第8話 泥酔エルフは恐ろしい

「カンパーイ!!」

 

 エイトはメインストリートの一番人気の酒場の席を押さえてくれた。洋画の中でカウボーイとかムキムキ漁師がよく行くような酒場だ。


 俺たちのパーティとルシアたちパーティで歓迎会。俺とルシアとアルフィーは3人並んで座っているが、俺とルシアの椅子の間には微妙に距離がある。食器もアルフィーの方に寄せて、明らかに嫌われている事を絶賛公開中。


 もう一方はエイトが座っているのだが耳打ちで「こんなにエルフに嫌われているヒューマンは初めて見た。」とか言ってくる。あ、魔族のハーフって言い忘れていた。後で眼帯を外して説明しようか。


「さあ、改めて歓迎するぞ、ヘデン!」


 エイトはパーティの仲間を紹介した。女戦士のリン、アーチャーのルース、剣士のライタそしてエイト。何だかすごくバランスの悪いような気がするが。もう一人いるのだが、その人は今旅に出ていて当分帰ってこないらしい。


 それに比べてルシアの方のパーティは、剣士、魔導士、格闘士、アーチャーやヒーラーなどなど。バランスのあるパーティだ。


「細かい事はどうでもいい!飲めぃ!!」


 次々に出てくる料理をガツガツ食べる冒険者たち。隣には上品に食べるエルフ。俺はと言うと、初めて飲むビールに心を奪われている。


「ビールってこんなに美味しかったんだな。」


「生まれて初めて飲むってか?」


 もう死んだけど。生前は飲んだことはなかった。何だか気持ちが昂るぞこれは。


「さあさあ、ルシアちゃんもアルフィーちゃんも飲んで飲んで〜。」


 エイトはじゃんじゃん進めているが、エルフ組は一滴も人でいない。


「なあ、エルフは飲まないのか?風習?酒に弱い?」


「飲む飲まないは、お前に関係ない。」


「はいはい、とても弱いってはっきり言えばいいじゃないか。」


 半ば挑発気味で言ったところルシアは勢いよく箸を置いてビールジョッキに手をかけた。


「バカにするな、こんなもの!」


 グビッとイッキ!?


「おいおいおい、俺別にそんなつもりじゃ・・、やめろって、悪かったから。」


 俺は咄嗟に立って、飲み終えようとするジョッキをルシアから引き剥がそうとした。


「おぉい!どうだ!ヒクッ」


 飲み干したジョッキを俺の顔に強く押し付けてくる、力が強い・・


「ルシア!あなた何やってるのよもう!!エルフはお酒にとても弱いって知ってるはずなんだけど・・・」


 お姉さんのシリルが苦笑いしながら少し困っている。


「ごめんなさい。俺が挑発したから。」


 ルシアは、フワフワしたような表情でご飯を食べ続けている。口までご飯を運ぶ間に落としてしまい、それに気付かず口の中に放り込むところが可愛い。



 歓迎会ではそれぞれの武勇伝を語ったりと、とても盛り上がった時だった。


「え?えええええ?」


 ルシアは眠気に耐えられなくて、俺の肩に寄り掛かってウトウトし始めたのだ。たまに「ううっ」て気持ち悪そうにしている。


 状況が・・掴めない・・、これ動いたら起きる、起きたら俺がなんかしたと思われる、そして絶命。


 結果はわかっている。


「ルシアしっかり、あなた今外道に寄り掛かっているのよ。」


 アルフィーがルシアを引っ張ろうとしているが、ルシアはなかなか離れようとしない。誰と勘違いしているかわからないが、命だけは。


「あんたが悪いんだから・・」


 寝言?俺にしか聞こえない声でそう呟いた。


「お前ら仲がいいのか悪いのか分かんねーよ。」


 俺も分かんねーよ。一同は俺たちの話題で最後を締め、酒場を後にした。


 俺はと言うとルシアを負ぶっている。


 間違えなく酔っている、俺の背中で寝ているなんて知ったら多分死にたい気持ちになるんだろうな。時々起きるが周りをキョロキョロし、俺の頬をメチャクチャ引っ張ったり、爪を立てたりして傷だらけにしてくる。偶にバカやらアホやら誰に向かって言っているんだろう。


 昔付き合っていた人?150年も生きていれば、そういう人はいるもんだよな。まあ、今だけは俺に発散してもいいよ。


「ねえ、ヘデンくん。私が背負おうか?」


 リンが心配そうに俺の顔を摩ってくれるが、両手が塞がれている俺は拒めない。


「・・・」


「ち、近いって・・」


 エイトたちはどんどん前に進んでいき、一定の距離が出来た。リンは、どんどん俺の顔に自分の顔を近づける。


「お、おいって」


 嗚呼これはあれだ。ここで拒むのは彼女のプライドを傷つけてしまう。俺は目を瞑って・・・


「ヴヴッ、グェ〜〜」


「ああああ、まじかって」


 タイミング良く、背中のルシアが盛大に吐き散らした。俺の頭と首はエルフの嘔吐物まみれ。リンも俺もアワアワするだけでどうしていいか分からない。


 寸止めって、心臓のバクバクは止まらない。心臓に悪いな、まあでもこれで良かったんだ。


「リン、君は先に帰ってくれないかな。俺はルシアを送っていくから。」


 嘔吐物だらけの自分を晒したくない、と言うよりもルシアのこのような失態を晒したくない方が勝っている。


「あれ?ルシアのホームってどこ?」


 ケータイなしナビなし。どうするヘデン。

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天国で安らかに眠りたかったのに、異世界へ勝手に連れて行かれ人生強制リスタート ロッキーズ @ryulion

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