プリントを後ろまで

「ほい」

そいつはいつもそう言って

配られたプリントを渡してくる

言葉を口にするから

いつもいつも

「ありがとぅ」

返すのだ

いちいち言わなくていいのに

癖になっているようで

席替えをした日

あいつは前から消え

他の列になった

そして

「ほい」と後ろにプリントを渡す

なんだあ、と思って少しして

恥ずかしくなって

教科書で顔を隠した

今日も聞こえる

明日も明後日も

もやもやとして日々苦しかった

でも「席替えするぞー」と

委員長の声がして

また後ろになった

「ほい」

「……ありがと」

プリントは行事やどうのこうのって

ふいと気配がして目線を上げた

じぃっと見つめられていた

「いやあ、渡し甲斐があるなって」

それだけ言って向き直る

は? と声に出したかったが

担任の声がして止めた

どういう、ことだろう

どう受け止めればいい?

この体が熱くなっていく

この心臓が高鳴り続ける

プリントで顔を隠した

隠して泣きそうになる

ちょっとした糸で繋がっている

わかった、この瞬間

とても好きだと知ってしまった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る