第15話 茜さんの一撃
「お待たせ」
「おっ、おう」
近くの路地で待っていてくれた土屋君と合流したのだが、土屋君はどこか挙動不審で視線が定まっていない。
「どうかしたの」
「なあ、お前が言ってた幽霊ってさ、マジでいるのか」
なるほど。茜さんを探していたらしい。
「霊媒師の幽霊ならここにいるよ。名前は茜さんね」
「本当の本当にいるんだよな」
「うん、いるよ」
僕が指差した先を凝視しているが、どうやら見えていないらしい。
「全然分かんねえ。この間幽霊っぽいのを見たから霊感に目覚めてるかと思ったけど、んなことないんだな」
霊感か。
僕もどうやったらそれが身に付くのか分からない。
でも横には専門家ともいうべき存在がいるので聞いてみた。
「茜さん。霊感ってどうやったら身に付くんですか」
「まずは遺伝だな。そうじゃないけど生まれつきってのもいる。後付けだと心霊スポットに行く、霊障に遭う、死に目に遭うとかいろいろあるな。んでもって、そこの坊主が霊を見たけど霊感がないのはアレな。俺のおかげ」
「茜さんの?」
「ああ、言ったろ。
「なるほど」
土屋君に顔を向け一応今の会話が聞こえていたか確認を取ったが、やはり聞こえていなかったので聞いたままを伝えた。
「へー。そういうもんなのか。でさ、一個聞いていいか」
「何」
「呪いってなんだよ。聞いてねえぞ」
「大丈夫だよ、土屋君を守るためのものだから。ですよね、茜さん」
「そうだぜ。それにもう効果は切れてるから気にすんな」
「もう効果は切れてるってさ」
「ああそうかよ。んで感謝しろってか。知らない間になんかされてるってのがすげー気になんだけど」
「別に無理に感謝しなくていいんじゃない。茜さんが勝手にやったことだし」
「いや、そこはしろよ。守ってやったんだからよぉ」
感謝して欲しいんだ。そう思いながらそれも伝えた。
「はいはい、どうもありがとうございました。これでいいか」
「
「感謝してるんだからいいじゃないですか」
「あの言い方は全然してねえだろ」
「細かいこと言ってないで、さっさと行きましょうよ。除霊しないとでしょう」
「祀理、なんか幽霊が言ってんのか」
「いいよ、気にしないで。さっ春日君の家に案内して」
「細かくねえよ、気にしろよ、なあ」
茜さんが文句を言ってるけど、相手にせずに土屋君に案内を頼んで付いて行く。
十分ちょっと行ったところで土屋君は足を止めた。
「着いた。あれがハルの家」
彼が指差す先にあったのは二階建ての一軒家。
「ああ、あの家か」
茜さんが何故か、まるで春日君の家を知っていたかのような反応を見せた。
「何か知ってるんですか」
「おう。俺だって常日頃ダラダラ幽霊生活を送ってるわけじゃないんだぜ。彷徨える魂を成仏させてあげたりとか社会貢献しちゃってるんだな、これが」
「それで?」
「あの家に悪霊がいるのも知ってた」
「なんで除霊してないんですか」
自慢げにしているが、言っていることとやっていることが違うではないか。
そう思ったが茜さんにも言い分があるようだ。
「だってあの家にいるのって、彷徨ってるのとは違うから」
「彷徨ってたから春日君に憑いていったんじゃ」
「違う違う。話しかけても何の反応もしなかったし、あれは意識がないタイプ」
「意識ですか?」
「そっ、あれは俺みたいに会話ができない。トリガーを引いた奴を対象に襲う悪霊っつーのかな。だからあれに襲われる人間にはそれだけの理由があると思って放って置いた―――んだけどな。原因がパラダイス寿に来たせいっつーなら除霊するよ」
そう言うと、茜さんはすたすたと春日君の家に向けて歩いていく。
理由があったこと、そしてその理由が僕に関係しているので文句が言えるはずもなく、なにもできないながら結末を見届けるため茜さんの後を追った。
話が聞こえていなかった土屋君への説明も忘れていない。
家の前まで行くと、確かに玄関扉前にスーツを着た男が立っていた。
生きている人間と変わらないように見えるが、インターホンがある門前ではなく玄関扉前で立ち竦んでいることから異常性を感じ取れる。
その男に向けて、茜さんが鉄柵をすり抜けて近寄った。
「祀理、幽霊が見えるか」
「うん、玄関前にいるよ」
土屋君のため、起こることを口に出して説明することにした。
「今玄関前にいる幽霊に話しかけてる。会話を試みてるのかな。でもやっぱり反応しないみたい。少し離れて―――ストレッチかな、茜さんが身体をほぐしてる」
「ストレッチ?なんで」
「分からないよ。あっ、今幽霊の横に立って、えっ………」
「どうした」
信じられないことに、茜さんが幽霊に殴りかかった。
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