第9話 クラスメイトと幽霊対策
自宅で家族と夕飯を食べていた土屋のスマホが音を鳴らした。
手に取って確かめると、真春がグループチャットに書き込みをしたようだ。
開いて見ると、助けを求める短い言葉が綴られていた。
昨日個人宛で送ったメッセージに連絡が無かったから心配はしていたが、なにかあったらしい。
だが昨日送ったものはただ返信がなかっただけで、これは他愛無い事柄を大げさに言っているだけかもしれない。
だから理由を尋ねた。
『どうした?』
他のメンバーも気付いて同じような質問がチャットに並ぶ。
そしてすぐに返答があった。
『誰か
どうして真春が静森と連絡を取りたいのか。
他の友人たちは分からないだろう。だけど俺はそれで予想がついた。
真春は今、心霊現象に遭っているんだろう。
だから静森と連絡を取りたいんだ。
静森
いつも教室で怪しげな本を読み、黒いローブを羽織っている物静かで異質な少女。
長い黒髪なのだが、後ろ髪だけでなく前も目元が隠れるくらい伸ばしていて素顔を見たことがない。
話したことは無いが、暗いのに目立つ存在だから知っていることもある。
彼女がオカルトマニアだということだ。
だから真春が連絡を取りたいのは、その知識を当てにしてのことだと予想できた。
考えている間にもチャットは打ち込まれていく。
『なんで静森?』
『俺は知らないよ』
『俺も』
『クラスのグループにいなかったか』
『いるはず。そっちで連絡すればいいじゃん』
『個人的に連絡したいんだよ』
『それって…恋w?』
最期の文面を皮切りに、面白がって茶化す言葉が並んでいく。
だが真春はそれに取り合わず、再度確認した。
『マジメに誰か静森個人の連絡先を知らないか?』
一様に知らないと書き込まれる。それっきり真春からの返事は無くなった。
残った
『祀理の家と関係あることだよな』
少しして返信があった。
『そうだよ。ツッチーのせいだからな』
『ごめん、悪かったって』
静森の連絡先も知らないし、除霊もできない俺にできることは謝ることだけだった。
それからしばらくして、クラスのチャットに真春がメッセージを書き込んだ。
『静森に聞きたいことがあるんだけど』
多分他に静森に連絡を取る方法が無かったんだろう。
そのメッセージに静森が答えるよりも先に、先ほど『助けてくれ』というメッセージを受け取った友人の内数人が反応を示した。
『ハルが静森に愛の告白したいってさ』
『静森さーん。返事してあげてー』
完全に面白半分にからかっている。
さらにこれが切っ掛けで女子たちが騒ぎ始めた。
『キャー』だの『それってマジ?』だの『詳しく!』だのと興味津々な様子。
俺としては真春が真面目に相談したいことがあると知っているだけに、半ば苛立ちを覚えた。
『ハルは真剣なんだからあんまり茶化すな』
注意したつもりだった。だけど文面が悪かったらしい。
『マジなんだ』
『私応援するよ』
『意外なカップリング!ドキドキ』
真剣っていう言葉が別の意味にとられてしまった。
そういう意味じゃないと訂正する前に、真春の書き込みがあった。
『違うから。ツッチーも余計なこと言うなって』
名指して釘を刺された。
良かれと思ってやったのに、と反論したかったが負い目があるので言い辛い。
もやもやとした気分でチャットを見ていると、今度は『じゃあなんで』と疑問の声が上がる。
この問いに、
『心霊現象のことで聞きたいことがあるから』
とハルが理由を明かした。
当然、なんでそんなことを聞きたいのかって話になる。
そして祀理のことが言及されていく流れとなった。
『転校生が来ただろ。あいつの家に遊びに行ったんだけど、それがパラライズ呪だったんだよ』
『えっ、マジで!!』
『なにそれ?』
『この辺で超有名な事故物件。トラウマ製造工場ともいう。知らない?』
『狂気の館じゃなくて?』
『それ。それの別名な』
『やっば』
『スゲーじゃん』
『うわー』
事故物件の話で大盛り上がりである。
クラスメイト達がどんな幽霊が出るのか真春から聞き出し、わざとらしく怖がってみせる。
普段以上にチャットが流れていく速度が速い。
これなら普段話に混ざって来ない静森でも気付くだろうし、好きな部類の話だから乗っかって来るかも、なんで思っていたが一向に現れない。
もしかしてチャットを見ていないのだろうか。
代わりといってはなんだが、クラスメイト達が思いつくままに幽霊対策の方法を提案しだした。
例えばお経を唱える。塩を撒く、もしくは盛る。九字切りするなどといったものだ。
とりあえず試してみれば、ということで真春が試しに何度か離席するようになった。
そしてその度に効果が無いと言って戻ってくる。
案は早々に出尽くし、書き込みの量も減っていく。
成す術無しと判断したのか、飽きたのか。
やっぱり静森に期待して、『明日学校で聞いてみようよ』という意見が出た。
残っていたクラスメイト達も『それが良いよ』と一堂に頷く。
『明日は家の中に入って来るかもってさっき誰か言ったよな。今日何とかしてくれよ』
切羽詰まったような真春の書き込みがあったが、返事をする者は少なく『明日一日くらい大丈夫だよ』といった慰めの言葉を最期にチャットは鎮まりかえった。
静かになったスマホを眺めながら、明日俺は祀理に頼ってみようと思っていた。
なんせ原因となったあのアパートで普通に暮らしているんだし、なにやら自信ありげに自分は大丈夫って言ってた気がする。
だから魔除けとか除霊とか出来るタイプかもしれない。
そのことを真春に伝えようかと思ったが、今すぐに呼びに行ってくれとでも頼まれたら流石にそれは無理だ。俺はあのアパートにもう近づきたくない。
だから明日朝一で祀理に相談するからな、と心の中で真春に詫びるに留めた。
そして日は明ける。
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