第19話 主様がやばい
3-6 ナーブ
統一歴0年6月10日
○ シャテル・コメティウス
マーロでのナーブ禅譲後の諸々の手続きを終えて帰ってきた。領主でなくなったとはいえ、ここは儂にとっての故郷のようなもの。婿殿もキャベリもここの代官として居座ることを許してくれた。だけでなく、新たに平定したヴィエンナの開発まで任されてしまった。本当に爺使いの荒いやつらじゃ。
36年、ナーブの領主であり続けた。大小の苦難、大きな喜びを部下や仲間達と共にし今の儂がある。死んでいったもの、諦めたもの達の想いを背負い生きてきた。その全てを婿殿に委ね、心だけでなく身体まで軽くなったわい。
とはいえ、遊んでもおれんのじゃなこれが。ヴィエンナの開発も大切じゃが、それ以上にシーザーから頼まれた仕事がある。
冒険者ギルドの創設。
まず、冒険者がよく分からん。魔物の討伐や素材の回収の依頼を受けることによって金を得る者たちのことらしいのだが、傭兵じゃいかんのか?なんじゃ冒険者って?お約束ってなんのことじゃ?
ギルドというものに関しては話を聞いてよく分かった。冒険者の互助組織であり、仕事の受注と発注元じゃろう。これは大工や鍛治職人など職業ごとにあっても良さそうな組織じゃな。これも傭兵ギルドじゃいかんのか???
まずは冒険者という職業の普及から始めんといかん。さらに儂は表には出てはいかんという縛りまである。難儀な話じゃて。
表の代表は横におるこの小娘じゃ。銀髪で非常に美しい顔立ちをしておるこの小娘。無表情で何もない前をずっと睨んどる。
怖いんじゃよ!
ソルブ・シシリウス
銀髪の小娘の名前じゃ。この小娘、シーザーの従魔、つまり魔物じゃ。しかもかなり強い。あと、儂の勘違いでなければ、北方のスロンの領主となんらかの繋がりがある。
領主なら見ることができる領主館地下にある石碑にスロンの領主の名前が載っている。ギルデン・シシリウス、姓が一緒じゃからの!
「おい、小娘。指示通り冒険者ギルドとやらを作るつもりじゃが、おぬしの名前、変えた方がいいんじゃないか。勘のいいやつならスロンとのなんらかの繋がりを見出すぞ。」
「シジイ、小娘じゃない。ソルブ。主から頂いた名がある。あと、あなたより私の方が年上。たしかにスロンの領主は私の姉。名前は変えるから適当につけて。」
姉認定きたーー!
やはり血縁者じゃったか。あと、この見た目で儂より年上とかマジ怖い。えっ?10代にしか見えんのじゃが、いくつなんじゃ?
「分かった。では、今日よりナルド・シラウスと名乗れ。ギルドの創設に関しては儂の方である程度金は出すが、どうやるつもりだ?あと、おぬし今いくつだ。」
相変わらず何もない壁をじっと睨みながら無表情、抑揚のない声で会話を続けてくる。
「わかった。今日からナルドと名乗る。ギルドに関しては主が動いている。我々は主の作った流れに乗るだけ。あと、女性に年齢を聞くのは失礼。」
めんどいやつじゃな!
歳教えろ!
