その名を

不思議なことに

一年過ごした相手の名を知らない

ふんわりとした印象

語る為の揶揄

なんでもしていいという

傲慢


「名前」

そう言われて射抜かれる

本当に好きなら言えるでしょ

遊びでしょ

「名前言ってみて」

喉が引き攣り顔を見た

瞳は冷めて

それでも温かいと思った

「ま、待って、ろ」

殴られても

あの冷たい目に

胸の高鳴りが収まらなかった


好奇心、だろうか?

目新しいから?

発売したゲームとか

そんな感じ?


「用事、済んだでしょ。帰るよ」


いや、絶望を味わった

人を傷つけるということが分かった気がする

「ごめんな」

パシンッ

頬を叩かれた

それは無表情、掌は赤く

傷つけたから、許してほしいと願った

「……一緒に帰り」

パシンッともう一度叩かれた


「恋はしていたと思うよ。でも終わりかな

「お遊びの恋はいらない」

「冷めちゃった。じゃあね」


その日から何度も何度も

通いもしなかった図書室に

訪れることがない保健室に

声をかけることない体育の時間

何度も目で追った


また「好きだ」と伝えたら

どうなるか、どうなるか、殴られるか

この頃、わかったことがある

心の底から謝りたい

だから、その恋心をもう一度

名前を呼ばせてほしい

エゴだけど、謝って、その恋心をもう一度

ここに恋心はあるから、もう一度

その冷たい視線の前に立ち塞がった

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