有償の愛、無償の愛
私の学校の図書室は二階建てだ
一階は文学、二階が専門書
螺旋階段上り二階に来ると
そこには誰もいない
専門書を見る生徒なんていないのだ
一階の文学は漫画、ラノベ、読みやすい解説本
司書に聞いたら、あまりにも万引きが多いから
こちらで用意してしまえ、と考えたらしい
それに懐疑的な先生は一杯いた
でも万引きされるより、犯罪を犯すより
その方がいいか、という空気だった
今日も図書室は満員だった
ワンピースとかあったし
ジャンプ作品はいっぱいあったなあ
男子も女子も血眼になって
我先に借りようとしていた
でも、悪い人がいる
ボロボロになって
他の教室で見つかることがある
そうしたら最後に借りた人を問い詰めるのだ
だけれど、とても気の弱い人
それでわかる
無理やり借ることを強要されたんだ
うちは傷つけた人が自腹で買い直すから
ズルい人はいっぱいいる
本の感謝さえしない
だから一騎打ち
全校集会で
「これ以上、損傷が激しい本が見つかった場合、
ライトノベル、マンガ、その他、人気のものは
全てなくします」
どよめく体育館
真っ青のスケープゴート
「履歴がわかりますが、どちらにせよ
損傷があったマンガなどは貸し借りいたしません」
ブーイングがあったと思う
でも、本を酷くしてほしくない
これは叡智の結晶なんだから
ある日、見知った顔が来た
振った男だ
「……すげえな、お前」
「あんなにさ、はっきりさ」
「……どこかで締めないと」
「教室でボロボロになったマンガが見つかったんだ」
「マジか」
「誰が弁償すんだ」
「わかんない。だから縛り付ける」
「……イジめられるかもよ」
「どんどこい。それって犯人でしょ」
「すげえなあ」
「とりあえず一人にならないようにするよ」
「……それさあ、俺じゃ駄目か?」
図書委員会長は訝しげに男を見た
こいつは嘘の告白で、馬鹿な恋をして
無償の愛を提供したい男だった
「……護衛か」
「それそれ」
返却口に立つ男
返却された本を整える自分
「許した気になるなよ」
「いつか、お前の前に立てるようになるよ」
ぐっ、と苦しそうに男は言った
たかが学生時代
たかが学生の恋と愛
信憑性がない
けれど、襲われない保証もないし
奥手になった男に自分は離す
金銭なんていらない、笑顔もいらない
騙した事実が後を引く
「バカだけど、いいよ」
ぱあ、と喜ぶ顔をした
わかりやすい
「バスだよな! バスだよな!」
駅前にいく! 子どものようにはしゃいで
「マンガでも読んでてよ、まだ仕事終わらないし」
「わかった!!」
バーッと少女漫画を読み始める
少年漫画は盗まれることが多いから
こっちで管理している
ま、置いといて
こいつは一緒に帰るつもりらしい
これは、自分は、悪い気がしなかった
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