第2話 茜さんノリツッコミ

 僕の新居となったアパートの噂に関しては分かってもらえたと思う。

 じゃあ話を僕と茜さんとの会話に戻そう。

 茜さんは僕がここに友達候補を連れて来たことを怒っていたようだ。

 でも待ってほしい。

 僕だって何も考えなしにこのアパートに連れてきたわけじゃないのだ。



 それは今日、転入することとなった学校での昼休みの事だった。

 二人の男子生徒が僕の座る席に近づいて来た。

 どちらも髪型を決めるのに時間をかけてそうな頭髪をしており、胸元や手の周り、耳には各々アクセサリーをいくつか付けていた。

 他の学校だったら校則で止められそうだが、教室にはちらほらと派手な髪色の子もいたりするし、ここはその辺緩いようだ。

 残念なことに僕は普通だから、目新しに楽しさを感じる。

 とにかく一緒にご飯を食べようと誘ってくれたのを喜んで承諾した。

 簡単な自己紹介をしてもらって、茶髪でピアスの量が多いのが春日真春まはる君、銀髪で髑髏の装飾がされたアクセサリーが特徴的なのが土屋耕輝こうき君だと聞いた。

 そんな二人の用件はというと、どうやら僕の暮らす家を見たいということらしい。


「なあなあ、転校生。自己紹介の時に一人暮らししてるって言ってたよな。それってマジ」


 これが彼らから掛けられた初めの言葉。

 とってもフレンドリーで気さくな人たちという第一印象を抱いた。


「うん、本当だよ」

「俺らも一人暮らしとか憧れてんだけどさ、一回家見せてくんね」

「別にいいけど」

「おっ、話がわかるねー」

「早速今日行っていいよな」

「えっ、今日来るの?」


 茜さんもいるし、二人を連れて行っていいものか少し考えてしまう。

 そんな葛藤の間を断られると感じてか、二人はさらに押してきた。


「ちょっと寄るだけだって。いいじゃん」

「なあなあお願い」

「うーん、僕はいいんだけどね」

「じゃあいいじゃん。だって一人暮らしなんだろ」

「他に許可なんていらないっしょ」

「まあ、それはそうなんだけどさ」

「なになに俺らと友達になってくんねえの」

「うわ寂しい。俺ら泣いちゃうよ」

 

 本当に泣いているわけではないけれど、そう言われると弱ってしまう。

 彼らは随分一人暮らしに憧れを抱いているようで、引きそうにないと思った。


「なーあー、いーだろー。家見せてよー」


 まあいいか。

 そんな感じで二人の友人候補を家に招くことになったのだった。



 という経緯を茜さんに説明した。

 すると茜さんは残念そうというか憐れむように僕を見てくる。

 なんだっていうんだ。


「お前それたかられる前段階だから気を付けろよ」

「集られるってなんですか」

「俺の経験から行くとだな。高校生にとって一人暮らしってのは憧れだ」

「そうですね。僕もそうでしたから」

「だよな。んでクラスメイトにそんな憧れの暮らしをしている奴がいるとする」

「僕ですね」

「ああ。そうっすと勿論どんな暮らしをしてるか気になるってもんだ」

「ですね。そう言ってましたし」

「ちょっと見せてよっつって行くよな」

「来ましたね。まさに今日」

「行ったら大人の目もない一人暮らし。自由。最高。ヒャッハー。ここは俺たちの城だぜ!ってなる」

「ぼくの家ですが?」

「それはそうだけどな、悪ぶりたい奴はそう思うの。そういうもんなの」

「はあ。そういうものですか」

「んで高校生活中ずっと毎日のようにたむろする場所にされる」

「そうなったら僕は断りますよ」

「断れるか?」

「友達が家に来てくれるのは嬉しいですが、さすがに毎日来られると困りますから」

「あー、祀理君ならバッサリ言いそうだな。短い付き合いだけど想像ついたわ」

「はい。言いますよ」

「なら心配するだけ損だったか」

「そうですよ。あんなに脅さなくたって良かったんです」

「そっかそっか。それは悪い事をしたな」

「まったくです」


 茜さんは申し訳なさそうにし、僕は正座を解いてあぐらをかくとふんぞり返る。


「って違うわ!」


 一拍置いて盛大なツッコミがはいった。


「カモにされる奴の流れでうっかり話の方向間違えたわ」

「なんですか。茜さんが悪いことをしたって結論になったじゃないですか」

「違う違う。俺が言いたかったのは違うの。危ない幽霊が大量にいるような事故物件に人を連れてくるなって言いたかったの」

「そんなに危ないですかね、ここ」

「危ねーよ!不動産屋だって言ってただろうが。何回『ここに住むんですか』『本気ですか』『止めるなら今ですよ』って確認されたよ。祀理君は普通じゃないから住めてるけど、一般人は無理なの。連れて来たら駄目なの。そこを理解しよう。ちょっと悪ぶりたいくらいの高校生が犠牲になるなんて可哀想でしょ。やんちゃして罰が当たるのは自己責任だけど、ここに来させるのはやり過ぎ。分かる?」


 唾が飛ぶ勢いで捲し立てられた。


「人を変人みたいに言わないでくださいよ」

「ここに平気な顔して住んでる時点で変人確定だよ。奇人だよ。ヤベー奴だよ。知らないと思うけど、祀理君は今ご近所中で話題になってるから。めっちゃ後ろ指刺されまくってるから」

「えー、それは何か嫌だな」

「仕方ないって。それだけここはヤバいんだからさ。とにかくあの少年には俺も悪いことしたと思うけどさあ、祀理君の方がよっぽどのことをしてるわけ。分かった?」



 どうやら彼らには悪い事をしたようだ。

 明日学校に行ったら謝ろう。

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