第15話 敦美3
風呂場と言って連れて行かれた場所は、お湯が沸き出る温泉のようだった。冷たい水で洗われる、そう思ってたのに温かい温泉に浸かれるなんて……
「おっ、ちょっとは反応したか。心なんてそう簡単に壊れるもんじゃねーからな、絶望を感じた割には、目の前に楽しみなものがでて息を吹き返したか?」
「……うるさいわね」
蜂に言われた通り、これからの事には絶望したけど、完全に気力を無くした訳ではない。扱いはひどいとは思うけれど、まだ死んだわけじゃないし、死ねないし。どうせ死ねないのなら、少しでも生きる希望を持ちたいと、そう思っただけだ
万が一、そう、万が一にでも誰かが助けに来てくれるかもしれない、そう願って
「服は脱ぐか? と言ってもボロボロだな。別に裸で過ごしても構いやしねーが、欲しいって言うなら何か着るものを用意するぞ?」
「……何か着るものをお願い」
上着と下着はダンゴムシに破かれ、スカートはお腹が破れたときに血だらけだ。洗っても絶対に落ちないだろう。それに、仮に綺麗になっても着たいとは思わない
「分かった。確か、どっかに蜘蛛からもらった服があったはずだ。自分で洗えるか? 洗えるよな? その間に探してきてやるよ」
蜂はそう言って風呂場から出て行った。ダンゴムシに比べたら、蜂はずいぶんと優しい。キリッとしたフォルムはかっこいいかもしれない。虫の中では、だけど
私は風呂に入る前に、湧き出ているお湯を近くに置いてあった木の器ですくうと、体にかける。少しこすって固まった血を流していく。粗方流し終えたら、温泉に浸かる。丁度いい温かさで、癒されるが、涙が出てくる
「ぐすっ、うぅ、私、これからどうなっちゃうんだろう」
あいつらの話では、また繰り返し卵を産み付けられ、体を食われ、育ったら腹を破って産まれてくる。この繰り返しの人生だ。いっそ絶食して餓死してやろうか……そう思ったけど空腹に耐えられそうにない。一度は舌を噛みちぎったが、今考えると同じ事をもう一度やれと言われても出来そうにない。慣れ……そう、慣れれば慣れる程、恐怖心は引いて行くのだろう
それならば、せめて蜂の子を産みたいな。そう思った私はおかしいのだろうか。ううん、おかしいのだろう。だけど、ダンゴムシに比べたら、全然蜂のほうがマシだ。……そろそろ上がろうかな
私は温泉で頭を洗う。こういう時は普通の水が良いなと思うんだけど、贅沢を言える立場ではない。今度はしっかりと体を洗う。別に蜂のために綺麗に洗う訳じゃないけど、体は綺麗にして置きたいと思った
「もういいのか?」
なかなか戻って来ないと思ったら、温泉の入り口の前で蜂が待っていた。服だけじゃなく、タオルまで用意してあった。一応逃がさない為か、入り口からは動かないみたいだけど、ジロジロとこっちの裸を見たりはしないようだ。くそっ、なんでそういう気づかいをするんだよ!
残念ながら、下着は無いようだ。ワンピースのように上から被るだけの簡単な服を着る。下がスースーするけど、これからされることを考えたら、履くだけ無駄かもしれない
「さっそくで悪いが、飯を食ったら卵を産み付けるぞ」
私は返事をしなかったけど、どうせ有無を言わさず産み付けられるだけだろう。歩きながらそう考えた。それなら、
「痛くないようにして」
「いいだろう」
食事を終え、体の熱も収まったころ、逃げ出さないことを条件に少し場所を変えるという事だった。連れて行かれた場所は、大きな葉っぱがひいてあり、直接地面に座るよりは全然痛くない。ちょっと冷たいマットみたい。私は、蜂に言われる前にそこへ寝そべる。うつ伏せになるか、仰向けになるか考えたけど、どうせお尻に入れられるのなら、うつ伏せになっておこう。せっかく着たけど、服も脱いでおく
「それじゃあ、いくぞ? まずは麻酔だ」
腰の方に針をさされ、少し痛みを感じたけど、すぐに感覚が無くなる。そして、蜂は私の背中に優しく乗る。見えないけど、たぶんお尻に卵を産んだはずだ
蜂が離れるのと、お腹の中に違和感を感じ始めるのとは同時くらいだった。私は仰向けになって大人しくする。蜂はそれを近くで見守っていた。今回は、そんなに嫌じゃなかったな……
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