第4話 長耳族との特訓

 俺は反射で木刀を防ごうと両手を前に出したところ、どうしてか魔法が発動しシールドを作っていた。


「えっと、あの、これは、わざとではない。」


 俺に吹き飛ばされた黄緑色のあいつも状況がつかめていないみたいだ。


「ほう、これがヘスト族直伝の防御魔法か。ルシア怪我は?」


 ハイエルフのフィーナは状況把握が早く、俺自身がびっくりしている事から、わざとでは無い事を理解してくれた。


 フィーナは俺の魔法にとても興味があるらしく、最近この周辺で特訓していると言った時には、少し期待げな表情で聞いていた。ルシアというとさっきから俺を警戒しているのか、木刀を握りしめたままこちらを睨んでくる。


「おい外道、フィーナ様に少し良くしてもらっているからって調子に乗るな。所詮お前は魔族だ。」


 げ、外道?!そ、そうか。妖精だもんな。自然と豊かさを司る小神族。俺はミスで魔族とヒューマンのハーフという設定になっているし。俺の中の魔族のイメージって白○姫に毒林檎を食べさせる魔女とか、超悪いヤツって感じだ。何処となく立場を下げてしまう。

 ルシアの反応の方が普通なのかも、もう一人のエルフもゴミを見るような目で見てくる。


「そうだな、エルフ様の言う通りだ。」


 ルシアは俺が反論して来ると思っていたみたい、大人しく言うことを聞く俺にアタフタしていた。


 俺はフィーナと明日また来る約束をして、この場を去った。


 小屋に帰った後じいさんにハイエルフ、暴力エルフに出会ったことや魔法が発動した事を話しながら夕食を食べた。


 じいさんは、妖精であるエルフとはあまり関わらない方がいいと言う。その理由はやはり俺が魔族だからだ。エルフが俺を敵視することは当たり前、あの暴力エルフも他の人の前だと穏やかなんだろうな。あんなに美しい顔なのにな・・。




 今日は朝からじいさんと特訓し、午後にエルフ達に会う予定だ。


「防御魔法か、良く使えとるの。」


 剣技と防御魔法を掛け合わせて、じいさんの懐に飛び込み体術を跳ね返す。最初は防御魔法を咄嗟に出すことが出来なくゲンコツを食らうことがあったが、慣れてくるとしっかりした意思で好きな時に直ぐに出せるようにまで慣れた。どうやらこの世界の俺は覚えがいいらしい。


 実は瞬間移動のことはじいさんに言っていないのだ。直感が言うなと言ってくる。


 じいさんとの鍛錬を終えてエルフの森の境界線あたりまでやってきた。森には涼しげな風が吹いていて心地よい。


 俺は大樹に上り、昨日瞬間移動が出来た状況を再現することにした。


 瞬間移動中は感覚で言うと、吸い込まれる感じ。脳の中は放ったナイフに集中し、魔力を体の中でギュッと一瞬凝縮させるような。


 まず最初に青い炎を両手と片目に纏わせる、全身に魔力が行き渡ったところでナイフを隣の大樹の枝目掛けて放った。ナイフが枝付近に到達すると身体中の魔力をギュと一瞬凝縮させる。


「マジか・・・」


 成功した。隣の大樹の枝に移動したのである。右手にはナイフを、そして左手で枝にぶら下がっている。


「見事だな。」


「フィーナ、様」


 呼び捨てにしようとしたら、暴力エルフに殺意を向けられ、急遽様をつけた。って俺なんでびびってんだよ。


「お前の瞬間移動を見たぞ、素晴らしいものだな。しかしこれはヘスト族の魔法では無い。」


「スキル、みたいだ。俺もよく分からないが。まだ練習中だからこのスキル全体のことはまだ理解途中だ。」


「そうか、それではルシア、お前が今日からこいつの相手をしてやれ。」


「はあ!?あのフィーナ様、私ではあの外道を殺してしまうかもしれません。」


 暴力エルフは反射的に心の声を漏らしていた。

 俺にとってはいい練習相手になる。あんなに細くてもパワーやスピードは少なくとも俺よりは上だ。


「頼む!!」


 俺はプライドなんてものはもうない、暴力エルフに深々とお辞儀をし、お願いした。これもまた素直な俺にアタフタするのだったが、少ししたら肩を落としお願いを聞き入れてくれた。



 それからは毎日同じルーティーンだ。午前中はじいさんと剣技の鍛錬。午後の鍛錬は暴力エルフと口喧嘩から始まる。小学生みたいな些細な内容だが俺たちは一歩も譲らない。


 口喧嘩で負けそうになったら、もう一方的に殺しにきている。

 さすがエルフだ、森は彼女たちの庭、森を熟知し猛スピードで移動し攻撃してくる。瞬間移動や防御魔法、青い炎を駆使し攻撃を仕掛ける。


 こんな日が何日続いたのか。


 ルシアが余裕のない表情を出す事が多くなった。俺は確実に強くなっているみたいだ。

 鍛錬がひと段落し、座って休憩していた時、どうしても聞きたい事聞いてみた。


「なあ、年はいくつなんだ?20とか?」


 見るからに20代だ。だがルシアは少し得意げにこう言った。


「150才だ。」


「めっちゃばあちゃ・・・・」


ズバゴッッッッッッッン


 俺は危うく絶命しかけた。

 150才って・・俺は思わず超ヨボヨボのばあちゃんエルフを想像していた。ルシアに限って嘘を付くとは思えないし。


「150って若い方なのか?」


 俺は木刀で殴られた頭を摩りながら起き上がる。


「エルフとしてはまだまだ若い。フィーナ様は800才だ。」


 おっと危ない、危うく言ってしまうところだった。彼女たちの歳を聞いて、俺が赤ちゃんのように思えてくる。

 この子は150年間どんな風に生きてきたんだろう。俺はルシアの横顔を見ながらそう思った。

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