第40話 奴隷少女と宿命 4-5

 サレナは疲れと緊張からの解放により、その場にへたり込む。

 「上手くいった…………。」

 我ながら、どうして成功したのかと思える杜撰な作戦だった。しかし成し遂げたのだ。

 足場を崩し、動揺しているところに防御が追い付かない程の物量を持って押し潰すというシンプルなもの。

 シュウが土砂の山を何故か呼び出すことが出来たからこそ成功した行き当たりばったり。

 博打も博打、分の悪い賭けなんて生易しいものではない偶然の連続。幸運に幸運が重なって更に幸運に恵まれた結果の奇跡の産物と言ったほうが正確だろう。

 どうしてティッキーは緑色の壁にあれほど執着して足場の異変に気がつかなかったのか。

 どうして防御が出来なくなるほどの魔法を行使しようとしたのか。

 分からない事ばかりだが終わり良ければすべて良し、だろう。

 上手くいったのだから今はこれでいいのだ。

 「少し休もうか?」

 肩で息をし、見るからに消耗の激しいサレナの姿にシュウは優しく提案する。

 しかしサレナは首を横に振った。

 「魔物も出ていると聞きますし、先ほどの爆発を聞いて誰かが来るかもしれません。長居は無用ですよ。」

 「サレナが良いなら構わないけど。でも辛くなったらいつでも言ってね。出来るだけ力になるから。」

 サレナ以上にボロボロの癖にそんな事を言う。

 そしてそんな人だからこそ、人たちだからこそサレナは引かれたのだ。

 差し出された手を取って立ち上がる。

 「それじゃあ、行きましょう。」

 ニッコリと笑顔を浮かべてサレナは一歩足を踏み出した


 ――瓦礫の崩れる音。吹き飛ぶ土砂と石の塊は無防備なその体へ降り注ぐ。


 呆気にとられていたサレナは、しかし寸でのところで壊れかけの盾が間に合った。それでも勢いを受けきることはできず二人は一緒になって吹き飛ばされた。

 「はあ、はあ――ふざ、けるな! 私は、私は選ばれた者だ。――こんなのは認めない。認めないぞ。私はこんなことで倒れない。死なない。天に昇りなどしない。私は特別なのだ。私は代弁者なのだ。下賤で矮小で愚かな偉大なる神々の家畜如きが、私に逆らうなど許されないのだ!」

 虚ろな白い目はもはや何も見ていない。いや、初めから何も見ていなかったのかもしれない。

 折れた腕、ひしゃげた足、潰れた腹、焼け爛れた体、とても生者とは思えない怨讐鬼の姿がそこにある。

 グシャリと聞くに堪えない音を立ててその足で瓦礫の山に立ち、天へ咆哮を上げた。

 「わたし、わたしはああああああああああああああああああああああああああ――――!!」

 周囲に火花が散り、その体中から火が噴き始める。

 この世の全てを焼き尽くすため、怨霊が最後の呪いを吐こうとしていた。


 ――道化師は、その背後に迫る巨大な影に気がつかなかった。


 キラリと一筋の光が天上より振り下ろされる。

 真っすぐにその体を突き抜け、それでも留まることなく瓦礫の山を両断して大地を揺らした。

 邪魔者を消した影は立ち込める雲の下にその姿をさらす。

 赤い体躯に牛骨の頭をした巨人の咆哮が世界を震わせた。

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