妹が積極的になる

 昼ご飯を食べた後、美波は母親から連絡が来て自分の家に帰った。

 どうやら家族で戻って来たようなので、今度挨拶に行った方がいいかもしれない。

 美波の母親には昔とてもお世話になったのだから。


「兄さん、ぎゅーってしてください」


 洗い物を終えてキッチンからリビングに行くと、ソファーに座っている瑠菜が甘えたような声を出して赤い瞳で見つめてきた。

 熱を帯びたように頬は紅潮しているので恥ずかしがっているのは分かる。

 でも、恥ずかしくなってでも言わないといけない、と思ったのだろう。


「はう……」


 シスコンの蒼にとって、妹の瑠菜から甘えられたら衝撃が走って力が抜ける。

 何とか踏ん張ってソファーまで着けたはいいが、そのまま力尽きたように瑠菜の太ももに向かって倒れ込む。


「兄さん?」

「瑠菜に甘えた声を出されると、力が抜ける……」


 シスコンを極め過ぎた影響のようで、甘えられると嬉しすぎるのだ。

 特にここ最近の瑠菜は良く甘えたような……というか猫撫声を良く出してくるので、力が抜ける回数が多い。

 恐らく他の人には決して出すことがない声だろう。


「本当にシスコンが極まってますね」

「最高の褒め言葉」


 力が入らない右手で何とか親指を立てて瑠菜の方へと向ける。


「でも、おかげで膝枕になりましたね」


 倒れ込んだ先が瑠菜の太ももだったため、いわるゆ彼女が彼氏に膝枕をしているような構図だ。

 細くても柔らかい太ももは一切の汚れがなくて凄い良く、ずっと膝枕をしていられるかもしれない。


「兄さんはシスコンですから私だけを見ていればいいんですよ?」


 頭を撫でられながら言われた。

 膝枕は事故のような物だが、瑠菜の方から頭を撫でる……つまりは触れてくる行為は非常に珍しい。

 いつも蒼の方からくっついてくるし、今までは瑠菜からくっつく必要はなかったのだろう。

 でも、美波という妹のような幼馴染みが現れたため、受け身でいられなくなったという感じだ。

 今回の膝枕は怪我の功名と言えるが、これからは積極的になる可能性がある。

 瑠菜の方から来るのは嬉しいので、このまま膝枕を堪能させてもらうだけ。


「もしかして美波に嫉妬してる?」

「し、してません。兄さんは自意識過剰ですね」


 私だけを見ていればいい、と言った時点で明らかに嫉妬しているが、どうやら瑠菜は隠していたいようだ。

 あそこまで言っておいて隠していたい理由が不明だが、恥ずかしさがあるためだろう。


「でも、ほんの……ほんの少しだけブラコンだって認めても、いいです」


 髪の隙間から見える耳まで真っ赤にした瑠菜は、視線を反らして自分がブラコンだと認めた。

 最近とはいえ高校生になって一緒になって寝ているのだし、美波の一言でブラコンだと実感したのだろう。

 恥ずかしくてもブラコンだと言った理由は、美波が蒼に積極的に好き好きアピールしているからだと推測出来る。


「私はブラコンですから……他の妹がしないようなことだって、出来ますよ?」


 膝枕しながらこちらに顔を近づけてきた瑠菜は、頬を赤らめながらも囁く。

 他の妹が出来ないようなこと……今してもらっている膝枕がそうだろう。

 本来膝枕は恋人同士がすることであって、兄妹でするものではないため、シスコン、ブラコンじゃないと今のような体勢になることはない。


「だから、甘い声で囁かれると力が……」


 瑠菜が甘えてくる度に、嬉しすぎて蒼は力が抜けてしまう。

 妹に甘えられるという行為は、シスコンにとって嬉しいことで、これで力が抜けるほど喜ばなかったら真のシスコンとは言えない。


「甘い声で囁けば兄さんを好き放題出来るというわけですね。あの人に誘惑されても大丈夫なようにしなければならないですし」


 美波をあの人呼ばわりするくらいに嫌いなのだろう。


「このまましばらく兄さんには膝枕を堪能してもらって、もっとシスコンになってもらいましょうね」


 もうシスコンを極めたつもりだが、瑠菜にとってはもっとシスコンになって欲しいようだ。

 ただ、口は笑っていても、若干……ほんの、ほんの少しだけ瑠菜の瞳からは光が失われていたような気がした。

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