第17話 転生者と奴隷少女 3-3

 ここ最近になって良く思う事がある。

 それは所謂ところの「知らなければ良かった。」という後悔の言葉の類だ。

 しかし好奇心と利己的な自己防衛のための確認、それで災厄の箱の蓋を開けることになるなど誰が予想できようか。

 そんな心中など知る由もないサレナは得意げな顔で、絡み合う草で作られた可愛らしい緑色の王冠を見せびらかした。

 「お前さん、どこでそれを教わった?」

 「ながれものさんが特別に教えてくれたんです。」

 「だとしたら、そのながれものさんとやらは余程に酔狂な性格をしているのは確実だな。」

 首を傾げるサレナは当然ながらその重大性には気が付いていない。

 エルフと呼ばれる種族の中でも特に外界との接触を嫌う七色の森に住まう民。その中でも更にごく一部の選ばれたもの達だけがなれる司祭、ドルイド。その資格を持つ存在たちのみが代々受け継いでいる植物の神秘を操る御業。

 そんな大層なものを立ち寄った村の娘に教えるなど、少なくとも七色の森でいろいろと親切にしてくれたドルイドたちが知ったら卒倒するであろうことは想像に難くない。

 「しかし、本当に良く出来ているな。」

 無数の草が絡まり合っているというのに偶然巻き込まれたようなものは一つもない。全てが複雑に絡まり合っており、どれか一つでも欠けていたら輪っかは形を維持できず持ち上げた瞬間にバラバラと崩れていただろう。

 ここまで精巧に作るのは、まったく容易なことではないはずなのだが。

 ログは腰を下ろし、足元の草たちへそっと手をかざした。

 それなりに集中して頭のの奥底に埋もれかかっていた記憶の残滓を引っ張り上げる。同時にすぐ近くにいたサレナが息を飲む音が聞こえた。

 ものの数秒、立ち上がったログの手には全く見劣りしない草の冠が握られていた。

 むしろいくつかアクセントのように咲く花の分だけ優れているようにも見える。

 「え、どうして?」

 「なに、昔はいろいろなところに良く出向いていたからな。経緯は省略するが特別に教えて貰ったんだよ。」

 目を丸くするサレナにそう説明する。もっとも一部は嘘だ。

 特別に教えてもらったのではなく、何度も見る機会があったから勝手に真似して覚えただけである。コツさえ掴めば難しいものではないが、流石に久しぶりすぎて感覚が鈍ってしまっていたようだ。

 本当なら、もっと豪華な色とりどりの花の咲き乱れる物を作ろうと思っていたのだが。

 「どうやって花を咲かせたんですか?」

 「なんだ教わっていないのか?」

 コクリとサレナは頷く。

 ログの盗み見た光景では最初に指導されていた部分だったのだが、これもながれものさんとやらの気まぐれなのだろうか。

 しかし、どうしたものか。

 誰かに教えることを想定したことはないので、上手く伝えられる自身がない。

 特にほぼ盗んだも同然で使えるようになった魔法だ。当然ながら受けた指導を真似するなどのよくある教え方はできないわけだから、指導する場合はこちらも手探りということになる。

 そもそも意図的にながれものさんとやらが花を咲かす方法を教えていなかったとしたら?

 そこに秘められた考えも思いも表面的にしか魔法を会得できていないログには分からないのであり、そんな状態で教えてしまって良いものか。

 頭を悩ませ無言でいたからか、サレナが申し訳無さそうに耳を倒して見上げていた。

 無理を言ったと思って今にも謝ってきそうな雰囲気だ。

 「あー……時間があるときな。基本的には勉強の方が優先だ。」

 断るに断れず、結果としてそんな適当な条件を出してお茶を濁してしまった。

 途端にサレナは嬉しそうに目を輝かせ、早速今日やる予定の残りの勉強を進めようと手を引っ張ってくる。これはちょっと選択を失敗したかもしれない。

 そう思っても既に時遅し。

 夕方前には一通りの予定を早々に終わらせてしまったサレナによって、そのまま夕食の支度時間が訪れるまで付き合わされることになってしまった。

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