第8話 冒険者と転生者 4-1
ダラスの街中、人の活気が溢れる街道では話声に合わせて呼び込みの声も大きくなる。
そんな喧騒の最中にあっても慣れた様子でログと店主は会話を行い、欲しい食材をの値引きという熾烈な戦いを繰り広げていた。
想定よりやや高いながらも最初に比べたらだいぶ安くなった食い物の数々は、クリュスに頼めば存在しなかったかのように忽然と姿を消して、宿屋の食糧庫の箱の中に各々分類されていく。
これが魔法では無いというのだから、まったくもって恐ろしいものだ。
「勝ったようです。」
「ん? 何かダブってるものでもあったか?」
「いいえ、ソチラではなくシュウ様が試験の相手に勝利したようです。」
「あー、マジか。あいつアレを本当に倒したのか。……後で映像を見せてくれ。」
驚き半分、納得半分でログは素直にクリュスの言葉を受け入れる。
どう見たって何かしら隠している様子だった青年だ。ただ者ではないと思っていたが、最下級とはいえ初見でグリフォンの一種を討伐するというのは並大抵の事ではない。難易度で言えば最低でも銀以上の冒険者が二人以上のパーティを組んでようやく安定するような相手だ。
「まあ何にしてもめでたい。これでギルドの人材不足の件も少しは解消されるだろう。」
「そうでしょうか? 一人が入ったところで大した影響は無いと分析しますが。」
「ああ一人ならそうだな。だが特別優秀な人間てのは必ず噂になる。噂には尾ビレ背ビレが付いて聞いた者の心を震わせ良くも悪くも憧れを作る。そして憧れを抱いた者たちは己の可能性を信じて噂の大元へと集まってくる。数が多ければ、試験を乗り越える人材がいくらか見つかるものだ。特に今回は条件が伝説の勇者様と同じだったからな、ギルドの方も大々的に宣伝に利用するだろうよ。」
クリュスは頷くが、表情が基本的に変化しないので本当に分かっているのかは不明だ。
「一つ質問は宜しいですか?」
無言でログは先を話すように促す。
「先ほどから同じ条件と繰り返していますが、それは本当に同じなのですか? 特に魔物など条件が随分と都合よく揃うのは不可能なように思いますが。」
「同じはずだぜ。何しろこの手の試験は一から十まで“ギルドが事前に準備をしている”からな。」
「……つまり、あの魔物も用意されたものということですか?」
ログは頷く。
あの場所も、魔物も、全てはギルドの管理下にある。
そうでもなければ近くに生息する他の魔物が戦いに乱入してきているはずだし、試験で死人が出るなどギルド全体の信用にかかわる危険が許容されるわけもない。シュウの試験官が誰であったかのは知らないが、今回の相手となったレッサーグリフォンを一瞬で仕留められる人物であることは間違いないだろう。
「生きたままの魔物は使い道が多いからな、調教して荷や人を運ぶのに使うこともあれば戦闘訓練の相手として利用することもある。試験の場合は飼っているのとは別な、自然に近い環境で管理をしている連中を運び込むだけだから、野生とほぼ変わらないけどな。」
「もう一つ質問を宜しいでしょうか?」
「答えられる範囲でなら。」
「こうなることが初めから分かっていたのですか?」
ログは「予想外だらけだ。」と笑った。
「身元を証明できないアイツが冒険者になろうと考えるのは、まあ当然だろうと思っていたさ。しかしあっさり試験に応じたのは想定外だし、何の準備もなく挑むなんて酔狂な行為を予測できるわけもない。その上ギルドが試験会場をあそこにしたのも、相手をグリフォンにしたのも全く予想外もいいところだ。期待からだろうが、知った時は新手の新人潰しか何かだと思ったよ。」
ログの考えではシュウはあの場では断り、今晩にでも宿の方で相談にのって明日ごく普通の試験を受ける。という流れだったのだが、ここまで想像と違う結果ばかりでは笑うしかない。
「まあ、何にしてもこれは嬉しい誤算だ。」
「ギルドの人材不足が解消され、ログを呼び出す必要性が薄れるから?」
「何も宣伝の効果を受けるのはビルドだけじゃないんだぜ?」
これから忙しくなるかもしれない。
そう思いつつログは祝いの追加食材を買い足すのだった。
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