑問を持つ者はいないだろう。
ここまで綺麗だからこそ、瑠菜には友達と呼べる人はいない。
高価な宝石に素手で触れないのと同じように、誰も瑠菜に近寄ってくる人がいないのだ。
美しすぎる人故なのだろう。
「沢山言われてるから嬉しくありませんよ」
プイっと視線を反らされたが、月明かり照らした瑠菜の顔は嬉しそうだった。
沢山といっても数が多いだけであって、美しいと言う人は蒼しかいないだろう。
もし、綺麗だと言って瑠菜に近寄ってくる男がいるのであれば、どんな手を使っても排除しなければならない。
たっぷりと痛めつけ、瑠菜に近寄ろうとしたことを心の底から後悔させる。
「兄さん、顔が怖いです」
「おっと、表情に出てしまったようだ。瑠菜に近寄ってきた男がいたらどう料理しようか考えてた」
「私に近寄ってくる人などいませんよ。それに……兄さんさえいてくれればいい、です」
頬を赤くして小声で言い、瑠菜はそっと手を繋いでくる。
瑠菜の手はとても温かく、もっと求めて蒼は指を絡めるようにして手を繋ぐ。
恥ずかしそうにしながらも「えへへ」と嬉しそうな声が聞こえるので、どうやら指を絡めるのは正解だったようだ。
夜の散歩で手を繋ぐのは初めてのことだが、これからはこうやって歩くことになるだろう。
「それはそうと痛みはどうですか?」
赤い瞳は包帯が巻かれている右手首の方を向いている。
今回はほとんど瑠菜のせいでこうなったので、捻挫している右手首が心配なのだろう。
「瑠菜が手当てしてくれたから問題ないさ」
実際に先ほどよりかは痛みは引いており、前回の捻挫より早く治りそうだ。
「痛みが酷い場合は言ってくださいね。またお手伝いしてあげますので」
「ああ。よろしく頼む」
ニッコリ、と笑みを浮かべると、瑠菜も笑顔で返してくれた。
元から可愛いというのは分かっていたが、月明かりに照らされている時の笑顔は絵になるくらいにいつもより何倍にも可愛く見える。
兄妹じゃなかったら本当に惚れてしまってもおかしくないくらいに見惚れてしまうほどだ。
初めて出会ったのが妹としてなので、惚れてはいけないのは分かっている。
でも、やはり瑠菜は他のどんな人より美しくて可憐な少女だ。
「じゃあ散歩の続きをしようか」
「はい」
手を離すのは寂しくなったので、繋いだまま散歩を続けた。
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