第12話 放課後の予定

 朝のホームルーム前の時間。

 土屋君から春日君のことで相談があると言われ、続けざまに除霊はできるのかと聞かれた。

 もうそれだけで相談の内容に察しがつくというものだ。

 僕にできることは少ないけれど、力になろうと応える。。


「僕には除霊なんてできないよ。だけど春日君に起きている問題を解決する手段はあるから安心して」

「ん?まあなんとかできるなら頼む」


 言い回しの所為か、首を傾げられつつも依頼される。

 なんとかしてくれるのは僕じゃなくて茜さんだから、分かり難い返答になったのは許して欲しい。

  

「じゃあ今日の放課後、春日君のところに案内してもらうってことで良い?」

「おう。じゃあ早速ハルにも連絡するわ」


 言うや否や、土屋君はスマホを取り出して文字を打ち込み始めた。

 そうしながらも、話を詰めていく。


「学校終わりに直接行く、でいいか」

「いや、一回うちに帰ってからで」

「オッケー。まあ距離もそんなに離れてないし大差ないけどな」

「そうなんだ」

「おう」


 なんとかしてくれるのは茜さんなので、一度家に帰らないといけない。

 だから家が近いのは幸いなことだ。そして納得もする。

 春日君が異様に怯えていたのは、近所だからこそ噂を耳にする機会が多かったんだろう。


「おっし、じゃあ放課後よろしくな」

「うん」

「それと一個謝っとくことがある」


 なんだろうか。


「祀理が住んでる家の事な、クラス全員に知れ渡っちまった」


 なるほど。理解した。

 朝のクラスメイト達の反応と、目立つ二人の少女たちが話していた内容はそのことがあったからだろう。

 でも別に問題は無い。隠してることじゃないから。

 それをそのまま土屋君にも伝える。


「そっか。気にしないのか。祀理ってつえーよな」

「そうかな」

「絶対そうだって」

「いやー」


 なんて話していると横に立つ人影が―――。


「転校生君、転校生君。ねえねえねえ、お化け屋敷に住んでるって本当ですか」


 先程目立っていたうちの元気で小さい女の子が、顔を近づけながら問いかけてきた。

 お化け屋敷っていうのは、パラダイス寿の呼び名の一つだから合っている。


「本当だよ」

「わーーーっ、本当だったぁ。すっごいねぇ」


 花咲くような満面の笑み。

 妹の事が脳裏によみがえる。


「おい、四葉。なんでお前がいるんだよ」

「なにをー。いちゃダメなのかー」

「うるっさ。お前がいるとうるさいんだよ」

「そんなことないもん。ねー、転校生君」

「うるさいよな。祀理」


 話し掛けられたことで、追憶に浸っていた僕の思考は現在へと戻った。


「えっと、なにが」

「ほら、お前のでかい声のせいで祀理の耳がおかしくなってんじゃねえか」

「そんなことないよね、ね」

「耳なら大丈夫だよ。聞こえてる」

「ほらー」

「こいつに遠慮しなくていいぞ。うるさいって言ってやれって」

「ツッチーは黙ってて」


 二人は随分仲が良さそうだ。

 間に入ることも出来ずに見守っていると、しばらく言い合いをしていたが予鈴の音でハッとした表情を浮かべて慌て始めた。


「いつまでもツッチーなんかに構っている場合じゃなかった!あのね、転校生君にお願いがあるの」

「なんかってなんだよ」

「もうっ、邪魔しないでってば。あのね、私と乙葉ちゃんにお化け屋敷のお話聞かせてほしいんだ」

「お前なあ」


 土屋君が呆れたような声を出したが、僕からしたら何の問題もない。


「別に構わないよ」

「いいんかよ」

「ありがとー。転校生君はツッチーと違って優しいなぁ。じゃあ私は自分の教室に帰ります。じゃっあねーーー」


 言うなり手を振って、慌ただしく去っていた。

 入れ違うように担任の先生が教室に入って来る。


「あいつが迷惑だったら俺に言えよ。追い払うから」


 そう言いながら土屋君も自分の席へと戻って行く。


 新たな地での高校生活は、少し賑やかになりそうな予感がした。

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