第10話 一人暮らし?
「祀理くーん、起きてー。起きるんだー」
朝、そんな茜さんの声で目が覚めた。
ベッドの上で上半身を起こし、目が完全に覚めるまでぼーっとして過ごす。
幽霊に起こされるってこれ心霊現象だよなぁ、とぼんやりとした頭で考えていると茜さんが話しかけてきた。
「祀理君、早く学校に行く準備をしなきゃ」
「むりー」
「無理じゃない。早めに行かないと駄目でしょ」
なんで急がなきゃいけないんだったかと鈍った思考を巡らせる。
なんだったかなぁ――――――ああ……、春日君に会わないといけないんだ。
目的に思い至るも、朝はやっぱり億劫だ。もっと寝ていたいと思ってしまう。
そんな僕の眼前、ベッドの上にぽいっとバスタオルが投げ込まれた。
勿論他に人はいないので投げたのは茜さん。
バスタオルを入れているチェストのある場所へと視線を向けると、茜さんが中を漁っていた。
あの辺りは下着を入れているはず。
そう思っていたら茜さんがTシャツとパンツを取り出し、ベッドまで持って来て手近な場所に置いた。
「ほれ、着替えは用意したからさっさと風呂入って着替えなよ」
「うぅー」
「ゾンビみたいな声出してないで、ほれほれ」
唸っていたらベッドのマットレスを揺らされた。
いつまでも寝ているわけにはいかないと分かっている。
だから本当に億劫だけれども、重い身体をなんとか動かしてベッドから足を出した。
時計に目をやるとまだ時刻は六時を少し過ぎたくらいだった。
思わず二度見してしまう。
「茜さん……まだ六時なんですけど」
「だって祀理くんってば寝起きがすこぶる悪いじゃないか」
「自覚はありますけど、それにしたって起こすの早過ぎません?」
「少年の身に危険が迫ってるかもしれないんだから文句言わない。はい、準備準備。朝食はどうする?手伝おうか?」
フライパンを振る動作をしつつ、茜さんが提案してくれたのでお言葉に甘えることにする。
「じゃあお願いします」
「任せろ」
そう言って茜さんは台所の方へと移動していった。
後を追うように、僕は用意してくれた下着を持って風呂場へと向かう。
いつも夜にはお湯を溜めて湯船に浸かり、朝はシャワーだけ浴びる。
熱いお湯を浴びていると段々目が冴えてきた。
シャワーを浴び終え、着替えをし、脱衣所から出る。
出たところの台所では茜さんが洗い物をしていた。
「おかえり。朝食は部屋に運んどいたから食べちゃいな」
「ありがとうございます」
テレビを点けて朝のニュースを見ながら作ってもらった朝食を食べる。
朝はパン派なのでトーストと目玉焼き、それと焼いたソーセージ。
シンプルだけどおいしい。
醤油をかけて目玉焼きを食べていると、洗い物を終えた茜さんが部屋に入って来て開口一番「塩の方がおいしいのに」などと言ってくる。
「だから僕は醤油派なんですってば」
もう終わったはずの論争をぶり返そうとするので、聞く耳持たずにさっさと食べ終えて食器を片づけた。
そのまま歯を磨き、部屋に戻って制服に袖を通す。
転校した学校には一応制服があるが、私服登校も許されている。
私服を選ぶ人の方が多いようだが、僕は毎日服を選ぶのが面倒だしお金もかかるので制服で通うことを決めていた。
学校に向かう準備は出来た。
時刻は未だ七時になったばかり。
学校までは徒歩で三十分以内には着ける。
やっぱり早過ぎるよなぁ。といった思いは飲み込んで家を出る。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
見送りを受けて学校へと向かう。
登校しながらふと考えるのは朝の一連の流れ。
「一人暮らしのはずなんだけどなぁ」
そう独り言を呟く祀理の口元は綻んでいた。
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