シーザーが動いているならあまり難しく考えずに待ってれば良いかの。先にヴィエンナの開発を進めておくべきじゃの。
1-3 スロン
統一歴0年6月19日
○ ギルデン・シシリウス・スロン
始祖様が逝かれてから2ヶ月が経った。何故かスロンの領主には私が選ばれていた。始祖様の最後に私が抱きしめたことで討伐認定が私についたのだということは理解できる。魔物である私が領主になれることに違和感を覚えるが。
主は始祖様の解放を本気で考えておられる。私としても始祖様が解放され、共に生きることができるのであればそれに越したことはない。始祖様が主の妻となり、私とソルブが主の妾となる。そんな未来が待っているはずだ。今から楽しみで仕方ない。そのために私のできることは全てやっていく。
主の指示通り周辺2領を落とし、開発を進めている。地下施設で育てていた人族の半分は私の部下として動かしている。主が与えた力を使い領土の開発を進め、僅か2ヶ月で見違えるほどの発展を遂げた。
これだけの兵力と主の力があれば世界の統一など容易いのではないか。実際周辺2領の平定は非常に簡単なものであった。
そう考えていたが、格SSSの領域主の存在があった。この世界の四隅にいる最高格の領域主。始祖様よりも強い存在。
この4体が主と同格の強さであれば世界の統一が危うくなる。そう考え、北西の隅にあるクヌーに草を送り込んだ。
だが、情報を持ち帰ることはできなかった。
入り込めはするのだ。実際に私も侵入したのだ。だが、領内に入った瞬間に発せられる領域主からの圧力に抗しきれず押し出されてしまう。
あれは、下手をすると主よりも格上。こちらから仕掛ければ何かを感じる前に殺される恐れがある。主に対しても感じたことのない恐怖が身体中を包む。
だがこちらにも希望はある。主はまだ赤子。これから成長し続ける。あの領域主すらも圧倒する力を持つ可能性が充分にある。時間はこちらに味方しているのだ。きっと主は成長する。私はそれを信じておれば良い。
目の前が唐突に光り、主が降臨された。
『ギルデン、ソルブが冒険者ギルドの作り込みを始めた。数人スロンから人を貸してくれ。冒険者として活躍させる。』
あっれーーーーー???
主様、前より強くなってない?
えっ???
クヌーの領域主より圧倒的に強くない?これ?
『ん?どうした?ギルデン?何人か人を借りたいんだが?大丈夫か?えっ?どうしたの?返事して?』
あ、これ、大丈夫なやつだ!
楽勝!楽勝!!!
もうね。安心感の塊!
まだまだ赤子だけど、圧倒的に強い!
私の未来の夫はやばいわ!!!
『ギルデン?ねぇ?なんで返事しないの?ねぇ!!!』
6-10 ラトル
統一歴0年6月25日
○ ???・????
子供が泣いている。廃墟と化した村の片隅で唯一聞こえる生き物の声。子供の傍に母親らしき塊が血を流して倒れている。息はしていない。
当たり前だ、さっき僕が殺したんだから。
神様に感謝しないといけない。うるさい教師も、警察も、法律も、僕を見下す陽キャもいない。僕より弱いやつらを殺し放題のこの世界!こんな天国に転生させてくれたんだから。
しかも、この身体!最高だ!力があふれている!
ずっと疑問だったんだ。転生ものの小説を読んでも、アニメを見ても、いい子ちゃんで品行方正な主人公たち。圧倒的に強いのに、力を隠してバレたら逃げて?せっかく捕まえた美人の奴隷を犯さずハーレム作って?誰も殺さない?馬鹿なんじゃないの?まぁ、童貞が書いてるんだから臭くて当たり前か。かく言う僕もついさっきまで童貞だったんだけどね!
手に集まった魔力を炎に変え、泣いている子供にぶつけた。泣き声が聞こえなくなった。
女も子供も動物も魔物も殺し放題!やりたい放題だ!前世で僕を馬鹿にしていた奴らの分も!殺して!殺して!犯して!殺してやる!
あ、そうだった!神様から一個だけ命令されてたっけか。僕と同じ転生者の殺害だっけ?
僕と同じでチート能力を持ったガキらしいけど。どれほどのチートかは分からないけど、まぁ、僕には神から貰ったチート能力も、最悪このナイフもあるし、なんとかなるでしょ。
黒光りするナイフからは禍々しい力が溢れ出ている。クソカッケェ。どんなやつでも一回だけ、願うだけで、必ず殺せるナイフ。なんだよそれ、そんなの使って何が楽しいのよ?
まぁ、僕はそんな楽しくない殺しをやるつもりはないけどね。チートを持って主人公気取ってるガキを捕まえて、周りの仲間たちを目の前で殺して!最後に惨めに切り刻んで殺してやる!
ガキを殺せば後は自由だ!この世界中の人間を殺し尽くすのも僕の自由だ!あぁ!楽しみで仕方ない!でも、せっかくだから、ゆっくり遠回りしながら、お楽しみは後に取っておこう!
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