兄妹仲良く登校
「……いつも思うんですけど、兄妹で手を繋ぎながら登校する必要はないんじゃないですか?」
学校に向かう時間になり、蒼は二階建ての一軒家を出て瑠奈の手を繋いで登校している。
今日は天気が良いためにどうしても瑠奈の片手は日傘で塞がってしまうので、蒼が彼女のスクールバッグを持って手を繋ぐ。
なので蒼はリュックサックを背負って学校に向かう。
学校までは歩いて十分ほどで、彼女の体質を考え二人で一緒に進学先の高校を決めた。
「俺の楽しみを取らないでおくれ」
瑠奈の体質上、あまり外出することが出来ないため、手を繋ぎながら一緒に外に出ることが出来る登下校は蒼にとっては至福の時間だ。
だから誰に何と言われても止めるつもりはない。
「それに手を繋げないのであれば、毎日タクシーで登下校することになる」
「お金がもったいないので止めてください」
一般的な家庭より両親の稼ぎがあるとはいえ、あまりお金を使ってほしくないらしく、瑠奈はタクシーを使うのを止めさせてくる。
タクシー代に使うくらいなら、料理や趣味にお金をかけた方がいいと思っているのだろう。
「健気で可愛い妹に愛の包容をしたい」
「私の考えは一般的なものです。普通は歩いて十分しかかからないのにタクシーを使いません。なので抱き締めなくても結構です」
本当は包容してほしいが外では恥ずかしいからダメ、と思っていそうな感じで、瑠奈はプイっと視線を反らす。
長袖を着ていても寒がりというわけではないので、六月に入って気温が上がってきているのもあるだろう。
だけど家では抱きつかせてしまうために、瑠奈は充分にブラコンと言える。
でも、外での瑠奈は基本的にクールで、抱きつくのを許してくれないのだ。
「ケチんぼ」
「いや、ケチと言われましても……普通は妹に抱きついたりしないので拗ねないでくださいよ」
「俺はシスコンだから普通ではない」
妹大好きなシスコンが一般的な兄と違うのは自覚しているし、蒼自身も普通になりたいとは思っていない。
むしろ普通の感性を持っていたとしたら、シスコンになっていなかっただろう。
アルビノという特異体質は世間からしたら受け入れ難いようで、昔は友達が出来なかったと聞いている。
でも、蒼は初対面で好意を示したため、世間一般な感性とはかなり違う。
本気で美しいと思ったからこそ、蒼は瑠奈が大好きなシスコンになってしまった。
他の人と感性が違って瑠奈を好きでいれるのであれば、普通の人になる必要はない。
「普通でないと自覚しているならドヤ顔しないでくださいよ。コロコロと表情が変わって面倒な人ですね」
白い目を向けられた。
外では本当にクールで、抱きつく隙を与えてくれない。
こうして手を繋ぐことが出来るだけでも良しとしといた方がいいだろう。
「家では兄さん大好きって言ってくれるのに……」
「私がいつそんなことを言いましたか?」
今度は白い目どころかゴミを見るような目に変わった。
それでも手を離そうとしないあたり、瑠奈のブラコン度の高さが伺える。
学校では昼休み以外は一緒にいれないし、あまり外に出れないため、登下校だけでも兄妹仲良くデート気分を楽しみたいのだろう
「え? この前寝言で言ってたけど」
「私はリビングで寝ることはないですし、また私が寝ている隙に無断で部屋に忍び込んだのですね」
「妹の健康状態を気にするのも兄の役目だ」
鞄を持っている手で親指を立てて瑠奈に向ける。
夜に健康状態を気にするのは単なる建前で、瑠奈の寝顔が見れるから忍び込む。
だからって何かするわけではなく、寝顔を三十分ほど見たら自分の部屋に戻る。
たまに手を握る程度はするが、手を出そうと思ったことはない。
蒼が朝に弱いのは、瑠奈の部屋に忍び込んでいて寝る時間が遅くなってしまうのが原因だろう。
「だからドヤ顔はキモいです。年頃の女の子は異性を部屋に入れたいとは思わないので、今後は許可なく入って来ないでください」
「そんな? 俺は瑠奈の顔を見てからじゃないと寝れないんだ。瑠奈の部屋に忍び込めなかったらどうやって寝ればいい?」
瑠奈の寝顔は睡眠導入剤のようなもので、堪能しないと安眠出来ないのだ。
寝る前の楽しみを奪われてしまっては、絶望するしかない。
「だから入るなら許可を取ってください」
「前は断ったじゃないか」
先日の昼休みに部屋に行っていいか? と聞いた時は、速攻で断られた記憶がある。
瑠奈に関してのみ驚異的な記憶力が発揮するので間違いない。
「あの時は学校だったからです。なので……」
握っている方の手をクイっと引っ張られたので、蒼は膝を曲げて身体を下げる。
少し頬を赤くした瑠奈は、ゆっくりと恥ずかしそうに蒼の耳元に自分の顔を近づけた。
「その……家ででしたら兄さんのお願いは断りませんから。私の部屋に来たくなったらきちんと言ってください」
──女の子には色々と準備があるんですから。
甘い砂糖菓子のようなセリフの後にそう付け加えられ、蒼は全身にまるで電流が流れたような衝撃が走った。
力が思うように入らず、地面に膝をついてしまったほどだ。
嬉しさのあまり、力が入らなくなってしまった。
「その……録音したいので、もう一度言って……」
ポケットに入っているスマホを取り出した蒼は、録音アプリを起動させる。
このスマホには瑠奈の写真や声がいっぱい入っているせいで、そろそろ容量がいっぱいになりそうだ。
「嫌ですよ。もうすぐ学校に着きますよ」
まだ上手く力が入らないので、プイっとそっぽを向いた瑠奈に引っ張られる形で学校に向かった。
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