第9話 遭遇
「おえぇぇえ」
「綾音、大丈夫?」
千佳が私の背中を撫でてくれる。さっきの果実が悪かったのか、さっき食べた果実をすべて吐いた気がする。気持ち悪いというよりも、胃から先に食べ物が行かなかった結果の様な気がする。マジで自分の体がおかしい。さっきもお腹が空いたから食べたというより、どんなものか気になったから口に入れたっていう感覚だし
「ありがとう、もう大丈夫」
自分の吐いた物を見ても、胃液は混じっていない。果実と果汁だけで、私が吐いたと知らなければ単に果物を潰しただけに見えるかもしれないと言えるほどには吐しゃ物に見えない
「私は大丈夫っぽいんだけど……」
「私の体がおかしいだけみたい。全部吐いたと思うけど、喉も乾かないしお腹も空かないよ」
「それならよかった。あっ、ちょっと行ってくる」
千佳はそう言ってそそくさと木の陰に向かう。あえてどこ行くの? とは聞かない、恐らくトイレだから。冒険者とかってトイレはどうしているんだろうね? ゲームなら全く関係ないのに
「おまたせ」
「おかえり」
私はそれだけ言うと、さらに西に向かう。それから少し南の方へ向かうと、森のように背の高い木が多くなってきた。それに、木の奥からさっき会ったアブラムシの蟲人と同じ見た目の人が出てきた
「あなたも村へ行きたいですか?」
私はそう話しかけたが、そのアブラムシは蟲人ではないようで、急に襲ってきた
「綾音、下がって!」
アブラムシは口から水玉の様なものを吐き出す。千佳は体が虫に近くなったからか、人間の頃よりも動きが軽くなっていて、簡単に水玉を回避する。水玉は木の幹にぶつかると、15cmくらいの木がメキメキと折れる。さっきの蟲人が手加減して攻撃していたのがよく分かる
「言葉も通じないみたいだし、やっちゃって!」
「分かった! 空輪(くうりん)」
千佳はハクの家でやった技を使う。胸の前に集めた空気を薄く延ばして回転させ、弾くようにアブラムシに飛ばす。アブラムシは回避できずに体の一部を切り裂かれ、水の様な体液をまき散らしながらのたうち回る。しばらくして、動かなくなった。そして、すぐに乾燥するように縮み、抜け殻の様なものになった
「……千佳、行こう」
「……うん」
私達は少し速足でこの場所を離れた
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