第11話 乙葉と花菜

 人通りもまだ少ない早朝の道を歩き、学校へと着いた。

 校舎内を歩く生徒の数もまだまばらで、教室には誰一人としていなかった。

 やっぱり早過ぎたな、そう思いながら自分の席に座る。


 それから徐々にクラスメイト達が登校し始め、近い席の人には挨拶をした。

 返事をする際、どこかぎこちない笑みを浮かべられのはやっぱり初日に家族が全員死んでしまったことを話したせいだろうか。

 でも嘘を吐いても仕方がないことだし、間違ったことではないと思うんだけど……間違ってたのかなぁ。


 なんて思っていると、教室に風変わりな子が入って来て少し状況が変わった。

 誰に挨拶するでもされるでもなく、自分の席にまっすぐ向かって座るとすぐに本を取り出して読み始めた女の子。

 彼女が入って来てから僕に向けられていた視線が二分化し、僕と同じように扱われている。

 彼女は周りと比べて少し異質だ。

 黒いフード付きのローブというのだろうか。印象としては魔女っぽい服装。

 私服が許さているとああいう格好も有りなのか、と初日に目をみはったものだ。

 だが昨日も一昨日も周囲はそれほど注目していなかったのに、今日は視線を集めているのはどうしてだろうか。

 不思議に思いつつ僕も彼女を見ていると、教室の扉が勢いよく開く音と共に、大きな声が教室に響き渡った。


花菜かなだよーーー」


 今声に出したのは、入って来た少女自身の名前だろうか。

 小さな身長で女子にしては短めの髪。

 シンプルなニットにジーンズという格好。

 浮かべた満面の笑顔と行動から活発そうな印象を受ける。


 周囲へと元気いっぱいに挨拶をしながら少女は教室を歩く。

 その行く先はローブ姿の少女の元だった。


「おーとーは、ちゃん!おっはよー。花菜だよー」

「……おはよう、花菜。いつも言っているけれど、もう少し声を抑えて喋って。十分聞こえてるから」

「えーーーっ、でもでも前に言われた通り、挨拶する前に来たのを伝えたよ」

「そうね。教室に入るなりそうしてとは言っていないけど。それにそれが出来るなら大きな声を出さないっていう頼みも聞いてくれないかしら」

「頑張ってはみるね。ねえねえそれよりも、聞いた?」

「頑張る気ないでしょ。で、何を聞いたって」

「これは知らない反応ですなー。乙葉ちゃんのクラスのことなのにおっくれってるぅ」

「だから何よ」

「お耳を拝借」

「絶対耳元で叫ばないでよ」

「分かってるよぉ。心配しないで、ほらほら」


 随分面白い子たちのようだ。

 ついつい見ていたのだが、耳打ちを終えるとローブの子が僕のいる方へ顔を向けてくる。目が隠れているから分からないが、僕のことを見ている?

 それを追って小さい子もこちらを向いた。

 ローブの子と違って、小さい子とははっきりと目が合う。


「あの人?あの人だよね。だって見たことないもん」

「ええ。彼が転校生よ」


 なんだろう。やっぱり僕のことのようだ。


「その話、本当なの?」

「分かんない。でも花菜はそう聞いたよ」

「そう」

「ねっねっ、面白そうだよね」

「ええ、そうね。本当に」


 ローブの子の口元が笑みを浮かべる。

 何を聞いたんだろうか。家族の事?それとも―――。


「祀理」


 予想を付けていた僕の肩が叩かれたので振り向く。

 そこには土屋君が立っていた。

 目立つ少女たちに目が行っていたから、彼が登校してきたのに気付かなかった。


「土屋君。おはよ」

「はよ。今ちょっといいか」

「うん。何?」

「ハルのことで相談があるんだけど」

「春日君?」

「ああ、なあ祀理って除霊ってできんの」


 相談を聞くまでもなく察しがついた。

 どうやら茜さんの心配は的中してしまったようだ。

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