第17話 世界の動きがやばい

「やぁ!見つけた!白岡一郎君!新入生代表の挨拶、見させてもらった!見事だったよ!」

「一郎君!この後カフェーでもどうだ。女給の子がとても可愛いんだ!君も付き合えよ。」

「一郎!どうやら早苗が身籠ったみたいなんだ!俺もついに父親か!楽しみだなぁ!」


 妻の笑顔を見ると蘇る。記憶の中にある秋山さんはいつも笑顔だった。同時に、秋山さんはまだどこかで生きている、という錯覚に囚われる。この時、どこか心が救われたように感じる。そんな自分が死ぬほど嫌いだ。


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5-10 コト

統一歴0年5月16日

○ アキツ・ジロー・コト(6代目)


 領主館の地下、余にしか入れぬ部屋。20の頃、父から領主権の禅譲を受けて以来、遠征以外の日には必ず訪れる。石碑に示される自身の領が減っていないことに安心し、増えていないことに焦燥を覚えるために。


 アキツ家にとって領主権の継承、領主になると言うことは呪い、呪縛の継承に等しい。


 初代から続く世界の統一への執念を受け継ぎ、次代へ受け継がせなくてはいけない呪い。自分の父親が、祖父が、曽祖父が、血反吐を吐き、命を削りながら勤める領主という呪縛。


 その呪いの重さを現すかのように、アキツの領主を務めた者は、その権限の禅譲後、1.2年で死ぬ。呪いが心と体を蝕み、生きる力を失わせたかのように。


 父から受け継いだ領地、拡張することはできず維持することで精一杯だった二〇数年、余の体も衰えが出始め、息子への禅譲を考え始めていた。


 そんな中ほんの三月前から世界の動きが変わり始めた。まず、マーロで領域主の再討伐がなされた。バルディ・ソリニウス、草の者から優秀な領主であると報告が上がっている。再討伐は想定の範囲ではあった。


 人の領地が維持されたことに安心していると、北方スロンに新たな領主が誕生した。ギルデン・シシリウス。これまでその名を聞いたこともない領主の登場に驚く。スロンは格SSの領域主が治める地。SSの地は、神子であり40領以上を平定した初代ですら手が出せなかったのだ。無名の人間に討伐できるとは思えなかった。


 が、ギルデンはスロンだけでなく北方の難所を3領、瞬く間に平定してしまった。北方は領域主の格の高い領が多く侵入すら出来ず情報が入ってこない。


 人の領の増加に驚いていると、今度はバルディがさらに3領を僅か一月で平定してしまった。圧倒的な速さでの多領の平定。世界の何かが変わり始めていると感じた。


 ギルデン、バルディという領主の登場により世界に動きがで始めた。彼らがこのまま領土を拡張させ人の領地を増やすつもりなのかは分からない。ぜひそうあってもらいたいと思う。


 ただ、彼らはまだ知らない。この世界の仕組みは、領の拡張よりも維持の方が難しいということを。


 神子であり、圧倒的な魔力を誇った初代はその版図を48領にまで広げた。残り2領で帝位につける、その後もさらに領土を拡張させ、世界を統一する。はずであったのだ。だが、そうはならなかった。各地の領域主の復活に対応するうちに初代の寿命が尽きたのだ。


 領域主は10年で復活する。この世界の理は版図が広がれば広がるほど重くのしかかってくる。48領を治めているということは、10年で48体の領域主を討伐し続けるということになる。そんなことは人の身には不可能なのだ。


 余自身も25領の維持で精一杯。先代達から受け継いだ効率的な領域主への対応という情報を知っていても、拡張など不可能に近かった。


 ギルデンとバルディがどう動くかもう暫く見るべきだろう。それまでは息子への禅譲を先延ばしにしておく。可能であれば、この呪いを息子に継がせたくはないのだから。


3-5 テティアル

統一歴0年5月16日

○ レオン・シャルリウス・テティアル


 バルディの野郎が4領の領主になりやがった。鉄腕を崩壊させた張本人が、世界の表舞台で活躍していることに腹が立つ。同時に、あいつは俺の幼馴染なんだ、という自慢のような感情が湧いてくる自分自身にさらに腹が立つ。


