第3話 青い魂の力

 何日が過ぎたのだろう。俺は毎日傷だらけになっている。ゴールムじいさんとの鍛錬はかなりきつい。相手は剣で俺はナイフ、どうしても超接近戦になってしまう。相手の懐に入れば体術を駆使して投げ飛ばされ、少し距離を置けば隙ができて気づけば剣は俺の首もとに停止している。


「ヘデン、焦らんでいい。お前は着実に戦い方を覚えてきている。」


「・・・」


スキルのおかげで剣先と自分の体の距離が明確だ、でも回避する事しか出来ない。じいさんはああやって言うけど、内心は剣術も体術も向いてないって思っているんだろうな。


 この世界に来てしまったからにはもうしょうがない、あの神に会うまでには強くなってやるよ。


「じいさん、あっちの森にはゴブリンとか下級モンスターがいるんですよね。俺、ゴブリンを相手に実践してみます。」


「気つけろよ、いくら下級だからと言って群れで来られたら、今のお前は対処できない。」


「わかりました、ゴールムじいさん。」


 森の奥に進むと、やはりゴブリンがいた。ゴブリンを殺す事になぜだか躊躇はなかった。多分投げやりになっているのだろう。


 ゴブリンを何匹殺してもあの時の胸から全身に行き渡る力の感覚はまだない。目を瞑ってあの時の力の感覚を思い出してみるかな。


 ドクンドクン、心臓が動く音。あの時の何か湧き出る感覚。

 ああ、これだ。力が漲る様な、何か膨大なエネルギーを感じる。


「えええ、なんだこれ?!」


 目を開けると、両手にナイフまで青い炎が纏っている。片目からも少し青い炎が。。。

 しかし集中力を切らすとすぐにその力は消えてしまった。



 どれくらい経ったのだろう、青い炎の力の出し方を覚え、ゴブリンに何度か使ってみた。初めて使った時はすぐに魔力切れで倒れてしまったが、今は日々の鍛錬のおかげで全然疲れない。


 この力について発見したこと

 青い炎を纏っている時は移動スピードが格段に上がっている。

 ナイフを振れば、一定の距離にいる敵を斬りつけ、燃やす事もできる。

 手に纏っている青い炎を弾丸のように飛ばす事が出来る。

 どうやら炎は形態変化出来るらしい。


 そして一番驚いた事は。。。

 木の上に立ち力を発動している時に、誤ってナイフを落としてしまった。その時早くナイフを!と思った瞬間に体が空中にあるナイフの元に一瞬で移動していた事。今に落ちていくナイフを握り締めながら、自分も頭がフリーズ状態で落ちていく。


「いいいってぇ!!」


 そう、頭から落ちて強制的に再起動させられた。昔の電波が悪くて砂嵐しか映らないテレビをボンって叩くみたいに。


 俺は仰向けになりながら、自分の手から出ている炎をみている。


 その時だった。

 視線の数は三つ、弓矢が2本こちらめがけて飛んでくる。俺は飛んでくる弓矢の矢先を明確に捉え、左手に纏った青い炎を弾丸状に形態変化させ弓矢に向かって放つ。


 ってあれ、なんで俺はこんな事出来てるんだ?ああスキルスキル。それにしても感心する、アニメや漫画の中の登場人物たちはこんな事が出来るのか。


 いやいや、そんな場合じゃない。戦闘態勢に入り、樹々を見上げる、どこまでも続く樹々を強化された視力で探る。


「動くな。動いたら射る。」


「なっ。」


 俺は思わず口を金魚のようにパクパクさせる。耳が長い?!めっちゃ尖っている。なんだなんだ落ち着け、もしかしてじいさんが言ってたエルフか?本当にいたんだな、ちょっと触ってみたい。。。


「君たちは、何者だ。エ、エルフってのはわかるが。。」


「この森で何をしている。ここは我々の森だ。すぐに立ち去れ。」


 3人のエルフが姿を現し、その姿に俺は再び驚いた。とても美しかった、顔がひどく整っていて、とても美人だ。手足も長細く姿勢が無駄にいい。


 高潔で潔癖、種族意識が高く誰も近寄らせない。


「わ、悪い・・・わざとではない。帰ります。」


 もう美し過ぎて、素直に忠告を聞いてしまう自分がいた。俺は長い時間病室か家にいたから、視野がすごく狭い。美しい風景や人物、かわいい動物や美味しそうな食べ物に全然接して来なかった。でもこの瞬間、美しいという新しい世界が切り拓けた様な気がした。


「待て。」


 一人のエルフに呼び止められる。俺は肩をビクつかせながら振り返った。


「ってうぁ!」


 近い、顔が近いって。それにしても綺麗だな。


「フィーナ様、そんなに近づいては危険です。」


 もう一人の美しいエルフが俺を睨みつけながらそう注意した。

 俺の顔に急接近したフィーナというエルフは俺の瞳を見ながら首を傾げたり、耳をピクピクさせている。


 いやらしい事は一切考えていない。だが少し耳に興味が。

 俺は恐る恐るかわいい猫や犬を触るように耳に手を近づけた。


 のだが。ズバゴンッ


「グホッ」


 木刀で頬を殴られ俺は吹っ飛ばされた。野球だったらホームランものだ、あんな細い腕でこんな。。。


「フィーナ様に触れるなっ。汚らしい。」


 キタナラシイ・・・


「ルシア!」


「この者は、貴方様の耳に触れようとしたのです。」


 様って?ん、耳の長さが少し違う。フィーナと言うエルフ他の二人と違って耳が少し長い様な気が・・

「お前は、へスト族とヒューマンのハーフだな。珍しいものだ。」


やはり、この世界では見ればすぐに分かるのか。


「そうだが、君たちは?」


 腫れ上がった方を摩りながら立ち上がるが、もう一発。


 ズバゴンッ


「ヴッ」


「フィーナ様はハイエルフだ。君など下品な言葉を使うな!」


 ルシアと言うやつだな。見た目と違って凶暴だ、黄緑色でウェーブのかかったセミロングの髪の毛、顔立ちは言うまでもなく美しい、が凶暴。


「おい、口で説明すれば良いじゃないか、エルフは暴力的だな。」


「ハイエルフかなんかはどうでもいい。君たちの森に足を踏み入れた事は謝る。そこの黄緑のやつに暴力を振るわれたが、別に謝らなくていい。じゃあ。」


 少し嫌味を言ってやった。

 俺は振り返り腫れ上がった両頬を揺らしながら歩き出した。


 のだったが、影が覆い被さってくる!?


 振り返ると、木刀を振りかぶって上方から落ちてくる黄緑が。


「!!!!!」


それはまたも一瞬の出来事だった。俺は黄緑を吹き飛ばしていた。

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