第2話 俺は何者

 斧をブンブン振り回してくる生物、モンスターか。身長は俺の足ほど、頭には毛が数本しかない。待て待て、逃げろ俺。

 俺はふと思い出した。あのモンスターの顔、高校の時に虐められていた康太に似ている様な気がする。。。ニンニク鼻で背が小さく小太り、、確かあいつのあだ名はゴブリンだった様な。


 そんな場合じゃない、俺はそのゴブリンから逃げるが、とある事に気づいた。康太が遅い、いや俺が速いのか?生前運動を禁止されていてずっと寝たきりになっていた俺は久々に走る事が出来て心から気持ちが良かった。暖かい風を切り、どこまでも続く大草原を駆け抜けた。あのモンスターはとっくにいなくなっていた。


「ゴブリンでいいんだよな。。。」


 昔の記憶を思い返すと、よく康太の事を異世界から転生してきたゴブリンだって虐めていた奴らがいたな。俺はあいつを助ける事もいじめっ子を止める事も出来なかった。


「それにしても、体を動かすって最高だな。」


 スキルという物のおかげで息も切れないし、視力をよくなっている。


「異世界って悪くないかもしれない。」



と思ってすぐに後悔した。


「はあ、はあ、はあ」


 俺は息を切らしてモンスターから逃げていた。群れに遭遇したのだ。どんなに速く走ってもまけない。


 天国に行かせてくれよ、俺はもう闘病で疲れているんだ。次あの神に会う機会があれば物申してやりたい。


「まずいっ」


 足がもつれ、盛大にずっこけた。俺が見たことのある虫の何百倍もデカい虫の群れが容赦無くこちらに突進してくる。死ぬ、間違えなく死ぬ、今度は虫に噛み殺される。そう思った時右手が腰に付いていたナイフに触れた。


 戦う。


 先頭の虫との距離がゼロになる瞬間、

 もう痛い目には会いたくない、この異世界転生も何かの縁だ、無駄に出来ない。ナイフを引き抜いて、全力で振りかぶる。その瞬間胸の奥で何か力のようなものが湧き出てくる気がした。胸から四肢に向かって電流が走るが如く、その力は体を一瞬にして満たした。


「ぐああああああ!」


 ヘデンの引き抜いたナイフは青い炎の様なものを纏い、振りかぶったと同時に一撃で虫の群れを全て斬り殺した。


「何が起こった。。。」


 状況が掴めない、ただわかったことは、今体が全く動かないこと、頭がぼーっとして目をずっと開けている力もない。俺はその場で倒れ込んで眠りについてしまったのだ。


「ここは、、」


 目が冷めた時、俺はボロボロの小屋の中で横になっていた。屋根は隙間だらけで、雨が降れば間違えなく雨漏りが大変だ。


「起きたか、ほれ飯でも食えい。」


 小屋の端に腰掛けていたのは、色黒でガタイのいいおじいさんだった。俺が寝ているベッドの隣に草が混じったお粥が用意されている。


「あなたが俺を助けてくれたんですか?」


「ああ、あんな所で寝ていれば、いつかはモンスターの餌食だ。魔力の使い過ぎには気つけろ。」


 ナイフを振りかぶった時の光景が蘇る。青い何かがモンスターを一掃した。あれは、俺が魔法を使ったということでいいのだろう。あの胸の奥で溢れ出てくるような力、神様が言っていた俺の青い魂が変化した特殊能力なんだよな。


「それにしてもお前さん、結構珍しい種族じゃねーの。初めて見るのう。」


 そういえば、記憶のどこかで"最悪ハーフでも"って聞こえてたっけ。恥を承知で自分はなんの種族か聞いてみることにした。もし何かされたら、あの青い力を出せばいい。


「あの、俺を助けてくれてありがとうございます。お聞きしたいのですが、俺の種族は何ですか。どうも記憶がなくて、、」


 おじいさんは、少し驚いたが丁寧に答えてくれた。


「君は魔族とヒューマンのハーフみたいだな。髪の色とその左右色違いの目の色からしてヘスト族か。」


 聞けば魔法使いとヒューマンのハーフで、ヘスト族とは絶滅危惧族として有名らしい。ヘスト族は攻撃や治癒魔法よりも、防御や補助魔法に特化した種族みたいだ。


 ちなみに俺の髪は青色で、片方の目は水色に近い青色。どちらも魂の色に近い。


「おじいさん、あなたは誰なんですか?」


「わしは元冒険者じゃ、名はゴールム。昔はそこそこ有名な剣士をしていたが今は引退して静かに暮らしておる。」


 自分の話を少し自慢げに話すゴールムじいさんだった。


 俺は草粥を食べながら、ゴールムじいさんにたくさん話を聞かせてもらった。冒険者とはダンジョン攻略に出たり、クエストをこなしたり、多種族との出会いも経験できる。死線を通り越して新たに強くなれることや、パーティを組んで冒険に出る事だってできる。


 ちなみに俺が追いかけられていた二足歩行のモンスターはゴブリンで間違えなかったみたいだ。


 何も知らない覚えていない俺を見兼ねて、ゴールムじいさんは戦い方を教えてくれる事やまだ俺の体に眠っている魔法を引き出す手伝いをしてくれると言った。


「これから退屈しない毎日を送れそうじゃのう。」


 今分かっていることは、珍しい種族のハーフで防御魔法と補助魔法に特化している、特殊スキルが青い炎の何か、魔力を使いすぎると倒れる。


 こんな事になるなら、アニメやマンガ、ラノベを読み漁るべきだった。もしアニメ好きやマンガ好きが転生していれば、難なく異世界無双してるのかも。


 このときヘデンは、自分をアニメの主人公ではなく、冒険者K程度のやつとしか思っていなかったのだ。

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