#11 最適化シュノーケリング

朝だ。


朝起きるとそこは私の家の私の部屋の中ではなく、小笠原の泊まり込みの宿の部屋だった。眠りが浅い。普段ならばこんなに早く起きることはない。


しかし皆はとっくに起きていて、環凪は「私に頼らずに起きれたね。感心感心」などと親目線みたいなことを言ってくるし、共同生活の大変さのようなことを理解できた気もした。


「友海〜早く出てくれ〜」


トイレは混んでいる。書籍院が長いこと出てこないらしい。


そうこうしているうちに皆起き始めてメインの共用スペースの部屋が混んできた。私はしっかりと身支度を済ませ、外へ出て人混みを避けた。


「今日もそのワンピースなんだね」


誰だ?と一瞬思ったが彼こそがクラスメイトの桃園であることに気がついた。これまで男子の生徒らが全然登場してこなかったのでわからなかった。桃園は顔立ちがどこか女っぽく、こないだもなよなよしていることでクラスの運動部連中からいじめられていた。


「まあ私のポリシーだからね。それであなたはなぜ女子のところまで来て立ち尽くしてんの?」


桃園は女の私から見ても普通にかわいい女の子だ。男性から見る「かわいさ」と女性から見る「かわいさ」とはたびたび異なると取り沙汰されるが、桃園のかわいさはいわゆる女の方から見た時の「かわいさ」である。足がとにかく細い。体も横から見ると板のように細く、抱けば簡単に折れてしまいそうだ。マスクで顔を隠しているので基本的に顔もそんなに気にならない。


「いや……朝の散歩をしていただけだよ。別に君たちのところを見にきたわけじゃない」


「ふぅん。まあ何でもいいけど」


「朝の散歩はポリシーってやつなんだ」


私の格好と同じように?


「そういえば環凪はいないの?」


私は環凪といつも一緒にいるやつと思われているのか?


「都々はまだ部屋の中だよ。今日は早く起きたからね。だけどアイツはまだ化粧してる」


「じゃあ、これを渡して欲しいんだけど」


と言って渡したのは茶封筒だった。


「何これ?」


「中には手紙が入ってるよ。とにかくそれを環凪都々に渡してもらいたいんだ」


「ええ……ラブレター?」


「別にそういうやつじゃあないよ。ただ、連絡事項があるんだ」


「何の?」


「とりわけ個人的な、ね?」



桃園は渡した後にそのまま去ってしまった。


その後、旅行のイベントの1つとしてシュノーケリングがあった。海のごく浅いところをシュノーケリングで散歩できるという非常に魅力的なイベントであるが、私はこれに参加しなかった。


真夏の太陽を避けて日傘を差している私にやってくる人影があった。


「少女先生」


「なぜお前は泳がないんだ?」


「いや、私は普通に肌が弱いんですよ」


「ああ、そうか。男性教師にこういうの聞かれて嫌な気持ちになるか?」


「別に……。桜道先生には話してたし」


ざばあ。本格的な装備、ガスボンベと黒いアクアスーツを身につけた書籍院と赤嶺が海の中から出てくる。


「皀理っちと少女先生!海の中めちゃくちゃ綺麗だった」


などと無邪気に言う。書籍院は普通にバテていた。水中に潜るというのは存外に体力を消費するらしい。


「ほんとにあんな景色実在するんだね!天国みたいな風景」


赤嶺が手に持つのは何だろうか。うなぎの如くうねり続けている何かの魚類だ。


「それは?」


「わからない。海蛇かも」


少女先生はさすがにそれを許容できなかったらしく


「戻してきなさい」


「は〜い」


「皀理っち、ちょっと後で話いい?」


「濡れてるから近づかないで」


「ごめんごめん。とにかく後でね?鉛筆の話だよ?」




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