第13話 名無し

私は生まれたばかりの虫である。名前はガキと言うらしい。本能で親だと分かる虫からご飯を探してこいと言われた。産まれたときから、言葉は理解できる。けど、言葉の意味は知っていても実際に見たことが無い物は分からない


「お腹空いた……」


とりあえず、その辺にあった木の実を食べる。ポリポリポリ。うん、食べられそう、これを持ち帰ったら褒めてくれるかな? それとも、もっとおいしい物があるのかな?


「あっちの方からいいにおいがする」


私はいい匂いのする方へ向かう。拾った木の実は手に持てる分だけ持っている。残りは後でまた取りに行けばいいだろう


「うわぁ、おいしそうなのがいっぱい!」


赤い実がいっぱいなった木がある。私の知識だとリンゴという果物に近いかな? 見たことは無いけど、赤くてちょっと四角い果物


「……届かない」


手の届く範囲の木の実はすでに他の動物か持ち去ったらしく、私の身長で届かない場所にしかない。木に登ろうとしたけれど、私の手は木を登るのには向いていないらしい


「むー、こうなったら、パンチする」


私は、本能に従って右手に力を込める。そこの部分だけ手を甲殻が守って強化される。思いっきり振りかぶって木の幹にパンチ! 木を揺らして果実を採るつもりだったけど、木がメキメキと折れて倒れてきた。これで全部私のもの!


「あっ、持てない……」


私は左手に持っていた木の実を捨てると、代わりに果実を持つ。持ち帰る前に一個食べよう。いっぱいあるしいいよね?


「おいしい」


果汁がたっぷりで、シャキシャキとした歯ごたえがする。木の実なんかよりよっぽどおいしい。はっ、いつのまにか5つくらい果実を食べた気がする。さすがにお腹がいっぱい。さて、命令通りご飯として持ち帰ることにする


「……帰り道どっち?」


周りは一面同じような木ばっかりでどっちから来たか分からない。キョロキョロ見渡しても何も分からない。困った。とりあえず、持てるだけの果実を両手に抱えて、適当に歩くことにする。待っててね、お父さん

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