対立
「で……その女の子は誰なんですか?」
買い物を終えて帰宅した蒼に待っていたのは、白い目をした瑠菜だった。
兄が可愛い女の子と仲良くしているのだし、蔑んだ目で見たとしても仕方ないだろう。
明らかに機嫌が悪そうにしている瑠菜は頬を膨らませており、一緒にいる美波に嫉妬しているようだった。
おかげでキッチンにある冷蔵庫に食材をしまえないでいる。
「美波は俺の幼馴染みだな」
「神藤美波です。てかこの子の容姿どうなっているの? え? 現実にこんなにも美しい人がいるの?」
自己紹介をした美波は瑠菜を見てとても驚いているようで、まるで美術品を見ているかのような目だ。
世界一美しい瑠菜に見惚れるのは当たり前のことだが、あまり見られるのは彼女にとって嫌なことだろう。
珍しい目で見られるのは瑠菜にとって一番嫌なことなのだから。
「兄さんに幼馴染みなんていたんですか? 初耳なんですけど」
一緒にいたのは親が再婚する前のことなので、瑠菜が美波のことを知らないのは当たり前だ。
「引っ越しちゃったからな。最近戻ってきて来週から同じ高校に通うことになる」
「そうですか」
ここ最近は兄妹仲良くしていたのだが、以前に戻ったように瑠菜は素っ気ない返事をした。
お兄ちゃん悲しいよ、と言おうとしたが、それは美波の一言で叶わない。
「二人は兄妹なの? お兄ちゃんに妹はいなかったと思うけど」
「親が再婚して兄妹になった」
「そかそか。お兄ちゃんの彼女ではなかったんだね。安心したよ」
ニッコリと笑みを浮かべた美波は、機嫌が悪そうな瑠菜を見た。
気のせいかもしれないが、瑠菜と美波の視線がぶつかってバチバチと火花が上がっているように見える。
もしかしたら美波は瑠菜がブラコンだと察したのかもしれない。
義妹と妹のような幼馴染みだし、出来ることなら仲良くしてほしいというのが蒼の本音だ。
「私は兄さんの妹の瑠菜です。付き合っていないようでしたら、いい加減離れてくれないですかね? そんな小さな物では兄さんは喜びませんよ?」
「えー、私がお兄ちゃんとつっくいても、妹の瑠菜ちゃんが口出しすることではないよね?」
どうやら義妹と精神的妹は相容れないらしく、視線のぶつかり合いが激しくなった。
美波の胸は決して小さいわけではなくてとても柔らかいが、どうしても大きい瑠菜には劣る。
「俺は胸の大きさで女の価値を決めるわけじゃないんだが……」
大きかろうと小さかろうとどうでもいいことなので、胸など気にしたことがない。
そもそも本気で瑠菜を愛してるために、美波が胸を押し付けてこようと何とも思わないのだ。
まさにシスコンの境地に立っていると言っても過言ではないだろう。
「私は将来、お兄ちゃんと結婚する約束をした仲だよ。妹のような幼馴染みだから約束出来ることだね」
確かに以前そんな約束をした記憶はあるが、まさか幼稚園の時の話を持ってくるとは思わなかった。
昔は良くお泊まり会で一緒に寝たりして相当仲が良く、自然と将来は結婚しようと話したりしたのだ。
「そんなのは幼稚園の時の話でしょう? 私は兄さんと毎日一緒に寝ています」
張り合わなくていい、とツッコミを入れたい。
そもそも一緒に寝るようになったのはここ数日の話なので、毎日というのは間違いだろう。
「高校生の兄妹が一緒に寝るのはおかしいと思うな。私だったら幼馴染みだから大丈夫だよ。たとえ間違いが起きたとしても、ね?」
誘惑するかのように、美波は腕に抱きつく力を強める。
むにゅ、と腕に柔らかい胸が押し付けられると同時に、蒼は美波に惚れられていると察した。
いくら昔から距離が近いと言っても、好きでないと思春期になってから胸を押し付けてきたりしない。
最初はあざとくなったから、と思ったが、頬を赤くして恥ずかしがっていることから違うと分かった。
好きな人相手だから出来るのだろう。
「むう……兄さんはシスコンですから、幼馴染みが誘惑しても無意味ですよ」
「そうなの? でも、私はお兄ちゃんの妹みたいな存在だから、シスコン相手でいけるよ」
「いけません。兄さんは私を愛してるんですから」
対抗するかめか、頬を真っ赤にした瑠菜まで腕を絡めてきた。
あう~、と恥ずかしそうにしながらも、大きな胸を押し付けてくる。
「何で俺はラブコメ主人公になっているの?」
そんなことを呟くも、瑠菜と美波の対立が終わることがなかった。
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