リスエスト

「兄さん……」


 二十三時前、お互いにお風呂を済ませ、寝るために一緒のベッドに入る。

 昨日も一緒に寝たとはいえ瑠奈には恥ずかしいようで、先ほどから頬が赤い。

 ゆっくりと優しく蒼が抱き締めてあげると、瑠奈は「あ……」と少し甘い声を出す。

 普段クールな瑠奈が甘えたような声を出すのが難しいため、録音したくて碧は反射的にスマホを取り出す。

 もちろん録音アプリを起動しながら。


「録音はやあ、です。私が兄さんのために、生の声で言ってあげます、から」


 頬を赤らめた瑠奈が耳元で吐息混じりの声で言ってきたので、蒼は再び身体中に衝撃きて力が抜ける。

 妹が素直になってきているのはシスコンにとっては嬉しいことのため、本当に幸せな気持ちでいっぱいだ。


「いつでも瑠奈の生声が聞ける?」

「時と場合によります。二人きりの時限定ですから」


 流石に外では甘えた声を出してはくれないらしい。


「でも、今は二人きり、ですから……兄さんの、リクエストを聞きます」


 自分で言ってて恥ずかしくなったようで、瑠奈は蒼の胸に顔を埋める。

 まだあまり力が入らないが、優しく頭を撫でてあげると、恥ずかしそうな「あう~……」という声が聞こえた。

 最近の瑠奈は本当に可愛く、シスコンを極めた蒼ですらレベルが上がってしまいそうなくらいもっと愛してしまいそうだ。

 ショック死してもおかしくないの衝撃が走ったのだから。


「後、勘違いしないでほしいのは、兄さんのことを好きだから言うんじゃないですからね。スマホに音声を保存してほしくないから言ってあげるだけです」


 顔を埋めながらも、ツンデレのような言葉を口にした瑠奈の体温がさらに上がっていく。

 掛け布団がなくても全然大丈夫なくらいに身体が温かい。


「ツンデレはリクエストしていないぞ。素なのか?」

「私はツンデレじゃありません。あくまで私のために言っているだけです」


 プイっと恥ずかしそうにしてそっぽを向いた瑠奈を、蒼は再び優しく抱き締める。

 右手を使うと痛みが走るから左手だけで抱き締めないといけないのがもどかしい。

 本当だったら思い切り両手を使って抱き締め、いっぱい瑠奈の感触を味わいたいのだ。

 捻挫してしまったのを後悔しても仕方ないため、治ったら両手を使って抱き締める。


「兄さんって彼女欲しいと思わないんですか? 以前告白されたことありますよね?」

「思わない」


 他の人に興味を持てないため、蒼はハッキリと即答した。

 確かに以前告白されたことはあるが、好きでもない人と付き合うつもりはない。


「そんなことを言うなんて瑠奈に好きな人が?」


 人生で最大の一大事なため、好きな人がいたら何が何でも聞き出さないといけないことだ。


「大丈夫ですよ。私に近寄ってくる男子はいませんから」


 白い髪と肌、赤い瞳は、他の人からしたら本当に近寄りがたいのだろう。

 何でこんなに美しいのにモテないのか不思議に思うが、男が近寄ってこないのなら蒼には安心出来る。

 瑠奈に好きな人が出来たら男を殺してしまいそうなのだから。


「それじゃあ早速リクエストを」

「あまり恥ずかしくないのでお願いしますね」

「そのリクエストには答えられない」

「お願いですから答えてください」


 あはは、と笑った蒼は、耳まで真っ赤にしている瑠奈の耳元で言って欲しいセリフを呟く。

 相当恥ずかしいようで、さらに紅潮して「あう~……」となる。


「わ、私の身体で、沢山気持ち良くなって、寝てください……」

「何か女の子が言うと卑猥だな」

「兄さんが言えって言ったんじゃないです、か」

「いしゃい……」


 眉間にシワが寄った瑠奈に思い切り頬をつねられた。

 全くもう……と呟いた瑠奈は、恥ずかしすぎるのか、再び蒼の胸に顔を埋める。

 瑠奈に恥ずかしがってセリフを言われたらまた力が抜けるかと思ったが、こちらからリクエストしたのはダメらしい。

 演技っぽくなってしまうのが原因なのだろう。


「瑠菜、おやすみ」

「おやすみなさい」


 明日の学校に備え、蒼は瞼を閉じた。

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