第6話 転校二日目
翌日。
登校すると、昨日とはうってかわって誰も近寄って来ない。
あんなに興味津々に話しかけてくれたのが嘘のようだ。
自分の席に座って時間割を眺めやり、一限目の授業の教科書を用意する。
なにやら陰で僕を指してひそひそと喋っている人がいるようだ。
話し掛けてはこないのに、話題には上っている。
いじめの前兆だろうか。
無視されるとかなら勉強するには支障がないからいいけど。
暴力的なのはちょっと困る。
教室を見回すと目が合いそうになった人が数人、目を逸らした。
あれがひそひそしていた人たちか。
今は放っておいて、―――土屋君はまだ登校してきていないみたい。
茜さんと話した通り、謝りたいんだけどな。
でもなんて謝ろう。考えてなかった。
まずは謝罪の言葉、それから今後も仲良くしよう的なことでいいだろうか。
多分怖がらせてごめんとか言うと、それを気取られたく無さそうにしてたから気を損ねると思う。だからそれは言わない方向で。
いろいろ考えていたのに、朝のホームルームが始まっても土屋君は登校してこなかった。
遅刻なのか欠席なのか。
分からないまま午前の授業も終わり、昼休み。
もう今日は休みなのかと思っていたら、土屋君が登校してきた。
何人かのクラスメイトと挨拶を交わし、席に向かう。
まだ午後の授業までは時間があることを確認し、謝りに行こうと僕は席を立った。
「おはよう、土屋君」
「ああ、おはよ。何か用か」
厭がるでも避けるでもなく、普通に話してくれた。
「遅刻してきたけど、どうかしたの」
「なかなか寝付けなくて気付いたら学校始まってる時間だったから、昼までサボっただけ」
「そっか、良かった。あのさ、昨日はごめんね」
茜さんが引き出しを開け閉めし、わざと視界に映るように姿を見え隠れさせて驚かせたことも含め、事故物件である自宅へと招いたことを謝った。
だけどいろいろと考えた結果、簡潔にし過ぎてか伝わらなかったみたいだ。
「何が?」
「危ないって言われてる家に連れていったこと」
「ああ、別に。ってか俺らが行きたいって言ったんじゃん。祀理は悪くねえだろ」
「そうだよね」
「納得すんのはえーな、おい」
謝ったら謝らなくていいと言われ、納得したら怒られた。
でも本気で怒ってるわけじゃなくて、表情は笑ってる。
「てかさ、お前よくあんな家に住めるよな」
「昨日も言ったと思うけど、僕は大丈夫みたいなんだよね」
「僕は、ってやべーな。なに、除霊とかできんの」
「できないよ。でも噂されてるような危ない目には遭わないのはもう住んで分かってるから」
「大丈夫ならいいけどさ、いきなり失踪したりすんなよ」
「ありがと」
「おう」
謝罪を終え、席に戻った。
自分の頬が緩んでいるのが分かる。
久しぶりに心配されて嬉しいと思えた。
両親の事もあって心配されることは多かったけれど、腫物を触るような扱いが多かった。
だから普通に接してくれて、その上で僕の身を案じてくれる土屋君は良い人だと思うし、他の遠巻きにするような人たちとは違って仲良くしたいと思えた。
授業が終わり、帰宅する。
今日も出かけていた茜さんが夕方近くに帰ってきたので、謝罪したことを伝えた。
「おお、偉い偉い」
なんてあまり褒められた感じのしない褒め方をされた。
続けて土屋君の調子を尋ねられた。
「ちなみに彼、体調とかは崩してなかったか」
「遅刻はして来てましたけど、特に問題なさそうでしたよ」
「俺が簡単なものだけど
初耳となる情報が出てきた。
「呪いっていつの間に」
「帰り際にちょちょっとな」
実は茜さん、霊でありながら霊能力者という摩訶不思議な存在なのだ。
それは出会った日に聞いていたけれど、そんなこともできたらしい。
「敷地に入っただけでもここって危ないからさ、憑りつかれたりしないようにしといたんだよ」
「へー、―――――あっ」
忘れていたことを今更思い出した。
「なに。あっ、て」
耳聡く茜さんが聞きつける。
流石に黙っていたらいけなさそうな話なので、正直に思い出したことを伝えた。
茜さんが帰って来る前に、部屋には上がらなかったが玄関前までは来ていた友人候補の春日君のことを。
実は彼、今日学校で見かけていない。
途端に茜さんの眉間に皺が寄った。
「連絡先は知ってるのか」
「いえ、知らないです」
「明日朝一でクラスメイトに聞いて確認してくれ」
「危ないんですか」
「すぐってわけじゃないとは思う。だけどなにか連れ帰ってる可能性は高い」
その日の晩。
春日真春が仲の良い友人たちにグループチャットでメッセージを送っていた。
それはこんな文面だった。
『助けてくれ』
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