第14話 ジャングル

島へ上陸すると、さっそく虫が現れた。それも、最初に私達を襲ったやつだ!


「千佳、気を付けて!」


千佳はこくりとうなづくと、軽く飛行した。地面に立つよりよっぽど素早い動きができるだろう。私はそんなことできないから、こそこそと近くの木の後ろに隠れる。これで突撃してきても木を盾にすればなんとかなるだろうと、淡い期待を込めた

トンボは、蟲人じゃないらしく、襲い掛かってきた。あの尻尾に刺されると虫になっちゃう。そんなイメージが先行しているのか、千佳は大げさに回避する

トンボは、突進では分が悪いと思ったのか、目の前に空気の塊を作って撃ちだしてきた。それは千佳も出来る事なので、同様に塊を撃ちだして相殺する


「……思ったより強くない?」


やはり、最初に襲撃を受けたイメージが強すぎて、過剰評価していたらしい。冷静になって動きを見ると、そんなに早くも無いし、千佳と違って空気の刃は使えないようだ。ただ、違う魔法を使ってきた


「わわっ!」


千佳の足元が渦を巻き、つむじ風を起こして千佳の動きを封じる。そこへ、トンボが尻尾を突き出すように突進してきた


「こんにゃろ!」


千佳はつむじ風からなんとか抜け出すと、トンボの上に飛びあがり、空気の刃で首を切断した。しかし、トンボはしぶとく、飛ばされた首はガチガチと口を鳴らし、残った体も尻尾を刺そうとしばらく動いていたが、当然飛ばされた首と連携が取れるわけでもなく、見当違いのところへ飛んでいくと、しばらくして地面に落ち、動かなくなった


「ごめん、隠れてばっかりで千佳に負担をかけて」


「いいよ。どっちにしろ私しか戦えないだろうし。それとも、魔法を使えそう?」


千佳が確認してきたので、一応何か出来ないか試してみる。しばらくウンウンと力を込めたり、何かを発射するポーズをとったりしたが、何も起こらない


「……無理みたい」


「それなら、私が出来る限り戦うよ。それに、新しい魔法も覚えたしね」


千佳はさっそくさっきのトンボが使っていたつむじ風を見せてくれる。うまくつかえば、自分を素早く浮き上がらせたり、相手の動きを曲げたりできそうだ


数分後、落ち着いた私たちは、ジャングルの中へと入ることにした。ジャングルの中は、まるで誰かが道を切り開いたかのように、整然としていた


「誰か、いる」


千佳の複眼が何かを捉えた様で、身構える。私もサッと木の陰に隠れる


「お主らは誰かのぅ? 知能があるならこの森を抜けて見せよ」


どこからともなくそんな声が聞こえた。そして、ここから先は木々が組み合わされ、自然の迷路になっているように見えた。千佳が攻撃すれば木を倒しながら進めるだろうけど、それは声の主が望んでいる答えではなく、しゃべれるなら蟲人の可能性や、人間の可能性があるので素直に迷路をクリアする事にした


迷路は単純に時間をかければクリアできると言うものでは無かった。一筆書きをせよ。とか、すべての合計が45になるように数字を埋めよ。とか、どこのクイズ番組だと言うようなものだった。さらに、けがをするようなものでは無いが、罠まで仕掛けられているという徹底ぶりだった。主に、浅い落とし穴とか、ひっかけロープとかにかかったのは私だけだったけど。千佳は宙に浮いてるからそもそも落とし穴には落ちないのだ


「これで、どうだ!」


最後のクイズを解くと、今まで見えなかった道が開ける


「ほぅ、なかなかやるようじゃの。その知恵、その知識はワシと同じ日本人じゃな」


出てきたのは、見た目がセミの蟲人だった。おじいさんなのか、セミなのに白い髭がある


「お主ら、蟲人の村からきたんじゃろ? どれ、ワシもそこへ向かいたいのだが、場所を教えてくれんか。おっと、ワシの名前は黒田洋一じゃが、見た通りクマゼミじゃからクマさんとでも呼んでくれ」


クマさんは日本語でそう言ってきた。もちろん、私たちは歓迎するつもりだ


「それじゃ……クマさん、このタグを見て。地図になってるから」


「どれどれ、ほぅ、こんなところにあったのか。それじゃあ、向かうとするかの。ああ、このジャングルの奥にある遺跡に、もしかしたら蟲人がおるやもしれんぞ。数日前、見知らぬ虫が奥へ向かうのを見たからの」


クマさんはそう言って飛び立っていった。それにしても、クマさんって言うのは慣れないなぁ

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