第16話 茜さん流除霊法
突如幽霊に殴りかかった茜さんは、今やスーツを着た幽霊を組み伏して馬乗りになり、マウントポジションからの殴打を浴びせている。
一発殴る毎に「オラッ」と声に出している姿は、見た目も相まって完全に
「茜さん、なにしてるんですか」
「除霊、に、決まって、んだろっ」
声を掛けても殴る手を止めず蛮行を続け、そしてアレが除霊だという。
想像していた一般的なイメージとかけ離れ過ぎではないだろうか。
「祀理、どうしたんだよ。なんかあったのか」
呆気にとられていると土屋君に肩を揺らされた。
予想外の出来事のせいで中断してしまったが、幽霊が見えない彼に現況を伝える役目を全うしよう。
「茜さんが除霊と言いつつ、幽霊に馬乗りになって殴ってる」
「は?」
「意味が分からないよね」
実際に目にしている僕だって信じられないことだから、人伝に聞いたら一層だろう。
ただどことなくスーツを着た幽霊の姿が透けてきているように見えるのは気のせいだろうか。
いや気のせいじゃない。
確実にスーツ姿の幽霊が半透明になっている。そして幾度目の殴打の後だろうか、その姿が跡形もなく消えた。
「ふぅ、お待たせ。除霊完了だ」
やり終えたといわんばかりに立ち上がり、額の汗を拭うような仕草をする茜さん。
言いたいことはいろいろあるけれど、半日ほど待たせてしまった春日君を安心させてあげるほうを今は優先しなければ。
「土屋君、幽霊はいなくなったよ。春日君に連絡してあげて」
「おっ、マジで。意外と早かったな。じゃあハルにメッセージ送るわ」
土屋君がスマホを取り出して操作し、しばらくしてから玄関ドアが内側からゆっくりと開けられた。
ドアから顔だけを出した春日君は、念入りに周囲を確認している。
「本当にもういないのか?」
「大丈夫、もう見えないでしょ」
未だに不安が拭えないのか、大丈夫だと言っても完全に外には出ようとしない。
「おいおい、ビビり過ぎだろ」
「ツッチーは見てないからそんなことが言えるんだよ。っつーか来るの遅すぎ」
「助けてもらっておいてお前なぁ」
「……ありがと」
「俺じゃなくて祀理に言えよ」
そう言われてこちらを見た春日君の目は、どこか睨むようなものだった。
「なんでそいつに礼を言わなきゃいけないんだよ」
「あ?」
「そいつがあのアパートに住んでるからこんな目に遭ったんだろ。また他の霊とか連れて来てるんじゃないだろうな。俺の家に近寄んじゃねーよ!帰れよ」
「ハル!」
「なんだよ、本当の事だろ」
二人が言い合いを始めてしまった。
春日君の言い分はもっともで、彼に悪霊が憑いてしまった切っ掛けを作ったのは僕だ。
しかも悪霊ではないけど、茜さんという幽霊をこの場に連れて来ているから言っていることは間違っていないどころか大正解である。
なので大人しく帰ることにしよう。不快な思いをさせるよりは断然そうした方が良い。
「じゃあ僕帰るから」
言い合う二人に聞こえていたか定かではないが、春日君の家を速やかに後にした。
「祀理君さぁ、少しは言い返しても罰は当たらんよ」
帰り道で茜さんがそんなことを言ってきた。
「なにか言い返すようなことありました?」
「助けたのにその言いぐさはなんだ、とかさ」
「助けたのは茜さんじゃないですか。僕じゃないです」
「でも祀理君がいなきゃ、俺だって助けなかったぞ」
「僕がいなきゃ、春日君だって憑りつかれてませんよね」
「あーーー、うん」
「だから良いんです。それよりも、茜さんがさっき除霊って言い張ってた行動に関していろいろ聞きたいので、家に帰ったら教えてくださいね」
そして二度目の帰宅後、僕は茜さんと机を挟んで向かい合っていた。
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