妹と一緒に寝る

「うう~……一緒に寝る必要ってありますか?」


 時刻は二十二時過ぎ、蒼は瑠奈と一緒のベッドに入っている。

 お互いにお風呂を済ませて後は寝るだけだが、兄と一緒に同じベッドに入っているからか、瑠奈は今までにないくらいに頬が赤い。

 今は瑠奈の部屋で、白を基調とした家具が彼女にマッチしている。


「だって家でなら俺のお願いは断らないって言ってたから」


 試しに一緒に寝たい、とお願いしてみたところ、恥ずかしながらも了承してくれた。

 いくら家でのお願いは断らない、と言っても、普段の瑠奈だったら拒否していただろう。

 でも、今日は捻挫させてしまったため、無理難題でもお願いされたら断るつもりはないということだ。


「確かにそう言いましたけど……あう~……」


 恥ずかしさからか、瑠奈は先ほどからこちらを見ていない。

 胸の部分に黒のリボンがついている薄いネグリジェを瑠奈は着ているので、ギュっと抱き締めると彼女の柔らかな感触と体温が伝わってくる。

 永久に感じていたいと思わせる感触は、今までにないくらいの幸福感を与えてくれるのだ。

 小学校の高学年から兄妹になったために、普通の兄妹のように同じベッドで寝たことがないので、嬉しさでつい口元が……いや、顔全体が緩んでしまう。

 誰から見てもだらしない顔だというのは明らかだ。


「俺は瑠奈の寝顔を見ないと眠れないから早く寝てくれ」


 安心して寝ている瑠奈の顔を見ないと眠れない身体になってしまった。

 だから毎晩忍びこんでまで寝顔を見ているし、お願いして断られないのであれば一緒に寝るのが手っ取り早い。

 それにシングルサイズのベッドなので、どうしてもくっつかないといけないのだ。


「抱き締められてはすぐに寝られませんよ。せめて軽く触れる程度にしません?」


 あう~、と瑠奈は恥ずかしそうな声を出す。


「一緒のベッドにいるのに抱き締めないとかあり得ない」

「普通は恋人同士だって抱き締めて寝ないんじゃないですか?」

「俺には彼女がいたことがないから分からん」

「私もいたことがないから分かりませんが、抱き締めては寝にくくないですか?」


 少しだけ慣れてきたようで、ようやく瑠奈はこちらを見る。

 でも、相変わらず頬は紅潮しており、恥ずかしさが抜けていないようだ。


「瑠奈を抱き締めて寝れるんだぞ。寝にくいなんて二の次だ」


 さらに力を入れて抱き締め、瑠奈の顔を自身の胸に埋めさせる。

 流石にここまでされるとは思っていなかったようで、恥ずかしさからかさらに彼女の体温が上がっていく。

 胸の中で「うう~……」と恥ずかしそうな声が聞こえる。

 それでも抵抗してこないのは、恥ずかしさの中で嬉しさもあるからだろう。


「寝やすさを重視してくださいよ」

「寝やすさを重視するならそもそも抱き締めない」

「開き直った?」


 抱き締めて寝にくいというのは分かりきっているが、それでも抱き締めたいのは蒼のエゴだ。

 どうしても瑠奈が嫌と言うのであれば黙って従うつもりだが、今のところは言われてないので止めない。


「ならこうしよう」


 蒼はベッドから離れて、テーブルに置いてあるペンを手に持つ。


「瑠奈、腰を浮かせて?」

「あ、はい」


 何をするのんだろう? と不思議に思っていそうな瑠奈であるが、素直に腰を浮かした。

 左手でペンを持ちつつ、瑠奈に近寄ってから彼女のネグリジェの裾を持っておへその上辺りまで一気に捲り上げる。


「に、ににに兄さん、何をしているのですか?」


 すぐに裾を元に戻そうとする瑠奈だが、しっかりと蒼に抑えられて戻せない。

 アルビノという体質上、瑠奈は外であまり運動が出来ないために筋力が他の女性より弱く、利き手じゃなくても蒼には容易に彼女を抑え付けることが出来る。


「お腹にお兄ちゃん専用抱き枕って書こうと思って。俺のお願いは断らないんでしょ?」

「た、確かにそう言いましたが限度があります。兄さんは私に妹専用の抱き枕って書かれてもいいんですか?」

「嬉しくて涙が出ちゃう」


 想像しただけでで目尻に涙がたまっていくのが分かる。

 妹専用の抱き枕って書かれれば毎日一緒に寝れるので、むしろ書いて欲しいと思うかもしれない。


「兄さんはそういう人でした……」


 呆れた様子で言った瑠奈は、諦めたかのように裾から自分の手を退かした。

 自分にも書かれる覚悟があるのであれば、書いてもいいということなのだろう。


「思ったんだが、ペンで肌が荒れることはある?」

「書かれたことがないから分かりませんよ」


 水性ペンの成分をスマホで調べてみると、普通の人では大丈夫そうでもアルビノの人には肌荒れを起こすかもしれなそうなので書くのを止めてネグリジェの裾を下げた。

 瑠奈の肌が荒れるのは絶対にあってはならないことで、蒼はもしかしたら本人以上に肌を気にしているのかもしれない。


「瑠奈には書けないから俺に書くんだ、さあ」


 自分のシャツを捲り上げた蒼は、書いて欲しくて瑠奈にお腹を見せる。


「いや、私は書きたいとは思っていませんので、さっさとペンをしまってください」

「え? マジで?」

「何で驚くのか不思議なんですけど……」


 書きたくない、と言われた以上は強要出来ないため、蒼はペンを置いて再びベッドに入る。

 華奢な体躯ながらも柔らかい身体をしっかりと抱き締め離さない。


「寝顔じゃなくても寝れそうだな」


 大切な人の温かい感触が伝わってくるため、このままでも充分に寝れそうだ。

 でも、もっと感じたいため、蒼は足まで絡めて瑠奈の体温を求める。

 太もも間に足を入れられたからか、恥ずかしそうに瑠奈は「あう~……」と声を出す。


「お休み」

「お休み、なさい……」


 今日は幸せな気持ちで寝れると思った蒼は、寝るために瞼を閉じた。

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