キスマーク

「兄さん、ぎゅーです」


 二十三時前、お風呂に入って寝る準備を終えた蒼は、瑠菜がいるベッドに入る。

 今日の昼過ぎに自分がブラコンだと認めたためか、ネグリジェ姿の瑠菜から抱きついてきた。

 恥ずかしそうに頬を赤く染めながらも、女性の武器である胸を押し付けるように。


「ぎゅー」


 重度のシスコンである蒼は瑠菜と一緒にいれるのがとても嬉しく、優しく彼女を抱き締める。

 抱き締められたことにより表情は緩んでいくが、瑠菜は恥ずかしいらしくて蒼の胸に自分の顔を隠すようにして埋めた。

 恥ずかしがっているのを見られたくないらしい。


「兄さんのバカ……」

「バカ?」


 顔を埋めてた瑠菜に突然バカ、と言われ、蒼は驚いてしまう。

 今までは何かしらシスコン発言をした後など理由があって言ってくるが、今日のは本当に突然だった。

 だから開いた口が塞がらない。


「だって兄さんは自分でシスコンだって言ってるのに、妹以外の人と仲良くしてました」


 あからさまに嫉妬しているかのような声だ。

 しかも背中をつねられていることから、瑠菜が怒っているのが分かる。

 キリキリ、と擬音が出そうなくらいに爪を立てて強くつねられたため、痛みで悶絶しそうだ。


「兄さんはシスコンなんですから、私以外の女の子と仲良くしちゃダメなんです」


 ほんの少しブラコンだと言った割には独占欲が強い。

 他の女子だったらくっつかれた時点で離れようとするのだが、美波は昔から一緒にいた幼馴染みだったから叶わなかった。

 同じ学年になるし、学校で美波積極的に蒼に絡んでくるだろう。

 でも、瑠菜は美波と絶対に仲良くしないでほしいい、と思っていそうな顔で睨めつけてくる。

 せめてつねるのを止めて欲しいが、今は何を言っても無駄だろう。

 瑠菜の機嫌が良くなるまでは我慢しているしかない、というのを蒼は察した。


「私はブラコンですから……兄さんが他の女の子と一緒にいたら嫉妬、します」


 抱き締めているから瑠菜の体温が伝わっているのだが、その熱さ頬の赤さ具合いから嘘を言っていないのが分かる。

 瑠菜がブラコンになったというのは簡単に想像でき、蒼が初対面で好意を示したからだろう。

 今まで白い髪と肌、真っ赤な瞳のせいで距離を置かれていたので、好意を示してくれたのが嬉しくてブラコンになったようだ。

 ただ、母親が再婚するまでまともに話してなかった影響からか、どう接していいか良く分からなかったから辛辣になったのだろう。

 でも、美波という最愛の兄に好意がある人が現れたことで、なりふり構っていられなくなったらしい。

 美波が現れたから自分がブラコンだというのを自覚した、というのもあるかもしれないが。


「兄さんと一緒にいたいんです……兄さんがいなくなったら私はまた一人ぼっちになっちゃう……」


 瑠菜はとても悲しそうな顔をした。

 以前の瑠菜……というか宇佐美家になる前は母親が朝から晩まで仕事だったために、彼女はいつも一人だったらしい。

 父方の祖父母は既に亡くなっていたから頼ることはできず、母方の親戚は瑠菜の容姿を嫌っていたからずっと一人だったとのこと。

 でも、母親が再婚したから蒼という兄ができ、瑠菜は一人じゃなくなった。


「ずっと一緒にいるさ……痛い……」


 ずっとつねられながらも、蒼は真剣な顔をし……いや、涙目になりながら答える。

 一緒にいたいのであればつねるのを止めて欲しいが、シスコンなのに妹以外の女の子と仲良くした罰なのだろう。


「なら証拠を見せてください」

「証拠?」

「はい」


 ようやくつねるのを止めた瑠菜は、自分の首筋辺りの髪を退かす。


「学校では一緒にいれないので、キスマークつけてください。一緒にいれない時も私は兄さんの妹なのだとキスマークで実感させてください」

「キスマーク?」


 キスマークとはキスによって出来る痣のことだよな? と思いつつ、蒼は汚れがなくて白い首を見る。

 アルビノの肌は敏感で、瑠菜の肌に痕が残るようなキスをしたらどうなるか分からない。

 流石に永遠に痕が残るようなことはないだろうが、変に傷なんてついたら大変だ。


「兄さんの考えていることは分かります。いつもあれだけ肌を心配してくれてますから」


 肌のことになると蒼は過敏に反応してしまうのだし、そんな兄を見て何を考えているか分かったらしい。


「私はブラコンですから、兄さんに傷をつけられるのは問題ありません」


 まさかの妹がMだったことに驚きだが、瑠菜はどうしてもキスマークを付けてほしいようだ。

 こちらを見つめる赤い瞳が本気さを感じさせる。


「そんなに付けてほしいなら付けてあげるよ」

「はい。ひゃあ……」


 絶対にこの白い肌に傷をつけたくない……そんな信念を曲げさせるくらいにキスマークを付けてもいいと思った。

 綺麗な首筋に唇を当て、ちゅー、と音を立てて強く吸い付く。


「きちんとキスマークが出来たよ」


 首筋から唇を離すと、しっかりと赤い痕……キスマークが出来ていた。


「嬉しい、です」


 キスマークを付けられて嬉しくなったのか、瑠菜はうっとりとした表情で首筋を触る。


「これから毎日付けてくださいね」


 ニッコリと笑みを浮かべた瑠菜に、蒼は頷くだけしか出来なかった。

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