 あの時、あの野郎が!不用意なことを言わなければ!鉄腕は今も存在していたはずだ!あいつが団長で、俺が副団長あたりをやって。俺たちが組んでいたらもっとすげぇことができたはずだ。今更一人で、俺抜きで何をやってやがる。


 分かっているさ。俺もガキじゃない。ただの八つ当たりだ。鉄腕の団長が、あいつの親父が死んだ時、俺もあいつも10代のガキでしかなかった。尊敬するソリーニ団長が死んだ事実を受け止めきれず、バルディを恨み、全ての責任をあいつになすりつけ、暴言を吐き、現実から逃げる事しかできなかった。


 俺の親父は鉄腕の、団長の左腕だったが、団を見限り自分の団を立ち上げた。多くの鉄腕の主力を引き抜いて。だが所詮は左腕、団長ほどの力はなく、団を纏めきれずに中途半端に死にやがった。バルディを、ソリーニ団長を裏切ったことを後悔しながら。


 情けねぇ死に方だ。泣けてくる。


 団を引き継いだ俺はテティアルの領主になり、傘下の傭兵団を動かしながら、なんとか現状を維持している。世間では傭兵領主なんて呼ばれているが、所詮は1領の領主でしかねぇ。4領のあいつと随分差をつけられたもんだ。

 

 このままじゃ終われねぇ。終われねぇんだ。死んだ親父や、ガキだった俺自身がみじめになっちまう。見とけよバルディ。傭兵領主の意地を見せてやるよ。


5-7 マーロ

統一歴0年5月22日

○ キャベリ・オルファーニ


 お館様が遠征に出られて一ヶ月が経過しました。シャテル様との約束の期限まで残り1週間程度。お館様からは何の連絡も入っていませんが、連絡がないということは順調に進んでいるということなのでしょう。


 ピアスからリポリの道を建設に入ったという報せも届いています。もしかしたら既に3領の平定は終えているかもしれませんね。


 ナーブを加えて5領の統治。ここからは私や文官の出番です。安定した領地経営を行い、お館様を必ず帝位につけて見せましょう。


 突然、地面が大きく揺れ始めました。ビオスの山々は活きています。そのため、地震が起きることはありますが、そんなレベルの揺れではありません。


 もしや、ビオスの噴火?窓から遠くをビオスの方角を見ますがそのような兆候は見て取れません。ようやく揺れが収まりました。どういうことなのでしょう。世界の動きがやばいですね。


「キャベリ様!至急、領主館から出てください!」


 また、この伝令ですか。彼が来ると何かしら起こります。呪いか何かを持ってるんじゃないですかね。


「領都の被害ですか!?大きな揺れでしたからね。まずは領民の安全を確保するように各所に伝えて下さい。」


「いえ、領都に被害はありません!揺れていたのは領主館だけです!」


「はぁ?またですか!情報は正確に・・・いえ、いつも正確に伝えてくれてましたね。失礼しました。外に出ればいいのですね。すぐに出ます。」


 外に出てみると確かに領都の建物には何の被害も出ていません。あれだけの揺れで?領民も慌てておらず静かなものです。本当に領主館だけが揺れていた?振り返って領主館を見てみます。


でかくなってるやんけーーーーー!!!

なんか、館がでかくなってるやんかーーーーー!!!


 木でできた民家を4つ並べて上にもう一つ積み上げた程度の大きさだった領主館が4、5倍に大きくなり煉瓦のような素材になっています。見た目も領主の住居らしくかなり立派に見えますね。


そりゃ揺れるわ!!!

というか揺れだけで済むとか意味わからんわ!!!

これ、何が起こってるのーーーー!!!!?

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