毎日一緒に寝る約束

「えへへ。兄さんと一緒のスマホ」


 家に帰って来た瑠奈は、制服から着替えずにリビングでずっとスマホを見ている。

 メッセージアプリなどの引き継ぎが終わった後は特に操作しているわけではなく、何故かひたすら眺めているだけだ。

 ちなみに一緒に購入したスマホケースは手帳型の色違いのお揃いで、色は蒼が白の瑠奈が黒のを付けている。

 兄と一緒のスマホに出来たのが嬉しいのだろう。


「スマホを見ている瑠奈も美しい」


 制服からいつもの部屋着のジャージに着替えた蒼は、ソファーに座ってスマホを見ているだけでも美しい瑠奈を見る。

 パソコンにある瑠奈の写真や音声をスマホに転送しているため、蒼のは手元にない。

 今日購入したスマホは発売されている中で一番容量が大きいので、パソコンに入っている瑠奈の写真などがあっても、ストレージが圧迫して動きが鈍くなることはないだろう。

 実際に少しだけ操作してみたが、性能が以前のスマホより数倍良かった。

 これならさらに瑠奈の写真や音声を入れることが出来る。

 スマホが手元にない今ですら口元が自然とニヤけてしまう。


「家でのタイツもいいな」

「ひゃあ……」


 黒タイツを纏っている太ももにスウゥ、と指を這わすと、瑠奈が甘い声を出す。

 気温が高くなってきているので、ゴールデンウィーク明けから薄めのタイツになっているので、触れられただけで反応してしまったのだろう。


「兄さん、触り方が少しエッチです」


 むう、と頬を膨らませているが、本気で怒っているわけではないようだ。

 少し前の瑠奈であれば怒って自分の部屋に行っていただろうし、抱き締められながら寝て無意識の内にブラコンを解放したようにしか見えない。

 手を繋ぎながら一緒に登校していたことから元々ブラコンの毛があるのは分かっていたが、一緒に寝てからはブラコン度が増したのだろう。


「あはは、瑠奈のせい」

「何でですか?」

「瑠奈がスマホばっか見て俺を見てくれない」


 新しいスマホを買って見ていたくなるのは分かるが、少しは自分のことを見てほしい。

 そんな思いがあって、蒼はつい瑠奈の太ももを触ってしまった。


「本当に兄さんはシスコンですね」


 少し口元が緩んでいる瑠奈は、いつもみたいに呆れた様子ではない。

 やはりブラコン度のレベルが上がったとみていいだろう。


「おう。新しいスマホにしたし、いっぱい瑠奈の声を録音したいし写真を取りたい」


 瑠奈関係のものはあればあるだけい嬉しい。

 しばらくは容量を気にしなくていいので、パソコンに保存してあるデータを転送し終えてから行動に移すつもりだ。


「もう……録音しなくても、明日からは私が起こして、あげますよ?」


 スマホをテーブルに置いた瑠奈は、頬を赤くして上目遣いでこちらを見つめてきた。

 見つめられただけで力を抜けそうになるが、今はそんな状態になっている場合ではない。


「瑠奈が俺を起こす? 本気か?」


 今までお越しに来ることなんてなかったので、蒼は驚いて左手で自分の頬を思い切り叩く。


「夢じゃ、ない」


 頬にジンジン、と痛みがあるため、夢でないことが確定した。


「シスコンって皆アホなんでしょうか?」


 どうやらブラコン度が上がったとしても、毒舌になることはあるらしい。

 それでも白い目になっていないので、少しはマシになっただろう。


「それで起こしてくれるのか?」

「はい。どうせ一緒に寝ることになるのですし、スマホから私の音声が流れるのが嫌ですから」


 一緒に寝るのは決まっていることのようで、瑠奈は視線を反らしながら蒼の袖を指で軽く掴む。

 まるで付き合い始めたカップルの彼女が甘えたくても恥ずかしくて出来ない……今の瑠奈はそんな感じだ。


「可愛いな」


 恥ずかしそうに甘えてくる瑠奈が可愛く、蒼は彼女に抱きつく。


「ちょっ……本当にシスコンを拗らせてますね」


 少し毒を吐きながらも、瑠奈の口元は少し緩んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る