第6話 神のイタズラ

ポッカーン、としている俺を他所に、どんどん前に進んでいくエルフ二人組。


 やっぱ怖い、俺は後退りするのだったが・・

 ドンッ


「気つけろ、にーちゃん。」


「う・・」


 腹の底から悲鳴を上げたい欲求を呑み込み、全力で頷いた。

 俺がぶつかったのは巨大な剣を背負った狼人間。顔はヒューマンなのに犬歯がやけに突き出て、耳もある。目つきが悪く、視線で殺されるような感覚。う、尻尾は可愛かった・・


 とにかく今はどんなにボロクソ言われてもルシア達について行こう。


「どこに向かってるんだ?」


「まだ居たのか、もう消えろ。」


 なんて素敵な会話なのだろうか、こんなにも潔く切り落とされるなんて。



「ルシア、アルフィーこっちこっち!」


「あ!姉さん!!」


 彼女たちを迎えに来たのだろう、集団がこっちに向かってきてルシアが集団の中にいたエルフに飛びついた。


「よく来たね!待ってたよ。二人ともこんなに綺麗になって。」


 俺はそこで初めてルシアの笑顔を見た。ギャップなのだろうか、とても輝いて見える。こんな風に笑うんだ、この笑顔を見ると、異世界も悪くないなと感じてしまう。


 もう一度言うが、本当に美しい。


「そちらは?」


 だよね、ルシアは振り返り真顔になる。なんて切り替えの速さだ。

「初めまして、ヘデンです。彼女達と一緒に王都に来ました。」


 とても凛々しい顔立ちのエルフにジロジロ見られて正直恥ずかしい。


「姉さん、あれは私たちに関係ない。着いてきただけだから。」


 集団の視線が一気にこちらを向く。こんな大人数、生前は家族と数人の友達しかいなかったし、集団の前に立った事がない、正直逃げ出したい。


「その通りです。ここまでありがとうございました。では失礼します。」


 俺はルシアとアルフィーそして集団にお辞儀をし、潔くその場を去った。


 人との関わり方がわからない。ルシアとはほぼ口喧嘩、アルフィーには最低と罵られただけ。俺がしっかり彼女たちと向き合っていれば仲良くなれたんじゃないかな。



 嗚呼、素晴らしい街並みだ。


 俺は門を潜ってから地面しか見ていなくて、ようやく頭を上げ周りを見始めた。


 夢みたいだ、様々な種族が行き交う。強そうな集団がいたり、子連れの獣人やヒューマンの老夫婦。楽しそうな顔をしているな。


 道の脇には酒場があり、まだ明るいのに酒盛りが始まっている。猫耳にうさぎ耳、垂れ耳まで。


 酒場の窓ガラスの反射でようやく自分の顔とご対面。


「すごい別人。こんな顔してたんだ。」


 若いな、20いってるのか??ジロジロ自分の顔を見ていると、


何処からともなく、


「俺がいた島国では日本刀というこんな剣を使うんだ!もちろんオーダーメイドだ!!」


「??????????」


 今日本刀って言ったか?日本?ニホン?にほん、Japan。


 間違えない酒場から聞こえた。俺は窓に顔を貼り付けて様子を見た。


 肌が褐色で綺麗な女の人の腰に腕を巻き付け、確かに日本刀を掲げて自慢している男がいる。


 今の俺と同じくらいの歳だろうか。彼も転生したのか?


 これはもう聞くしかないだろ。俺は酒場に足を踏み入れた。


「やあ、初めまして。あなたは島国から来たと言っていたけど、それは何処ですか?」


 ガッチガチの笑顔を作り聞いては見たが、彼は俺を舐め回すように見た後に鼻で笑った。


「テメェの知らねー島だよ。」


 なんてデカい態度なんだ。しかも片腕で女を抱きながら彼女の髪の毛を弄りやがって。


 「俺は日本の東京都出身だ。」


 俺は単刀直入にいった。回りくどい事を言ったところでやつに馬鹿にされるだろうしな。


「ブシュッ」


 やつは盛大に鼻から酒を吹き出し、眼球を震わせながら俺の胸ぐらを掴んだ。


「おいおいおいおい、まじかよ。同じだよ、東京だよ、どうやってこの世界に来たよ、なあなあ!」


 いきなり日本語習いたての中国人のような喋り方になり、俺をブンブン前後に振り回す。


「やっぱり、日本刀って聞いてもしやと思ったんだ。どれくらいか分からないが、体感だと半年前にきた。」


「場所を変えよう。」



 俺たちは二人で隠れ家的な酒場に入り、お互いについて理解を深める。


「俺はヘデン。生前の名前は海斗で24歳、病死」


「俺はエイト。生前は照義、63歳、病死」


 俺はとある違和感を覚えた。そこで口にする。


「苗字をオキキシテモ」


「木原」


 ビンゴだった。


「うえええええええええ!?木原照義63歳、俺のおじいちゃんだよね?俺は木原海斗、14才の時、おじいちゃんが胃癌で。」


「うぐっ」


 またも鼻からブー。


 ビックリしすぎて心臓が持たない。おじいちゃんがいる事もそうだが、まず性格が変わり過ぎだ。おじいちゃんは、堅物で無口、女遊びなど全くしない、家ではよく怒鳴り散らかすような人だ。


 なのに今は女の前では鼻の下が地面に着いてしまうくらい伸ばし、日本刀を自慢し散らかすような人になっている。


「海斗、お前も死んだんだな。」


 鼻から酒を垂れ流しながら、同い年くらいのおじいちゃんは俺の背中に手を添えた。


 おじいちゃんはどこか悲しげで、困り笑いをしていた。この異世界での運命の再開、喜ばしいとは言えない・・・



 あの神様の気まぐれなイタズラなのだろうか。


 頭の中であの神様がにっこり笑っているような光景を思い浮かべた。

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